国立感染症研究所 感染症情報センター
Go to English Page
ホーム疾患別情報サーベイランス各種情報
◆ アメーバー赤痢 2007年(2008年6月18日現在)

 わが国におけるアメーバ赤痢の発生動向は、感染症法(1999年4月施行)のもとで、診断した全ての医師に届出が義務付けられ、把握されている。かつて伝染病予防法のもとで法定伝染病の「赤痢」に含まれて届け出られていた当時は、症状のない無症状病原体保有者(シスト排泄者)も届出対象とされていたが、現在は、無症状病原体保有者は届出対象ではない。
 近年アメーバ赤痢の報告数は増加しており、2007年も引き続き増加した。また、2006年4月の届出様式の変更により、病型(腸管アメーバ症、腸管外アメーバ症)が追加され、症状及び診断方法が選択式となり、情報は以前より確実になった。そこで、アメーバ赤痢の2007年の発生状況について記述する。
 なお、感染症法施行以降2006年までの発生状況については、感染症週報(IDWR)第9巻第44号速報アメーバ赤痢1999年4月〜2006年(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2007/idwr2007-44.pdf)、病原微生物検出情報(IASR)特集アメーバ赤痢1999年4月〜2002年12月及び2003〜 2006(http://idsc.nih.go.jp/iasr/24/278/tpc278-j.html 及びhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/28/326/tpc326-j.html)に掲載している。

報告の概況
 2007年の報告数は801例であり、2000〜2007年の年間報告数は毎年10%前後(8〜17%)の増加がみられている(図1)。推定あるいは確定として報告された感染地域は、国内が81%、国外が18%、不明が1%であった(図1)。都道府県別では、東京都、大阪府、神奈川県、愛知県、兵庫県の順に多く、また、人口10万対報告数では、東京都(1.30)、宮城県(1.15)、滋賀県(1.07)、大阪府(1.02)、神奈川県(0.91)、京都府(0.91)の順に多く、大都市を抱える都道府県に多かった(図2)
 発病月の記載があった585例についてみると、国内感染例、国外感染例ともにばらつきはあるが年間を通して発症しており、明らかな季節性は認められなかった(図3)

図1. アメーバ赤痢報告数の感染地域別・年別報告数(1999年4月〜2007年) 図2. アメーバ赤痢の都道府県別報告数と人口10万対報告数2007年 図3. アメーバ赤痢の感染地域別・発症月別報告数2007年

 病型別では、腸管アメーバ症77%(616例)、腸管外アメーバ症17%(135例)、腸管及び腸管外アメーバ症6%(50例)であった。
 死亡の報告は5例あった。全て男性で、腸管アメーバ症3例(50代2例、70代1例)、腸管外アメーバ症1例(30代)、腸管及び腸管外アメーバ症1例(70代)であった。感染症法の届出は原則として診断時のみであるため、届出時点以降の死亡例が十分反映されていない可能性があり、届け出た医師には届出後の死亡についての追加報告をお願いしたい。

 任意に記載された情報の範囲であるが、他の病原体の重複感染として、HIV及びジアルジア1例、HIV3例、クラミジア1例、また、基礎疾患として大腸がん1例が報告された。本疾患の感染状況を把握する上で重要な情報であるので、届け出る医師には重複感染や基礎疾患についての積極的な報告をお願いしたい。

性・年齢
 801例の性別では男性(686例)/女性(115例)=6.0/1.0で男性に多い。年齢の中央値は45歳(4〜93歳)、男性のみでは47歳(4〜93歳)、女性のみでは34歳(10〜89歳)であり、男性の罹患年齢がやや高かった。
 感染地域別にみると、国内感染例での男女比は男性(557例)/女性(89例)=6.3/1.0で、年齢の中央値は45歳(13〜93歳)、男性のみでは46歳(13〜93歳)、女性のみでは36歳(14〜89歳)であった。国外感染例での男女比は男性(120例)/女性(26例)=4.6/1.0で、年齢の中央値は46.5歳(4〜77歳)、男性のみでは50歳(4〜77歳)、女性のみでは26歳(10〜49歳)であった。国外感染例は国内感染例と比較して、男女比が小さく、年齢は男性では高く、女性では低かった。
 病型別にみると、腸管アメーバ症のみの症例での男女比は男性(522例)/女性(94例)=5.6/1.0で、年齢の中央値は45歳(4〜93歳)、男性のみでは47歳(4〜93歳)、女性のみでは33.5歳(10〜89歳)であった。腸管外アメーバ症のみの症例での男女比は男性(122例)/女性(13例)=9.4/1.0で、年齢の中央値は47歳(24〜79歳)、男性のみでは48歳(24〜79歳)、女性のみでは37.0歳(24〜54歳)であった。腸管外アメーバ症のある症例(腸管外アメーバ症+腸管及び腸管外アメーバ症)としてみると、男女比は男性(164例)/女性(21例)=7.8/1.0で、年齢の中央値は47.0歳(20〜79歳)、男性のみでは48.5歳(24〜79歳)、女性のみでは38歳(20〜56歳)であった。腸管外アメーバ症を伴うものは男性により多い傾向があり、また、男女ともに、腸管外アメーバ症を伴う症例の年齢が、腸管アメーバ症のみの場合より高かった。

感染経路
 感染地域別、男女別に、感染経路をみた。
 国内感染例では、不明が男女ともに最も多く、男性(557例)で48%(269例)、女性(89例)で58%(52例)を占めた。不明以外では、男女ともに性的接触、次いで飲食物による経口感染の順であった。性的接触は、男性で33%(185例)、女性では26%(23例)を占め、男性では同性間85例(性的接触185例の46%)、異性間71例(同38%)、異性間及び同性間4例(2.2%)の順に多く、女性では異性間19例(性的接触23例中の83%)がほとんどであり、同性間2例、性別不明2例であった(表)。特に男性の異性間性的接触は、2004年以降著明な増加が認められている(図6)。年齢群別にみると、性的接触は、男性では30代、40代、50代、60代、20代の順であるのに対し、女性では30代、20代の順で、さらに10代の報告もあり、男性に比して女性の罹患年齢がやや若い傾向が認められた(図4)
 国外感染例では、飲食物による経口感染が男女ともに最も多く、男性(120例)では69%、女性(26例)では92%を占めた(表)。年齢群別にみても、飲食物による経口感染がいずれの年齢群でも多く、性的接触は、男性では30〜70代、女性では40代の報告があった(図5)

図4. アメーバ赤痢国内感染例の年齢群別・感染経路別報告数2007年 図5. アメーバ赤痢国外感染例の年齢群別・感染経路別報告数2007年 表. アメーバ赤痢の感染経路別報告数2007年
図6. 性的接触を感染経路としたアメーバ赤痢の感染地域別・性別・年別報告数(1999年4月〜2007年)

症状
 病型別に報告された症状の出現頻度をみた(図7)(複数回答あり)。
 図中及び以下の文中に挙げる症状名は届出様式にあらかじめ表示されているものであり、その他の内容は自由記載されたものである。

 腸管アメーバ症のみの症例(616例)では、粘血便67%、下痢62%、腹痛28%、しぶり腹19%、発熱11%、鼓腸4.2%、腹膜炎1.5%が認められ、その他の症状としては、血便・下血2.8%のほか、他の症状がなく検便による便潜血陽性のみのものが4.9%、大腸内視鏡異常所見のみのものが0.8%あり、これらは自覚症状がないものの健康診断などによりアメーバ赤痢の診断がなされたものと考えられる。
 腸管外アメーバ症のみの症例(135例)では、肝膿瘍93%、発熱59%、腹痛26%、右季肋部痛24%、肝腫大13%、胸膜炎3.0%、腹膜炎2.2%であり、その他の症状としては、腸腰筋膿瘍(1例)などがあった。
 腸管及び腸管外アメーバ症の症例(50例)では、いずれかの病型のみの場合と比較して、発熱(74%)、腹痛(56%)、腹膜炎(8.0%)などの出現頻度がやや高い傾向がみられた。

診断方法
 病型別に診断方法と用いられた検体の頻度をみた(図8)(複数回答あり)。
 届出基準として定められている診断方法は、1.顕微鏡下での病原体の検出(検体:便、大腸粘膜、膿瘍液)、2.ELISA法による病原体の抗原の検出(検体:便、大腸粘膜、膿瘍液)、3.PCR法による病原体の遺伝子の検出(検体:便、大腸粘膜、膿瘍液)、4.血清抗体の検出である。

図7. アメーバ赤痢の症状2007年 図8. アメーバ赤痢の診断方法2007年

 腸管アメーバ症のみの症例では、顕微鏡下での病原体の検出94%(うち検体が便20%、大腸粘膜77%、膿瘍液0.7%)、ELISA法による病原体の抗原の検出1.5%、PCR法による病原体の遺伝子の検出0.5%、血清抗体の検出19%であった。症例における各検査の実施率は不明だが、腸管内症状のみの者では血清抗体は必ずしも上昇しないことが従来指摘されている。
 腸管外アメーバ症のみの症例では、顕微鏡下での病原体の検出36%(うち検体が便15%、大腸粘膜4%、膿瘍液71%)、ELISA法による病原体の抗原の検出2.2%、PCR法による病原体の遺伝子の検出0.7%、血清抗体の検出76%であった。なお、アメーバ赤痢は、感染症法において無症状病原体保有者を届出対象としていないため、便や大腸粘膜から病原体が検出されていても、アメーバ赤痢による腸管症状が認められないとされた報告は腸管外アメーバ症に分類した。
 腸管及び腸管外アメーバ症の症例では、顕微鏡下での病原体の検出66%(うち検体が便39%、大腸粘膜45%、膿瘍液15%)、PCR法による病原体の遺伝子の検出2%、血清抗体の検出50%であった。

まとめ
 2007年のアメーバ赤痢の報告数は、国内感染例、国外感染例ともに前年よりさらに増加した。国内感染例では性的接触による感染として報告されたものが多く、特に男性での異性間性的接触によるとする報告の著しい増加傾向が認められている。わが国においては男性同性愛者や知的障害者施設における集団感染などが注目されてきたが、最近はCSW(コマーシャルセックスワーカー)にも感染が拡大しているとの報告もあり、男性同性愛者間などの比較的限られた集団における問題として捉えてはならないと考えられる。また、アメーバ赤痢患者が梅毒、HIV、B型肝炎等の性感染症を合併していることも報告されており、これらの性的接触によって感染する疾患について、総合的な性感染症対策としての取り組みが重要である。




IDWR 2008年第48号「速報」より掲載)
Copyright ©2004 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.