国立感染症研究所 感染症情報センター
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病原体 Q1 多剤耐性アシネトバクターとは何ですか?
疫学 Q2-1 海外での状況はどのようになっていますか?
Q2-2 国内での状況はどのようになっていますか?
症状 Q3 多剤耐性アシネトバクター感染症の症状はどのようなものですか?
感染経路 Q4 多剤耐性アシネトバクターにはどのように感染するのですか?
治療 Q5 多剤耐性アシネトバクター感染症はどのように治療するのですか?
予防と対策 Q6-1 多剤耐性アシネトバクターは日常生活で感染する危険がありますか?
Q6-2 多剤耐性アシネトバクターの感染を防ぐために日常生活での注意点はありますか?
Q6-3 多剤耐性アシネトバクターに対する病院の対策はどのようなものですか?

<病原体>

Q1

多剤耐性アシネトバクターとは何ですか?

A1
 アシネトバクターは土壌や河川水などの自然環境中に生息する環境菌です。健康な人の皮膚などから見つかることもありますが,通常は無害です。アシネトバクターには多くの種類があり、人の感染症例からはアシネトバクター・バウマニが最も多く検出されます。通常、感染症の流行は集中治療室の患者やその他の重症患者で起こり、医療機関の外で起こることは滅多にありません。多剤耐性アシネトバクターは、通常のアシネトバクター感染症の治療に使用する抗菌薬がほとんど効かなくなっている菌のことです。日本での定義は、カルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系の抗菌薬全てに耐性を示す株とされています。


<疫学>

Q2-1

海外での状況はどのようになっていますか?

A2-1
 当初は欧米で多剤耐性アシネトバクターが問題となり、近年は中国や韓国、東南アジア諸国でも流行が報告されるようになっています。米国では、1990年代に多剤耐性アシネトバクターによる病院感染事例が多発し、その後全米の医療施設に急速に広がりました。


Q2-2

国内での状況はどのようになっていますか?

A2-2
 日本で検出される多剤耐性アシネトバクターは、その多くが海外から流入してきた菌株と考えられています。過去に知られている集団発生は、2008年福岡県であり、単発例としては、2009年千葉県や2010年愛知県の事例があります。厚生労働省の院内感染対策サーベイランス(Japan Nosocomial Infections Surveillance:JANIS)によると、2007年7月から2009年12月までに報告されたアシネトバクター属の中で、多剤耐性アシネトバクターと判定された菌株は71,657株中98株(0.14%)でした。多剤耐性アシネトバクターは9割が入院患者から分離されていました。同期間中に急激な増加は認められていません。


<症状>

Q3

多剤耐性アシネトバクター感染症の症状はどのようなものですか?

A3
 
多剤耐性アシネトバクターは、主に細菌感染症に対する抵抗力が低下した患者に人工呼吸器関連肺炎、血流感染症、創部感染症など様々な病気を引き起こしますが、症状は病気の種類によって異なります。また、感染症や症状を起こさずに付着しただけの保菌状態となることも多く、専門家による慎重な判断が必要です。


<感染経路>

Q4

多剤耐性アシネトバクターにはどのように感染するのですか?

A4
 
多剤耐性アシネトバクターは、一度発生すると病院内に広がることがあります。特に人工呼吸器のような湿度の高い環境を好む一方で、乾燥した環境でも数週間以上生存できることが知られています。このため、人の皮膚や医療機器、てすり等の院内環境に生息します。手洗いや消毒が不完全であると、汚染された医療器具や医療従事者の手などを通じて、他の患者に伝播することがあります。したがって、主な感染経路は接触感染となります。呼吸器感染症をきたした場合は、そこから飛沫感染の形で伝播する可能性がありますが、空気感染することはありません。


<治療>

Q5

多剤耐性アシネトバクター感染症はどのように治療するのですか?

A5
 保菌状態の場合、必ずしも治療の必要はないことがあります。治療が必要と判断された場合は抗菌薬の投与を行ないますが、その選択や投与量については確立されていません。欧米ではコリスチン(ポリミキシンE)やポリミキシンBがしばしば使用されていますが、この抗菌薬の注射薬は現在日本では未承認です(かつて使用されたことがありますが、腎毒性等から使用されなくなり、現在未承認扱いとなっています)。多剤耐性ではないアシネトバクターに対しては、現在日本国内で販売されている抗菌薬で治療可能です。アシネトバクター感染症は抵抗力の低下した患者で発症することが多い背景もあり、これらの抗菌薬を使用しても治療が難しいことがあります。


<予防と対策>

Q6-1

多剤耐性アシネトバクターは日常生活で感染する危険がありますか?

A6-1
 アシネトバクターは、通常は健康な人に感染しても害を及ぼすことの少ない菌です。土壌や河川水などの自然環境中に生息する菌ですが、砂遊びや水遊びで感染することはほとんどありません。また、診療所の外来などで感染する心配はほとんどありません。日常生活で多剤耐性アシネトバクターに感染する危険はさらに低いと考えられます。



Q6-2

多剤耐性アシネトバクターの感染を防ぐために日常生活での注意点はありますか?

A6-2
 健康な人への感染はほとんど心配ありませんが、砂遊びや水遊びのあとは普通の石鹸で十分手洗いをすることで感染を予防することができます。特に、病院に入院している方を見舞う場合は、病室に入る前後に石鹸で手洗いを行うようにしてください。


Q6-3

多剤耐性アシネトバクターに対する病院の対策はどのようなものですか?

A6-3
  アシネトバクターは環境中で長期間生存するため、菌が付着した医療器具を使用することにより感染を起こす可能性があります。また、手洗いが不適切な場合、手指の接触により感染が広がる恐れがあります。そのため、アシネトバクターの病院感染を防ぐには、院内の環境を清潔に保ち、医療器具の消毒や手洗いを徹底することが重要です。


<参考文献>
■米国CDCホームページ
http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/ar_acinetobacter.html
■英国HPAホームページ
http://www.hpa.org.uk/Topics/InfectiousDiseases/ InfectionsAZ/Acinetobacter/
■IASR 2010年7月号
http://idsc.nih.go.jp/iasr/31/365/inx365-j.html
N Engl J Med 2008;358:1271-81.
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra070741
■Clin Infect Dis 2008;46:1254-63.
http://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/529198?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%3dncbi.nlm.nih.gov


(2010/9/8 IDSC 更新)

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