国立感染症研究所 感染症情報センター
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◇ 腸管出血性大腸菌感染症 2004年(2005年1月28日現在)


腸管出血性大腸菌感染症は感染症法(1999年4月1日施行)に基づく3類感染症として、患者および無症状病原体保有者について、診断した全ての医師に届出が義務付けられている。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の定期検便によって偶然発見される場合もあるが、探知された患者と食事を共にした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。

年次推移(図1)
 2004年の腸管出血性大腸菌感染症の報告数(診断週が2004年第1〜53週のもので、2005年1月20日までに報告されたもの)は3,643例で、これは2000年以降の年間累積報告数と比較すると、2001年に次いで多く、2000年とほぼ同数であった。有症状者が2,462例(68%)、無症状病原体保有者が1,181例(32%)であり、感染症法施行以降では有症状者の占める割合が最も高かった。
図1. 腸管出血性大腸菌感染症発生の年次推移


推定感染地域
 2003年にはオーストラリアへの修学旅行に伴う集団発生(福岡県.61例:2次感染の1例を含む)があったが、2004年は韓国への修学旅行に伴う集団発生事例が2件あった。そのため、国外の占める割合が1999〜2003年と比較して、わずかではあるが増加し、推定感染地域を国内とするものが3,320例(91%)、国外とするものが151例(4%)、不明が172例(5%)となった。国外を推定感染地域とする151例の推定感染国をみると、韓国が134例(うち、修学旅行関連が131例)、中国6例で、その他に台湾、ベトナム、インドネシア、パキスタン、キプロスなどであった。インドネシアでの感染は毎年報告があり、韓国での感染も2003年を除き、毎年報告がある。


週別推移(季節性)(図2)
例年、最大のピークは夏季にみられる傾向がある。2004年においても、7月中旬から9月上旬にかけて報告数の多い週が続いた。
図2. 腸管出血性大腸菌感染症の年次別・週別発生状況

都道府県(図3)
 東京都(274例)、大阪府(251例)、岡山県(192例)、福岡県(186例)、石川県(175例)で多く、9つの都府県で年間累積報告数100例を超えた。また、人口10万人当たりの罹患率でみると、石川県(14.83)が最も多く、次いで岡山県(9.83)、鳥取県(8.66)が多かった。岡山県は保育施設での集団発生が複数あり、石川県(103例:2次感染の1例を含む)と鳥取県(30例:2次感染の1例を含む)では、ともに韓国への修学旅行による集団発生があった。
図3. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告数と罹患率(2004年)

性・年齢群(図4)
 性別では男性1,690例、女性1,953例で、年齢は0〜100歳(中央値16歳)であった。年齢群別にみると、10歳未満1,540例(0〜4歳996例、5〜9歳544例)、10代543例、20代489例、30代336例、40代198例、50代207例、60代162例、70歳以上168例であった。20歳未満では男性がわずかに多く、20歳以上では女性が多くなっており、年齢中央値は男性11歳に対し、女性は18歳と差が認められた。
図4. 腸管出血性大腸菌感染症の年齢群別・性別症状の有無(2004年)

 症状の有無でみると、有症状者の占める割合は若年者と高齢者に高く、特に10歳未満と10代では80%を占め、60代、70歳以上では60〜70%を占めた。一方、男性の30〜40代、女性の30〜50代では有症状者は40%前後で、無症状病原体保有者の方が多かった。

血清型・毒素型(表1)
 血清型はO157(約65%)、O26(約20%)、O111(約5%)の順で、これは従来と同様であった。毒素型も加えると、O157 VT1・VT2が1,264例(他の型との重複感染例5例を含む)と最も多く、次いでO157 VT2が831例、O26 VT1が657例(他の型との重複感染6例を含む)であった。また、本年はO111 VT1・VT2が140例(他の型との重複感染例4例を含む)と過去の年に比べ多かったが、このうちの103例(73.6%)は、2004年7月に発生した修学旅行に伴う集団発生によるものであった。
表1. 腸管出血性大腸菌の血清型と毒素型 2004年

 また、4月初旬から中旬にかけて石川県、福井県、岡山県、香川県で散発的に発生した事例の菌の遺伝子型において、パターンの一致が認められ、調査が実施されたが原因の解明には至らなかった。


重症例・死亡例
 溶血性尿毒症症候群(HUS)は48例で記載されており、有症状者の1.9%であった。性別では男性16例、女性32例で、年齢群別では10歳未満が39例(5歳未満は28例)と最も多く、10代2例、20代1例、60代1例、70歳以上5例であった。血清型・毒素型ではO157 VT1・VT2が19例、O157 VT2が15例、O157毒素型不明が5例で、O157が全体の81%を占めた。他は、O111 VT1・VT2が2例、O26 VT1・VT2が2例、その他が5例であった。死亡は5例で記載されていたが、その年齢は2歳2例、3歳1例、70代1例、80代1例であり、血清型・毒素型はO157 VT1・VT2が2例、O26 VT1・VT2が1例、O26 VT1が1例、O111 VT1・VT2が1例であった。HUSの合併や死亡例については、届け出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があるので、このような転帰が判明した場合には報告の修正をお願いしている。


2004年のまとめ

 2004年は感染症法施行以降、2番目に報告数が多い年度となった。年齢群別では有症状者、無症状病原体保有者ともに0〜9歳が最も多く、報告数全体の42%を占め、特に0〜4歳が多かった。また、相変わらず各地で保育施設での集団感染事例が発生した。保育施設などでの人から人への感染を防ぐためには、タオルの共用を避けることや、普段からの手洗い(特にオムツ交換時)、園児への排便後・食事前の手洗い指導を徹底することが重要である。また、海外での感染も発生しており、特に2003年、2004年と海外への修学旅行に伴う大規模な集団発生が起きているので、注意が必要である。
 原因の特定には至らなかったが、菌の遺伝子型パターンの一致から広域集団発生が疑われた事例もあった。現在、地方衛生研究所・国立感染症研究所などにおける菌株の解析情報と、患者情報(疫学情報)を組み合わせたサーベイランスシステムによって、広域集団発生事例を迅速に探知する努力がなされている。
 腸管出血性大腸菌感染症は、依然として小児や高齢者にHUSなどの重症例や死亡例がみられるので、2005年も引き続き、発生動向調査での推移を注意深く見守る必要がある。

IDWR 2005年第11号「速報」より掲載)



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