国立感染症研究所 感染症情報センター
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日本脳炎日本脳炎 Q &A 第3版(平成22年6月30日一部修正)

Q1 日本脳炎に関する日本の状況としては、どのような情報があるでしょうか?
Q2 地域によって、日本脳炎に関するリスクが異なると聞きました。日本脳炎ワクチンの接種を考慮した方がよいと考えられるのは、具体的には、どの地域に住んでいる、どの年齢層の人でしょうか?
Q3 ブタの抗体保有率が高い地域に住んでいるのですが、近所には養豚場などはないようです。接種を考慮した方がよいでしょうか?
Q4 日本脳炎ワクチン接種後の急性散在性脳脊髄炎(ADEM)はどのくらい報告されているのでしょうか?
Q5 急性散在性脳脊髄炎(ADEM)は、様々な要因で発症するといわれていますが、どのようになっているのでしょうか?
Q6 新しいワクチンの開発状況はどうなっているのでしょうか?

Q1 日本脳炎に関する日本の状況としては、どのような情報があるでしょうか?


図1. 日本脳炎患者報告数(なお、2007年に報告された1例は2006年の発病である。)

図2. ブタの日本脳炎ウイルス感染状況 2000-2009年

図3. ブタの日本脳炎ウイルス感染状況 2009年

図4. 年齢別/年齢群別日本脳炎予防接種率 2009年

図5 年齢別日本脳炎中和抗体保有状況 2009年

図6. 年齢別日本脳炎中和抗体保有状況の年度別比

図7. 地域別日本脳炎患者報告数 2000〜2011年7月(2011年7月末現在)

A1
 日本脳炎ウイルスに感染しても、ほとんどの人は気がつかない程度の軽い症状あるいは無症状ですんでしまいますが、ごく少数の人は髄膜炎あるいは脳炎,脊髄炎を発病します。脳炎の発病率は、日本脳炎ウイルスに感染した100〜1000人に1人程度と考えられています。しかしいったん脳炎症状を起こすと、致死率は20〜40%前後と高く、回復しても半数程度の方は重度の後遺症が残ります。

 わが国の日本脳炎患者報告数は、ワクチン接種の推進、媒介蚊に刺される機会の減少、生活環境の変化等により、その数は著しく減少し、近年では、年間数名程度の発生にとどまっています(図1:感染症発生動向調査より)。

 しかし、日本脳炎ウイルスの増幅動物であるブタにおける感染状況(日本脳炎ウイルスに対する免疫(抗体)保有率-感染症流行予測調査より-)をみると、西日本を中心に毎年広い地域で抗体陽性のブタが確認されています(図2)。つまり、まだ国内では、西日本を中心に日本脳炎ウイルスに感染しているブタが多数存在することになります。

 また、図3に示したように、ブタが日本脳炎ウイルスの感染を受け始める時期は、6〜7月頃に、九州、中国、四国地方から始まり、8〜9月にかけてその地域が広がっていくのがわかります。

 2005年5月30日の、厚生労働省による日本脳炎ワクチン積極的勧奨の差し控え以降、2009年度の調査でみると、3〜7歳での日本脳炎ワクチンの接種率が激減しました(図4:2009年度感染症流行予測調査より)。

 その結果、ヒトの日本脳炎に対する抗体保有状況は(図5)、2009年度の0〜7歳群でこれまでにない低い割合になっています(図6)。


Q2 地域によって、日本脳炎に関するリスクが異なると聞きました。日本脳炎ワクチンの接種を考慮した方がよいと考えられるのは、具体的には、どの地域に住んでいる、どの年齢層の人でしょうか?

A2
 2010年4月1日から、3歳児への初回接種については、積極的勧奨が再開されています。また、図2に示した日本地図で、ブタの抗体保有率が常に高い九州、中国、四国地方等にお住まいの方、あるいは近年、日本脳炎患者発生が多く認められた地域(図7)にお住まいの方で、日本脳炎ワクチンの接種をこれまでに1度も受けたことがない定期予防接種対象者の方(具体的には、日本脳炎ワクチンを1回も受けていない現在3〜7歳半のお子さま)は、夏になる前に、最初2回のワクチン接種(基礎免疫)をできれば考慮された方が良いのではと考えています。

 ところが、従来から用いられてきた「マウス脳由来の日本脳炎ワクチン」の使用期限が2010年3月9日までで終了したため、2010年6月現在、このワクチンは使用できません。2009年6月2日の省令改正以降は、2009年2月23日に薬事法に基づき製造販売承認がなされた「乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン」の接種が定期接種の扱い(費用の補助、万一の健康被害の際の救済等)になりましたので、現在使用できるワクチンは「乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン」のみとなっています。

 なお、接種にあたっては、Q4 に記載した日本脳炎ワクチンによる副反応の情報や、厚生労働省から出された日本脳炎ワクチン接種に係るQ&Aとも考えあわせた上、主治医の先生とよくご相談下さい。


Q3 ブタの抗体保有率が高い地域に住んでいるのですが、近所には養豚場などはないようです。接種を考慮した方がよいでしょうか?

A3
 日本では、主にコガタアカイエカによって、日本脳炎ウイルスを保有するブタからヒトに日本脳炎ウイルスが伝播されます。最近、日本の野生イノシシから日本脳炎ウイルスが分離されたという報告もあります。蚊の活動範囲(飛行距離)は、8km程度移動したという報告もありますが、概ね2km前後とされています。

 近隣に養豚場がない場合でも、蚊の活動範囲や本人の行動範囲を考慮して、判断されるのが良いと思います。

 また、一般的には郊外より都市部で生活される方が、日本脳炎に対する感染のリスクは下がると考えられます。


Q4 日本脳炎ワクチン接種後の急性散在性脳脊髄炎(ADEM)はどのくらい報告されているのでしょうか?

A4
 
A5で示すとおりADEMは様々な要因で発症しますが、2003〜2004年に入院施設を有する小児科医療機関約3000箇所に対して実施した全国調査(回収率60.2%)によると、ADEMと報告された15歳以下の患者さん101名の内、発症1か月以前にワクチン接種歴があったもの(先行感染ありを含む)は約15%(15名)で、ワクチン接種歴があったものの内、日本脳炎ワクチン後の報告は約25%(4名)でした。

 (2005(平成17)年度厚生労働科学研究『小児の急性散在性脳脊髄炎の疫学に関する研究(宮崎、多屋、岡部ら)』による

 厚生労働省によると、予防接種後副反応報告として報告されたADEMは、1994(平成6年)度から2009(平成21)年度までの16年間に25件ですが、その、年齢分布は、3〜7歳(初回接種)で18件、9〜12歳(2期接種)で1件、14〜15歳(3期接種:2005年7月29日に中止)で6件となっています。「乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン」の接種が開始された2009年6月2日以降、2010年6月30日までに、乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン接種後のADEMの報告が1件ありましたが、ワクチンとの因果関係は明らかにはされていません。

 予防接種後副反応報告として報告されたADEMの多くは、予防接種法に基づく健康被害救済制度の申請をされると考えられますが、厚生労働省によると、日本脳炎ワクチンの関与が否定できないとして認定を受けた方の数は、1989(平成元)年〜2010(平成22)年3月までに18件で、その、年齢分布は、3〜7歳(初回接種)で11件、9〜12歳(2期接種)で0件、14〜15歳(3期接種)で7件となっています。

 1995(平成7)〜2008(平成20)年度日本脳炎ワクチンの定期予防接種実施者数は(2005(平成17)年5月に積極的勧奨の差し控え)、厚生労働省のホームページhttp://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/other/5.htmlに公表されています。積極的勧奨が差し控えられる前の実施者数は、

  1. 初回接種(生後6〜90 か月未満、標準的な接種年齢:3 歳で2 回、4 歳で1 回):約280 万人/年
  2. 2期接種(9〜13 歳未満、標準的な接種年齢9 歳):約80 万人/年
  3. 3期接種(14〜15 歳、標準的な接種年齢14 歳):約60 万人/年

と報告され、2005(平成17)年7月に、3期接種は中止になっています。http://idsc.nih.go.jp/vaccine/2005reg/vacc-reg04.pdf

 積極的勧奨が差し控えられた後の実施者数はそれぞれ、

  1. 初回接種(生後6〜90 か月未満、標準的な接種年齢:3 歳で2 回、4 歳で1 回):約63 万人/平成17 年度・約12 万人/平成18 年度・約37万人/平成19年度・約58万人/平成20年度
  2. 2 期接種(9〜13 歳未満、標準的な接種年齢9 歳):約19 万人/平成17 年度・約2 万人/平成18 年度・約5万人/平成19年度・約8万人/平成20年度
  3. 3 期接種(14〜15 歳、標準的な接種年齢14 歳):約13 万人/平成17 年度・平成18 年度以降は中止

と報告されています。


Q5 急性散在性脳脊髄炎(ADEM)は、様々な要因で発症するといわれていますが、どのようになっているのでしょうか?

A5
 
わが国における15歳以下のADEMおよびその周辺疾患(多発性硬化症を除く)の発症頻度は年間約60例程度、15歳以下の小児人口10万人あたり年間0.32であると推計されています。本調査(*)によるADEM発症の平均年齢は6歳11か月でした。

 また、宮崎らによる1994〜1995年,1999〜2001年,2001〜2002年におけるAND(acute neurological diseases: 小児急性神経系疾患)調査では、国内約10地域より59例のADEM(ほとんどは原因不明)の報告があり、発症のピークは6歳前後で、全治19%、軽快66%で死亡例はなかったと報告されています。

(2005年6月27日、国による日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨の差し控えについて−日本小児科学会コメントより:日本小児科学会ホームページ http://www.jpeds.or.jp/saisin-j.html

(*2005(平成17)年度厚生労働科学研究『小児の急性散在性脳脊髄炎の疫学に関する研究(宮崎、多屋、岡部ら)』による。)


Q6 新しいワクチンの開発状況はどうなっているのでしょうか?

A6
 これまでの日本脳炎ワクチンの製造法(原材料としてマウス脳を使用)とは異なり、Vero細胞培養由来の乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンが2009(平成21)年2月23日に薬事法に基づき製造販売承認がなされ、2009(平成21)年6月2日の省令改正とともに、定期接種のワクチンとして位置づけられました。

 Vero(ヴェーロ)細胞:1962(昭和37)年に千葉大学医学部細菌学教室の安村美博先生によって樹立されたアフリカミドリザル腎臓由来株化細胞です。“Vero”は、“Verda Reno”の略で、Verda(緑色)のReno(腎臓)と言う意味があり、”Vero“にはエスペラント語で「真理」という意味もあります。Vero細胞に関しては、この細胞のもう一人の立役者である同教室ご出身の清水文七先生の著書「ウイルスがわかる」(講談社ブルーバックス)および「ウイルスの正体を捕らえる ヴェーロ細胞と感染症」(朝日選書)に詳しく書かれていますので、そちらをお読みください。

 
ただし、2010年6月現在、定期接種の第1期の予防接種のみに使用されています。

 一方、従来の日本脳炎ワクチン「マウス脳由来日本脳炎ワクチン」は、2010年3月10日に有効期限を過ぎてしまいましたので、2010年6月現在、定期接種の第2期として使用できる日本脳炎ワクチンがありません。そのため、第2期でも「乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン」の使用ができるように最終的な検討が行われている最中です。まもなく「乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン」による第2期の接種も可能となります。

 ただし、「任意接種」として「乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン」を接種することは今でもできますので、予防接種を受ける病院や診療所の先生とご相談ください。


平成22年7月12日


   (担当:国立感染症研究所 感染症情報センター

             

 

同    ウイルス第一部


別添資料 PDF)厚生労働省 日本脳炎ワクチン接種に係るQ&A(平成23年7月改訂版)


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