国立感染症研究所 感染症情報センター
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オウム病 劇症型溶血性レンサ球菌感染症(1999年4月〜2006年)

 劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、A群溶血性レンサ球菌の感染によって起こる疾患として、1987年に米国で最初に報告され、わが国での最初の典型的な症例は1992年に報告された。本疾患は、発熱、疼痛(通常四肢の疼痛)で突発的に発症し、急速に病状が進行して、発病後数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、成人型呼吸窮迫症候群(ARDS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)などを引き起こし、ショック状態となる。その致死率は30%以上に及ぶとされる。
 本疾患は、感染症法(1999年4月1日施行)に基づく全数把握疾患として、診断したすべての医師に届出が義務付けられ、その発生動向が調査されている。届出基準は、1999年4月〜2006年3月までの期間においては、1)原因菌としてA群溶血性レンサ球菌の検出(血液または通常ならば菌の生息しない臓器から)、2)ショック症状、3)以下の症状のうち3つ以上:肝不全、腎不全、急性呼吸窮迫症候群、DIC、軟部組織炎(壊死性菌膜炎を含む)、全身性紅斑性発疹、痙攣・意識消失などの中枢神経症状の1)〜3)のすべて満たすものであった(症状名は新基準への変更の際に一部で表現が修正されたため、ここには新基準のものを表示した)。2006年4月からは、原因菌はA群に限らずβ溶血を示すレンサ球菌すべてとされ、また3)については3つ以上から2つ以上に変更された。
 届出基準変更の前後に分け、今回は主に変更前の報告分を中心に述べる。

<1999年4月〜2006年3月の発生状況(届出基準変更前)>

 1999年4月〜2006年3月の7年間の報告総数は396例であった〔1999年(4〜12月)21例、2000年44例、2001年46例、2002年92例、2003年52例、2004年52例、2005年60例、2006年(1〜3月)29例〕。2002年が多かったが、この理由は明らかではない。なお、同じA群溶血性レンサ球菌を原因とする感染症として、全国約3,000カ所の小児科から報告されているA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり累積報告数との比較では、年間の報告数に相関は認められなかった。2002年を除けば、年間50〜60例程度であり、罹患率にすると人口10万対0.04人程度(0.035〜0.047)となる(図1)
 396例について報告のあった都道府県をみると、東京都(49例)、愛知県(29例)、千葉県(24例)、兵庫県(23例)、神奈川県(18例)、静岡県(17例)、福島県(16例)が多かった(図2)。感染地域は、国内380例、国外2例(ブラジル、トルコ各1)、不明(国内か国外か不明)14例であった。国内を感染地域とする380例の最近数年間の居住地は、国内が377例、国外が1例(国不明:船員)、不明2例であり、国外を感染地域とする2例は、ブラジルの例はブラジルおよび日本、トルコの例は不明であった。
 発病月では(396例のうち発病月の記載があったもの375例)、月別に集計すると1月に最も多く、10月に最も少なかった。しかし、年により報告の多い月は異なっていた(図3)
図1. 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の年別報告数(1999年4月〜2006年3月)およびA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の年別定点当たり報告数(2000年〜2005年) 図2. 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の都道府県別報告数(1999年4月〜2006年3月) 図3. 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の発病月別報告数(1999年4月〜2006年3月)

 性別では男性233例、女性163例(男性/女性=1.4/1)であった。年齢の中央値は60歳(0〜99歳)〔男性60歳(0〜91歳)、女性60歳(2〜99歳)〕であった。性別に年齢群(10歳毎)別報告数をみると、男女ともに30代から増加し60代がピークで、60代の男性は特に多かった。女性では男性とは異なり、30代が40代の2倍で、50代、70代に近い報告数であった(図4)。また、報告は必須ではないが、妊産婦と記載のあったものが6例あり、すべて30代であった。
 死亡の報告は396例中150例あり、死亡割合(報告上の致死率)は38%〔男性233例中84例(36%)、女性163例中66例(40%)〕であった(図4)。死亡者の年齢中央値は61歳(0〜99歳)〔男性63歳(0〜91歳)、女性57歳(2〜99歳)〕であった。
 年齢群別・性別に死亡割合をみると、10歳未満および10代は男女ともに50%以上であった。20代および30代は男性ではそれぞれ死亡者なしと22%であるのに対し、女性ではそれぞれ50%、42%であった。70代以降は男性では50%以上だが、女性では30〜35%であった(図5)。妊産婦6例のうち死亡は4例であった。
 発病から死亡までの日数(死亡者150例のうち発病日と死亡日の記載があったものは143例)は、1日、2日、3日、0日の順に多く、3日以内が104例(73%)であり、7日以内では130例(91%)であった(図6)
 死亡の報告には、届け出時点以降の死亡例が十分反映されていない可能性がある。本疾患の致死率をより正確に把握する上で、死亡の確認は重要なので、届け出後に判明した場合には追加報告をお願いしている。
図4. 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の性別・年齢群別報告数(1999年4月〜2006年3月) 図5. 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の性別・年齢別死亡割合(1999年4月〜2006年3月) 図6. 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の発病から死亡までの日数(1999年4月〜2006年3月)

 推定感染経路は396例中313例(79%)は不明であった。記載のあった83例では、外傷部位などの皮膚からの感染とするものが55例、経口感染が8例、飛沫感染7例、接触感染が5例、その他が8例であった(表)
表. 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の推定感染経路(1999年4月〜2006年3月)

<2006年4〜12月(第52週)の発生状況(届出基準変更後)>

2006年4月〜12月の9カ月間に、新たな基準に基づき届け出られた劇症型溶血性レンサ球菌感染症は77例であった。77例の血清群は、A群62例、B群5例、C群3例、G群6例、血清群不明1例であった。A群の62例のうち、症状の記載から旧基準に該当するものと判定できたものが31例あり、基準の変更がなければ2006年の報告数は60例となり、2005年と同数であった(図7)
 新基準による届け出の開始により、A群溶血性レンサ球菌を原因とした症例の報告は増加し、B群、C群、G群を原因とした症例も報告されていた。血清群別の検討を含め、新基準による本疾患の今後の発生動向が注目される。

図7. 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の年別報告数(1999年4月〜2006年12月)

 劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、致死率の高い重篤な疾患であるが、一方でその発生機序は未だ解明されていない。重症化の危険因子と考えられる基礎疾患や先行感染症の存在などの臨床的情報、また、A群溶血性レンサ球菌の病原因子とされるM蛋白の型別や、薬剤感受性の把握を含めた病原体の詳細な解析は、本症の予防や診断・治療に非常に重要である。本疾患の病原体サーベイランスは、地方衛生研究所・国立感染症研究所から成る「衛生微生物協議会溶血性レンサ球菌レファレンスセンター」で行われている。本症の対策に資するため、可能な限り菌株を収集し、解析結果を還元することが必要であるので、関係者の協力をお願いする。

感染症発生動向調査週報 IDWR 2007年第38週掲載)


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