複数の給食施設を原因とした腸管毒素原性大腸菌O148による広域食中毒事例−横浜市
(Vol. 33 p. 12-13: 2012年1月号)

2011(平成23)年9月、横浜市内の4カ所の事業所で腸管毒素原性大腸菌O148(以下ETEC O148)による集団食中毒事例が相次いで発生した。この4事業所は異なる企業の社員食堂であったが、同一の給食事業者が運営する給食施設であった。この事業者が運営する給食施設を原因とする食中毒事例は他に山梨県、長野県、神奈川県、相模原市、東京都の各自治体においても相次いで発生し、患者数が数百名規模となる広域食中毒事例であった(本号9ページ参照)。

当所では、市内で発生した4事例について原因菌検索および分離菌株のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による解析を行ったので報告する。

ETEC O148の分離方法および結果
便検体はSS寒天培地とDHL寒天培地に塗抹した。平板上の大腸菌様コロニーを確認培地(TSI 寒天培地、リジン脱炭酸培地、SIM培地、シモンズクエン酸塩培地)に釣菌して大腸菌を同定した。その結果、多くの患者便からオキシダーゼ陰性、TSI寒天培地で斜面・高層部酸産生およびガス産生、リジン脱炭酸能陽性、SIM培地でH2S陰性、インドール反応陽性、インドールピルビン酸反応陰性、運動性陽性、シモンズクエン酸塩培地陰性であって、病原大腸菌O148免疫血清に凝集する大腸菌が分離された。このことから、本食中毒事例の起因菌である可能性を疑い、Smart Cycler IIsystem(Takara)を用いて、国立保健医療科学院・平成22年度新興再興感染症技術研修における遺伝子検査法マニュアル記載のプライマーとプローブを使用したTaqMan probe法により大腸菌の病原遺伝子stx1 stx2 、LT、STIa(STp)、STIb(STh)、aggR の検索を行った。その結果O148免疫血清に凝集する大腸菌すべてがSTIbの遺伝子を保有していたことから、ETEC O148による食中毒事例と推定して検食とふきとり検体からの菌検索を試みた。なお、H型は28であった。

検食とふきとり検体は、Trypticase Soy Broth(日本ベクトンディッキンソン)での37℃6時間培養と、ノボビオシン加mEC培地(栄研化学)での42℃一夜培養の2種類の増菌方法を併用した。培養した増菌培地1mlを遠心し、その沈渣を100μlの滅菌蒸留水に浮遊させ100℃10分加熱したものをPCR用の試料とし、前出と同様にSTIb遺伝子の検出を行った。小口切りネギを含む4検体がノボビオシン加mEC培地でSTIb遺伝子陽性となったが、Trypticase Soy Brothでは、4検体とも遺伝子陰性であった。そこで、STIb遺伝子陽性となったノボビオシン加mEC培地の培養液を用いて免疫磁気ビーズ法を行った。Dynabeads M-280 Sheep anti-Rabbit IgG(Invitrogen)に病原大腸菌O148血清(デンカ生研)を感作させ、増菌培地1mlについて大腸菌O148を集菌しSS寒天培地とDHL寒天培地で分離培養を行った。

以上の結果をに示した。今回の広域食中毒事例においては240検体の検査を行い4事業所すべてからETEC O148が分離された。その内訳は患者便由来23株、従業員便由来2株、検食由来4株(「小口切りネギ」2株、「小口切りネギ、ワカメ」、「冷奴」各1株)の計29株で、ふきとり検体からは分離されなかった。

PFGEによる解析結果
PFGE法は、米国CDCのPulseNetのEscherichia coli O157:H7プロトコルに準じて行い、制限酵素Xba I による切断パターンを解析した。その結果、横浜市における分離株はに示したようにタイプA、C、D、E、F、Gの6種類の泳動パターンに分かれた。に示したとおり、検食由来株、従業員由来株はすべてタイプA、患者由来株は6株を除き、17株がタイプAであった。

他の自治体で分離された株についても、国立感染症研究所(感染研)で当市の株も含めてPFGEを行った結果、タイプA、B、C、D、E、F、Gの計7種類の泳動パターンに分かれ、そのほとんどはタイプAであった。これらの結果や疫学情報から、食品中にもともとタイプAのETEC O148が存在しており、タイプB〜Gは、タイプAの株がヒトの体内で変異した亜型であろうと考えられた。

近年、食品流通の広域化・複雑化、外食産業のチェーン展開の増加に伴って食中毒が広域で発生しやすい状況になってきている。そのような場合、患者発生が複数の自治体で散発的・広域的にみられる傾向になっている。実際、今年に入ってからも北陸、関東地方で発生した腸管出血性大腸菌O111およびO157による焼肉チェーン店の食中毒、東北地方で発生した赤痢菌によるファミリーレストランの食中毒等、複数の自治体において患者発生がみられる事例が続発している。このような事例においては、感染研や各地方衛生研究所(地研)間での分離菌株の生化学的性状や、培養方法、PFGE画像等の迅速な情報共有をはかることが起因菌の検索の効率および精度を上げることにつながっていくと思われる。とりわけ複数の菌で汚染されている食品から起因菌を検出することは容易ではない。今回の事例でも、感染研および各地研と電話やメールを介して情報共有を行った。効率的に起因菌を検出し、患者由来株との比較をすることで原因食品や汚染経路の解明等につながり、被害の拡大や再発防止を図ることができると思われた。

横浜市衛生研究所
松本裕子 山田三紀子 小川敦子 小泉充正 太田 嘉

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