国立感染症研究所 感染症情報センター
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◇ A型肝炎 2006〜2008年(2009年3月25日時点)

 A型肝炎は、A型肝炎ウイルス(HAV)の感染により2〜7週間と比較的長い潜伏期間ののち、発熱、全身倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐、黄疸などの急性肝炎症状を起こす疾患である。成人では顕性感染が75〜90%と多いが、小児では不顕性感染が80〜95%と多い。A型肝炎は、患者の糞便中に排泄されたHAVによる経口感染が主であることから、衛生環境の未整備な途上国では10歳までにほぼ100%が感染して、無症状のまま抗体を保有するといわれている。日本においては、上下水道の整備とともに感染機会が減少し、50歳未満での抗体陽性者は極めて少なくなっている。A型肝炎は1987年に感染症サーベイランス事業の対象疾患に加えられ、全国約500カ所の病院定点から月単位の報告により、発生動向調査が開始された。その後1999年4月の感染症法施行より、急性ウイルス性肝炎の一部として全数把握疾患となり、診断した全ての医師に届け出が義務づけられるようになった。さらに2003年11月5日からは感染症法の改正によって、単独疾患として四類感染症に分類され、無症状病原体保有者を含む届け出となった。
 感染症法施行以降のA型肝炎の発生状況については、病原微生物検出情報(IASR)特集急性ウイルス性肝炎1999.4〜12(http://idsc.nih.go.jp/iasr/21/242/tpc242-j.html)及び特集A型肝炎・E型肝炎2002年9月現在(http://idsc.nih.go.jp/iasr/23/273/tpc273-j.html)、感染症週報(IDWR)第7巻第6号速報A型肝炎2004年(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2005/idwr2005-06.pdf)及び第8巻第20号速報A型肝炎2005年(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2006/idwr2006-20.pdf)に掲載しているので、本速報では、2006〜2008年の3年間に診断・報告された発生状況について述べる。

 感染症法のもとで報告されたA型肝炎の過去の年間報告数は、1999年(4月〜)763例、2000年381例、2001年491例、2002年502例、2003年303例、2004年139例、2005年170例、2006年320例、2007年156例、2008年169例で、全体に減少傾向がみられ、2004年以降は、2006年の320例を除き100〜200例で推移している(図1)
図1. A型肝炎の感染地域別・年別報告数(2000〜2008年)

 2006〜2008年の3年間に報告された645例は、性別では男性375例、女性270例で、年齢は1〜93歳(中央値45歳)であった。年齢中央値は上昇傾向が認められ、2004年以降は44〜46歳で推移している(図2)。感染地域(推定または確定として報告されている)別では、国内469例、国外173例、不明3例であった。2006〜2008年における国内感染例は2006年に260例と多くみられたが、2007年、2008年は100〜110例の範囲であり、国外感染例は50〜60例で大きな変化はなかった(図1)。死亡例の報告はなかった。

図2. A型肝炎報告症例の年齢中央値の年次推移(1999年4月〜2008年) 図3. A型肝炎の感染地域別・性別・年齢群別報告数(2006〜2008年) 図4. A型肝炎の国内感染例の年別・都道府県別報告数(2006〜2008年)

 国内感染と報告された469例は、性別では男性258例、女性211例、年齢は1〜93歳(中央値:47歳)であった。年齢中央値は上昇傾向が認められ、2008年には52歳となった。年齢群別では10歳未満19例、10代18例、20代45例、30代75例、40代106例、50代99例、60代51例、70代30例、80代24例、90代2例で、30〜60代に多く、特に30〜50代の男性に多かった(図3)。都道府県別では大阪府58例、東京都46例、兵庫県35例、北海道29例、神奈川県26例、滋賀県23例、愛知県21例、新潟県18例、福岡県18例、岡山県17例からの報告が多かった。このうち、大阪府、兵庫県、滋賀県、愛知県、新潟県、岡山県などでは、2006年の報告数が他の2年と比べ特に多く、新潟県では5月に寿司店に関連した食中毒事例(10例)(IASR Vol.27 No.7 p12. http://idsc.nih.go.jp/iasr/27/317/pr3171.html)、滋賀県では8月に飲食店に関連した食中毒事例(15例)(IASR Vol.27No.12 p11-12. http://idsc.nih.go.jp/iasr/27/322/kj3221.html)の発生があった。一方、福井県、山梨県、鳥取県からは3年間に1例も報告がなかった(図4)

国内での詳細な感染地域として、都道府県名以下が報告されるようになったのは2006年4月であり、2006年4月以降の報告387例のうち328例で感染地としての都道府県名が報告された。その内訳は大阪府36例、東京都29例、北海道22例、兵庫県22例、神奈川県20例の順であり、報告地の都道府県と同様の順であった。季節性については、従来わが国では1〜5月に好発する傾向があるとされているが、発症月の記載があった397例では、報告数の多かった2006年において1〜6月に特に多く、従来言われている傾向とほぼ一致していた。2007、2008年では明らかな傾向は認められなかった(図5)
図5. A型肝炎の感染地域別・年別・発症月別報告数(2006年〜2008年) 図6. A型肝炎の感染地域別・経口感染の感染源(2006〜2008年)

感染経路は経口感染354例、不明が115例であった。経口感染の感染源(原因食材・食品)の記載のあった165例では(複数記載あり、記載総数=177)、カキ以外の海産物が74例、カキが73例、寿司が16例、肉類が7例、水が5例あった(図6)

 国外感染と報告された173例は、性別では男性115例、女性58例であり、年齢は1〜69歳(中央値:39歳)であった。年齢中央値は上昇傾向が認められるが、30〜40歳で推移している(図2)。年齢群別では10歳未満6例、10代10例、20代42例、30代31例、40代30例、50代37例、60代17例であった(図4)。発症月については特別な集積は認められなかった(図5)。感染国は、国名の記載があった170例では(複数記載あり、記載総数=190)、インド42例、フィリピン22例、韓国20例、インドネシア15例、中国13例、パキスタン10例などアジア諸国が大半を占め(図7)、アジアでの感染例は症例数として141例あった。感染経路は経口感染152例、性的接触2例、不明が19例であった。経口感染の感染源(原因食材・食品)の記載のあった50例では(複数記載あり、記載総数=56)、カキ以外の海産物が20例、水が19例、野菜・フルーツが10例、カキが5例、肉類が2例あった(図6)。また、家族や同一施設内での患者からの感染とされる報告が18例あった。

 症状の報告については、2006年4月に、それまでの自由記載から主な症状については選択可能な様式となり、従来に比べより確実な報告が得られるようになった。そこで、2007〜2008年に報告された325例のうち患者(有症状者)323例について症状をみると、肝機能異常272例(84.2%)、全身倦怠感262例(81.1%)、黄疸214例(66.3%)、食欲不振231例(71.5%)、発熱207例(64.1%)、肝腫大82例(25.4%)であり、その他の症状として、嘔吐、下痢などが記載されていた。
図7. A型肝炎の国外感染例の感染国(2006〜2008年)

 診断方法は、PCR法及び血清IgM抗体の検出によるものが14例で、PCR法が3例、血清IgM抗体の検出が627例であった(1例は、HA抗体検査による診断とされ、届出基準に規定されたIgM抗体検査を実施しておらず届出基準を満たしていなかったが、臨床経過等から自治体の判断により報告された)。
 A型肝炎に限らないことではあるが、感染経路や感染源を確定(または推定)することは、感染拡大防止策、感染予防策に非常に有用な情報となる。医療機関においては、問診などによりできる限り具体的な情報を収集し、その後の保健所等の調査に繋げることが望まれる。また、A型肝炎はワクチンによる予防が可能である。わが国では16歳以上の者が任意接種として接種が受けられ、A型肝炎流行地・常在地への渡航予定者(特に長期滞在の場合)にはワクチン接種が勧められる。また、調理従事者や保育施設従事者などの感染予防、感染拡大防止にも有用と考えられる。



IDWR 2009年第12号「速報」より掲載)



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