国立感染症研究所 感染症情報センター
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日本脳炎日本脳炎 Q & A


Q1 日本脳炎に関する日本の状況としては、どのような情報があるでしょうか?


図1. 日本脳炎患者数

図2. ブタの日本脳炎ウイルス感染状況 2000-2006年

図3. ブタの日本脳炎ウイルス感染状況 2006年

図4. 年齢別/年齢群別日本脳炎予防接種率 2006年

図5 年齢別日本脳炎中和抗体保有状況 2006年

図6. 年齢別日本脳炎中和抗体保有状況の年度別比

図7. 地域別日本脳炎患者報告数 2000〜2008年6月(2008年6月末現在)

A1
 日本脳炎ウイルスに感染しても、ほとんどの人は気がつかない程度ですんでしまい、ごく少数の人が発病するにすぎません。その発病率は、100〜1000人に1人程度と考えられています。しかしいったん脳炎症状を起こすと、致死率は20〜40%前後と高く、回復しても半数程度の方は重度の後遺症が残ります。

 わが国の日本脳炎患者発生数は、ワクチン接種の推進、媒介蚊に刺される機会の減少、生活環境の変化等により、その数は著しく減少し、近年では、年間数名程度の発生にとどまっています(図1:感染症発生動向調査より)。

 しかし、日本脳炎ウイルスの保有動物であるブタにおける感染状況(日本脳炎ウイルスに対する免疫(抗体)保有率-感染症流行予測調査より-)をみると、西日本を中心に毎年広い地域で抗体陽性のブタが確認されています(図2)。つまり、まだ国内では、西日本を中心に日本脳炎ウイルスに感染しているブタが多数存在することになります。

 また、図3に示したように、ブタが日本脳炎ウイルスの感染を受け始める時期は、6〜7月頃に、九州、中国、四国地方から始まり、8〜9月にかけてその地域が広がっていくのがわかります。

 2005年5月30日の、厚生労働省による日本脳炎ワクチン積極的勧奨の差し控え以降、3〜4歳での日本脳炎ワクチンの接種率が激減しました(図4:2006年度感染症流行予測調査より)。

 その結果、ヒトの日本脳炎に対する抗体保有状況は(図5)、2006年度の0〜4歳群でこれまでにない低い割合になっています(図6)。

Q2 地域によって、日本脳炎に関するリスクが異なると聞きました。日本脳炎ワクチンの接種を考慮した方がよいと考えられるのは、具体的には、どの地域に住んでいる、どの年齢層の人でしょうか?

A2
 図2に示した日本地図で、ブタの抗体保有率が常に高い九州、中国、四国地方等にお住まいの方、あるいは近年、日本脳炎患者発生が多く認められた地域(図7)にお住まいの方で、日本脳炎ワクチンの接種をこれまでに1度も受けたことがない定期予防接種対象者の方(具体的には、日本脳炎ワクチンを1回も受けていない現在3〜5歳のお子さま)は、夏になる前に、最初2回のワクチン接種(基礎免疫)をできれば考慮された方が良いのではと考えています。

 この年齢での接種に関しては、定期接種の扱い(費用の補助、万一の健康被害の際の救済等)になります。

 なお、接種にあたっては、Q4に記載した日本脳炎ワクチンによる副反応の情報とも考えあわせた上、主治医の先生とよくご相談下さい。

Q3 ブタの抗体保有率が高い地域に住んでいるのですが、近所には養豚場などはないようです。接種を考慮した方がよいでしょうか?

A3
 日本では、主にコガタアカイエカによって、ウイルスを保有するブタからヒトに日本脳炎ウイルスが伝播されます。蚊の活動範囲(飛行距離)は、8km程度移動したという報告もありますが、概ね2km前後とされています。

 近隣に養豚場がない場合でも、蚊の活動範囲や本人の行動範囲を考慮して、判断されるのが良いと思います。

 また、一般的には郊外より都市部で生活される方が、日本脳炎に対する感染のリスクは下がると考えられます。

Q4 日本脳炎ワクチン接種後の急性散在性脳脊髄炎(ADEM)はどのくらい報告されているのでしょうか?

A4
 
A5で示すとおりADEMは様々な要因で発症しますが、平成15〜16年の全国調査(回収率60.2%)で、ADEMと報告された15歳以下の患者さん101名の内、発症1か月以前にワクチン接種歴があったもの(先行感染ありを含む)は約15%(15名)で、ワクチン接種歴があったものの内、日本脳炎ワクチン後の報告は約25%(4名)でした。

 (平成17年度厚生労働科学研究『小児の急性散在性脳脊髄炎の疫学に関する研究(宮崎、多屋、岡部ら)』による。


 厚生労働省によると、因果関係は明らかにはされていないものの、予防接種後副反応報告として報告されたADEMは、平成6年度から平成18年度までの13年間に21件ですが、その、年齢分布は、3〜7歳(初回接種)で14件、10歳(2期接種)で1件、14〜15歳(3期接種)で6件となっています。

 予防接種後副反応報告として報告されたADEMの多くは、予防接種法に基づく健康被害救済制度の申請をされると考えられますが、厚生労働省によると、認定を受けた方の数は、平成元年〜平成19年3月までに16件で、その、年齢分布は、3〜7歳(初回接種)で10件、14〜15歳(3期接種)で6件となっています。

 平成7〜15年度日本脳炎ワクチンの定期予防接種実施者数は(平成17年5月に積極的勧奨の差し控え)、

  1. 初回接種(生後6〜90か月未満、標準的な接種年齢:3歳で2回、4歳で1回):約280万人/年
  2. 2期接種(9〜13歳未満、標準的な接種年齢9歳):約80万人/年
  3. 3期接種(14〜15歳、標準的な接種年齢14歳):約60万人/年

と報告されています。平成17年7月に、3期接種は中止になっています。

Q5 急性散在性脳脊髄炎(ADEM)は、様々な要因で発症するといわれていますが、どのようになっているのでしょうか?

A5
 
わが国における15歳以下のADEMおよびその周辺疾患(多発性硬化症を除く)の発症頻度は年間約60例程度、15歳以下の小児人口10万人あたり年間0.32であると推計されています。本調査(*)によるADEM発症の平均年齢は6歳11か月でした。

 また、宮崎らによる94〜95年,99〜01年,01〜02年におけるAND(acute neurological diseases: 小児急性神経系疾患)調査では、国内約10地域より59例のADEM(ほとんどは原因不明)の報告があり、発症のピークは6歳前後で、全治19%、軽快66%で死亡例はなかったと報告されています。

(2005年6月27日、国による日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨の差し控えについて−日本小児科学会コメントより:日本小児科学会ホームページ http://www.jpeds.or.jp/saisin-j.html

(*平成17年度厚生労働科学研究『小児の急性散在性脳脊髄炎の疫学に関する研究(宮崎、多屋、岡部ら)』による。)

Q6 新しいワクチンの開発状況はどうなっているのでしょうか?

A6
 現在国内では、これまでの日本脳炎ワクチンの製造法(原材料としてマウス脳を使用)とは異なり、ADEM発生の理論的リスクが低いと考えられている新たな日本脳炎ワクチンの開発が進んでいます。




なお,日本脳炎ワクチンの定期接種積極的勧奨の差し控えに関して、平成17年6月27日、日本小児科学会はコメント(別添資料)を発表していますが、国立感染症研究所感染症情報センターの意見はこれと同一です。(日本小児科学会のホームページは、2007年5月現在URL: http://www.jpeds.or.jp/saisin-j.html)です。


   (担当:国立感染症研究所 感染症情報センター

             

 

同    ウイルス第一部


別添資料 PDF)国による日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨の差し控えについて−日本小児科学会コメント(05.06.27)


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