国立感染症研究所 感染症情報センター
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◇ A型肝炎 2004年(2005年1月20日時点)


A型肝炎はA型肝炎ウイルス(HAV)の感染により、2〜7週間と比較的長い潜伏期間ののち、発熱、全身倦怠感、食思不振、悪心・嘔吐、黄疸などの急性肝炎症状を起こす疾患である。小児では不顕性感染(80〜95%)のことが多く、逆に成人では顕性感染(75〜90%)が多い。HAVは糞口感染によって伝播するため、その発生状況は衛生環境に左右され、衛生環境の未整備な発展途上国では10歳までにほぼ100%が感染して、無症状のまま抗体を保有すると言われている。現在の日本においては、50歳以下での抗体陽性者は極めて少なくなっている。

A型肝炎は、1987年に感染症サーベイランス事業の対象疾患に加えられ、全国約500カ所の病院定点から月単位の報告により、その発生動向調査が開始された。その後1999年4月の感染症法施行から、急性ウイルス性肝炎の一部として全数把握疾患となり、診断した全ての医師に届け出が義務づけられるようになった。さらに2003年11月5日からは感染症法の一部改正によって、単独疾患として四類感染症に分類され、無症状病原体保有者を含む届け出となった。

感染症法のもとで報告されたA型肝炎の過去の年間報告数は、1999年(4月〜)761例、2000年381例、2001年491例、2002年502例、2003年303例であったが、2004年(診断日が2004年第1〜53週のもので、2005年1月20日までに報告されたもの)は139例と少なかった(図1)
図1. 急性ウイルス性肝炎の患者発生状況(2000〜2004年)

2004年の報告例における性別では、男性83例、女性56例であった。年齢は3〜87歳(中央値44歳)で、過去の年齢中央値と比較すると上昇傾向が認められた(図2)。推定感染地域は国内101例、国外29例、不明9例であり、2004年の報告数の減少は国内感染例の減少によるものであった(図3)
図2. A型肝炎患者の年次別年齢中央値の推移 図3. A型肝炎患者の年次別・推定感染地域別発生状況 図4. A型肝炎の性別・年齢群別報告数(2004年)

国内感染と推定された101例は、性別では男性53例、女性48例、年齢は5〜81歳(中央値:46歳)であり、年齢中央値には上昇傾向が見られる。年齢群別では10歳未満2例、10代10例、20代11例、30代17例、40代22例、50代23例、60代10例、70歳以上4例、80代2例で、30〜50代が多く、特に40代女性及び50代男性が多かった(図4)。都道府県別では東京都13例、北海道9例、大阪府7例が多く、一方、報告のない県は13県あった。これらは届け出があった自治体であり、感染地を意味するものではない。発症日の記載があった91例について発症月をみると、1月をピークに1〜5月に多く、6月以降は少ない傾向が認められた。これは、2001年を除く、2000〜2003年の報告においても同様であり(図5)、従来言われている通りである。推定感染経路は経口感染67例(うち1例は、経口感染または同性間性的接触)、不明が34例であった。経口感染の推定感染源をみると(複数回答あり)、牡蠣が17例、牡蠣以外の海産物が15例あった(図6)。感染経路や感染源の推定は、感染拡大防止策、感染予防策に有用な情報であるので、問診などによりできる限り具体的な情報を収集し、記載していただきたい。
図5. A型肝炎の年次別・発症月別報告数(2004年) 図6. A型肝炎の推定感染経路/推定感染源(2004年) 図7. A型肝炎国外感染例の推定感染国(2004年、29例)

国外感染と推定された29例は、性別では男性23例、女性6例であり、年齢は3〜71歳(中央値:36歳)であった。年齢群別では、10歳未満4例、10代1例、20代6例、30代4例、40代7例、50代5例、60代1例、70歳以上1例であった(図4)。発症日の記載のあった26例について発症月をみると、特別な傾向は認められなかった(図5)。推定感染国をみると(複数国名の記載あり)、フィリピン6例、中国4例、インド3例、マレーシア3例、韓国2例など、アジアが全体の約3/4を占めていた(図7)。推定感染経路は、経口が26例、不明が3例で、経口感染の推定感染源は、牡蠣2例、牡蠣以外の海産物8例、水4例であった(図6)

なお、A型肝炎はワクチンによる予防が可能であり、わが国では16歳以上の者が任意接種として接種可能である。A型肝炎流行地・常在地への渡航予定者(特に長期滞在の場合)にはワクチン接種が勧められる。また、調理従事者や保育施設従事者などの感染予防、感染拡大防止にも有用である。

IDWR 2005年第6号「速報」より掲載)



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