国立感染症研究所 感染症情報センター
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麻疹 C型肝炎 1999年4月〜2009年(2011年2月24日現在)


 現在、C型肝炎ウイルス(HCV)感染者は、我が国には100〜150万人、全世界には約1.7億人もの感染者が存在すると推定されている。HCV感染後15〜160日(平均7週間)の潜伏期間を経て急性肝炎を発症したのち、30〜40%ではウイルスが検出されなくなり、肝機能が正常化するが、残りの60〜70%はHCVキャリアになり、多くの場合、急性肝炎からそのまま慢性肝炎へ移行する。HCVに感染しているものの症状がない無症候性キャリア、不顕性感染者はHCV感染者の20〜30%を占めると考えられている。慢性肝炎から自然寛解する確率は0.2%と非常に稀で、10〜16%の症例は初感染から平均20年の経過で肝硬変に移行すると考えられている。肝硬変の症例は年率5%以上と高率に肝細胞がんを発症するとされ、肝がん死亡総数は年間3万人を超え、いまだに増加傾向にあり、その約8割がC型肝炎を伴っている。以上のように、HCV感染者は肝硬変、肝がんと病気が進行する可能性もあり、HCVは公衆衛生上最も重要な病原ウイルスの一つと考えられている。

 C型肝炎の発生動向の把握は、1987年に感染症サーベイランス事業(厚生労働省の予算事業)の対象に加えられ、全国約500カ所の病院定点から月単位の報告による調査として開始された。その後1999年4月の感染症法施行により、4類感染症の「急性ウイルス性肝炎」の一部として全数把握疾患となり、さらに2003年11月の感染症法の改正に伴い5類感染症の「ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)」に分類され、その発生動向が監視されている。届出対象は急性肝炎のみであり、慢性肝炎や肝硬変、肝がんは含まれない。C型急性肝炎と診断したすべての医師に、診断後7日以内に保健所への届出基準に基づく届出が義務付けられている。

 感染症法のもとで、1999年4月〜2009年に診断・報告されたC型肝炎についてまとめる。


年別発生状況:1999年4月以降、C型肝炎と診断され報告された年別の報告数は、1999年(4月〜)136例、2000年119例、2001年65例、2002年61例、2003年65例、2004年43例、2005年57例、2006年46例、2007年34例、2008年52例、2009年40例であった。1999年、2000年は100例を上回っていたが2001年にほぼ半減し、その後2003年までは60例台で推移して、2004年以降は60例に満たない報告数となっている。男女別にみると、2001年以降は、男性が21〜36例、女性が8〜36例の間で増減しながら推移している(図1)

月別発生状況:2000〜2009年に報告された582例全体の診断月別報告数では、9月が多く、10〜12月が比較的少なかったが、月毎の報告の多少は年によって様々であり、一定の傾向とはいえなかった(図2)

都道府県別報告状況:1999年4月〜2009年に報告された718例の都道府県別報告数は、大阪府126例、東京都55例、福岡県54例、兵庫県53例、静岡県37例の順に報告が多かった。一方、報告数3例以下の都道府県が14県あり、このうち3県は報告がなかった(図3)

 なお、2006年4月以降は届出を行った医療機関が把握できるようになっており、2009年までの期間に届出のあった医療機関当たりの報告数は、1医療機関で14例の届出があった以外は5例以下で、大半が1例の報告であり、特定の医療機関に集中していることはなかった。

図1. C型肝炎の男女別・年別報告数(1999年4月〜2009年) 図2. C型肝炎の年別・診断月別報告数(2000〜2009年) 図3. C型肝炎の都道府県別報告数(1999年4月〜2009年)

性・年齢分布:718例は、男性385例、女性333例で、男女比(男/女)は1.16/1であった。男女比が3.25/1であった2007年以外のほとんどの年では男女ほぼ同数であり、明らかな性差は認められなかった(図1)

 男女合計の年齢の中央値は51歳(範囲0〜90歳)〔男性49歳(範囲17〜85歳)、女性53歳(範囲0〜90歳)〕であった。年齢中央値の年次推移に明らかな上昇下降などの傾向は認められなかった(表)。年齢群別では、男女ともに30代及び50〜60代の2つのピークが認められ、14歳以下の小児や90歳以上の高齢者の報告はごくわずかであった(図4)

症状:届出票が疾患毎に個別のものとなり、症状の記載方法が変更された(自由記載形式から主な症状が選択形式となった)2006年4月以降に報告のあった161例の症状をみた。肝機能異常が143例(89%)の症例に認められ、全身倦怠感87例(54%)、黄疸56例(35%)、褐色尿31例(19%)、嘔吐19例(12%)、発熱19例(12%)の順に高い割合で認められていた。劇症肝炎は1例のみ報告された。また、その他の症状として、食欲不振、腹痛、掻痒感等の症状が自由記載されていた。2006年4月以降に死亡の報告はなかったが、1999年に2例報告があった。

診断方法:届出基準により、次の(1)、(2)2つの方法のいずれか、又は両方に当てはまる場合が届出の対象である。血清でHCV抗体が陰性で、かつHCVRNAまたはHCVコア抗原が検出された場合(1)、ペア血清で抗体の陽転、抗体価の有意な上昇が認められた場合(2)である。症状と同様に、診断方法の記載方法が変更された(個々の疾患の届出基準に応じた診断方法の選択形式となった)2006年4月以降に報告のあった161例の診断方法をみた。(1)及び(2)で診断された症例は25例(16%)、(1)のみで診断された症例は79例(49%)、(2)のみで診断された症例は57例(35%)であった。また、ペア血清で診断された合計82例の検査結果の詳細は、抗体陽転及び抗体価の有意上昇8例、抗体陽転のみ39例、抗体価の有意上昇のみ13例であり、検査結果の記載のないものが22例あった。

感染原因/感染経路:718例の感染原因/感染経路の報告は、不明が448例と過半数を占めた。不明を除く270例(男性151例、女性119例)で報告された感染原因/感染経路は複数回答を含め280あり、医療行為等に関連するもの(針刺し事故、透析、医療上の検査・処置、歯科治療、感染者検体、院内感染等)98例(35%)、性的接触60例(21%)、静脈薬物使用(届出票上の選択肢名は2006年3月まで静注薬物使用、4月以降は静脈薬物常用)36例(13%)、医療行為以外での針等の刺入(刺青、ピアス、カミソリ等)32例(11%)、輸血/血液製剤(届出票上の選択肢名は2006年3月までの輸血、4月以降は輸血・血液製剤)30例(11%)であり、他に鍼治療7例、家族等感染者との接触5例、母子感染3例などが報告された(図5)

表. C型肝炎の年別・男女別・年齢中央値(1999年4月〜2009年) 図4. C型肝炎の男女別・年齢群別報告数(1999年4月〜2009年) 図5. C型肝炎の感染原因/感染経路別割合(1999年4月〜2009年)

 さらに上位の感染原因/感染経路についての詳細をみた。医療行為等に関連するもの98例の詳細では、針刺し事故39例、院内感染(詳細は不明)28例、透析14例などが報告された。性的接触60例は、男性38例(異性間30、同性間5、不明3)、女性22例(異性間のみ)であった。また、男性同性間性的接触5例の報告年は、2008年2例(異性間は4例)、2009年3例(異性間は1例)であった。静脈薬物使用36例は、男性29例、女性7例で報告された。1999年(4月〜)5例、2000年10例の報告があったが、2001年以降は1〜4例の報告となっている。医療行為以外での針等の刺入32例では、刺青19例、ピアス2例などが報告された。輸血/血液製剤30例の報告年は、1999年10例、2000年5例で、2001年以降は0〜4例の報告であった。

 予防啓発が重要な性的接触、静脈薬物使用、医療行為以外での針等の刺入について年齢分布をみると、それぞれ30代後半、10代後半、30代前半にピークがみられた(図6)。また、50歳未満では不明が177例で53%を占めたのに対し、50歳以上では271例と71%を占めた。

図6. C型肝炎の主な感染原因/感染経路別・男女別・年齢群別報告数(1999年4月〜2009年)

感染地域:718例の感染地域は、国内661例、国外5例〔フランス、ブラジル、米国(グアム)、アジア、国不明が各1例〕、不明52例であった。

 また、2006年4月からは国内での感染例について、感染地の都道府県名が報告されるようになった。2006年4月〜2009年に報告された161例のうち国内感染例は159例であり、そのうち報告地都道府県と感染地都道府県が一致していたものが135例、異なるものが5例、感染地都道府県不明が19例あった。

まとめ:最近数年間のC型肝炎の報告は年間30〜60例の範囲でほぼ横ばいの状態が続いている。輸血による感染機会が減少した現在、C型肝炎の感染予防対策として重要なものは、針刺し事故等の医療現場での感染、性的接触、静脈薬物使用、刺青などの医療現場以外での針等の刺入である。性的接触、静脈薬物使用、刺青などの医療現場以外での針等の刺入は、それぞれ30代後半、10代後半、30代前半にピークがみられたことから、適切な時期に予防啓発を行う必要があり、性的接触では男性同性間性的接触に対する注意も必要と考えられた。また50歳以上では感染原因/感染経路不明の報告割合が大きかったが、予防に繋ぐためには、この年齢層の感染原因/感染経路の検討も今後必要と考えられる。

 診断については、報告された症状のうち、急性肝炎の典型的な症状である黄疸の頻度が35%にとどまっていることから、健診などで肝機能異常が指摘されるまでは診断が難しい症例が多いものと思われる。自覚症状がなく感染に気がついていない者がかなりいる可能性があり、これまで肝炎ウイルス検査を受けたことのない場合には機会を得て受検することが勧められる。

 最後に、報告から得られる情報は予防対策を考える上で必要であり、医療現場での診療にも役立つものと考えられ、診断した医師には届出の徹底をお願いしたい。


IDWR 2011年第21号「速報」より掲載)



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