国立感染症研究所 感染症情報センター
Go to English Page
ホーム疾患別情報サーベイランス各種情報
コレラ

コレラ 2008年(2009年5月7日現在)

 コレラは1〜5日(通常1日以内)の潜伏期の後に、下痢や嘔吐で急激に発症する腸管感染症である。殆どの場合、腹痛や発熱はみられない。典型的症状は激しい水様性下痢(重症例では米のとぎ汁様)と脱水であるが、近年の報告症例では軽症であることが多い。しかし、胃腸の弱い人(胃切除者など胃酸の働きが低下している人)や高齢者、乳幼児では重症化して死亡することもあり、軽視できない疾患である。
 コレラは1999年4月施行の感染症法に基づく2類感染症として、疑似症患者、無症状病原体保有者を含む症例の届出が、診断した全ての医師に義務づけられた。2007年4月施行の法改正により、コレラは3類感染症に変更され、患者及び無症状病原体保有者が届出対象(疑似症患者は対象外)となった。また、WHOの報告基準では、コレラ毒素産生性のO1血清型コレラ菌およびO139血清型コレラ菌によるものと定義されており、わが国でも同じ定義を用いている。

 コレラの年間報告数は1999年(4月〜)39例、2000年58例、2001年50例、2002年51例、2003年24例、2004年86例、2005年56例、2006年45例で、2007年は13例と激減したが、2008年は45例であった(図1)

 2008年の45例は、患者(有症状者)44例、無症状病原体保有者1例であった。45例の性別は男性21例、女性24例で、年齢中央値は58歳(1〜89歳)であった。確定または推定として報告された感染地域は、国内が23例、国外が22例で、2000年以降では初めて国内感染例が上回った(図1)。死亡の報告はなかった。ただし、届出時点以降での死亡については十分反映されていない可能性があり、発生があった場合の追加・修正報告を自治体に依頼している。
 患者44例について報告された症状としては、下痢・軟便は全例にあり、そのうち、米のとぎ汁様の下痢は8例(18.2%)にみられていた。その他は、嘔吐9例(20.5%)、脱水8例(18.2%)、虚脱5例(11.4%)、血圧低下4例(9.1%)、無尿4例(9.1%)、頻脈3例(6.8%)、筋痙攣3例(6.8%)、体重減少2例(4.5%)であった。また、1例で胃切除歴があった。
 診断のための検査は、届出基準に従い、全例が便からの菌分離と毒素の確認がなされていた。毒素確認方法は、毒素産生の確認28例、PCRによる毒素遺伝子の確認13例、両方による確認4例であった。

 国内を感染地域とする23例は、性別では男性9例、女性14例であり、年齢群別では30代1例、50代6例、60代8例、70代2例、80代6例で、年齢中央値は65歳(33〜89歳)であった(図2)。感染した都道府県(推定又は確定として報告されたもの)は、埼玉県10例、宮城県、長野県各4例、東京都2例、千葉県、大阪府、沖縄県各1例であった。感染地が埼玉県の10例中8例(患者7例、無症状病原体保有者1例)は、3〜4月に発生した同一飲食店が原因施設と推定された食中毒事例(O1小川型)であった(病原微生物検出情報IASR Vol.30 p98-99.2009 http://idsc.nih.go.jp/iasr/30/350/kj3501.html)。また、8月に発生した宮城県での感染4例と埼玉県での感染1例は、国外から持ち込まれた冷凍生ウニが感染源と推定された関連者間での集団感染事例(O1小川型)であった(図3)。コレラ菌の血清型は、O1が22例で、O139が1例大阪府から報告され、O139は国内では2006年の1例に次いで2例目の報告となった。O1(22例)の抗原型は全て小川型、生物型はエルトール型21例、検査未実施1例であった。

 国外を推定感染地域とする22例は、性別では男性12例、女性10例であり、年齢群別では10歳未満1例、20代4例、30代3例、40代5例、50代5例、60代3例、70代1例で、年齢中央値は44歳(1〜70歳)であった(図2)。感染国別では、インド、インドネシア、フィリピンが各6例で多く、他はパキスタン2例、インド/ネパール1例、パキスタン/中国1例であった(図4)。コレラ菌の血清型はすべてO1で、抗原型は小川型21例、検査未実施1例であった。また、生物型は、エルトール型17例、検査未実施3例(うち1例は抗原型検査未実施)、不明2例であった。

図1. コレラの年別・感染地域別報告数(2000〜2008年) 図2. コレラの感染地域別・性別・年齢群別報告数(2008年)n=45 図3. コレラの感染地域別・発症月別報告数(2008年)
図4. コレラの感染国割合(2008年)

 報告数の増減は、流行の発生、流行地への渡航、集団感染の発生など様々な要因が関与すると考えられるが、検疫法改正により2007年6月以降は原則的には検疫所で検便が実施されなくなったことも一要因として考慮する必要がある。検疫所からの報告は、2006年(4〜12月)5例、2007年1例(5月に診断)であったが、2008年は報告がなかった〔届出医療施設名が国まで報告されるようになったのは2006年4月以降〕。
 予防策として、わが国には従来からの不活化注射ワクチンがあるが、効果が低いことや副反応が多いことなどから、余り勧められていない。海外ではより効果が高く、副反応の少ない経口ワクチン(不活化および生ワクチン)2種類が発売されており、コレラの高度流行地域へ出かける援助関係者などに、必要に応じて接種されることがある。
 コレラは途上国において未だくりかえし発生し、時に多くの命をうばっている疾患である。渡航に際しては、各種感染症の流行情報を把握し、コレラ流行地域へ渡航する場合には、生水、氷、生の魚介類、生野菜、カットフルーツなどを避けることが肝要であり、また、無理な旅行日程などによって体調をくずし、抵抗力を落とさないよう心がけることも大切である。



感染症週報 IDWR 2009年32週号に掲載)


Copyright ©2004 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.