国立感染症研究所 感染症情報センター
Go to English Page
ホーム疾患別情報サーベイランス各種情報
◆ レジオネラ症 1999年4月〜2005年第44週



レジオネラ症はレジオネラ属菌(主にLegionella pneumophila )による感染症で、その病型には肺炎型と感冒様のポンティアック熱型があるが、後者は1968年に米国ミシガン州ポンティアックで、多数の急性発熱患者が出たことに由来する。肺炎型では、症状のみで他の病原体による肺炎と鑑別することは困難ではあるが、四肢の脱力や意識障害などの神経・筋症状を伴う例や、急速に全身状態が悪化する例があるので注意が必要である。レジオネラ属菌は、本来水中や湿った土壌などの自然環境に普通に存在している細菌であるが、15〜43℃で繁殖し、循環式浴槽水、空調施設の冷却塔水、給湯器の水などの人工的な温水中に生息するアメーバなどの原虫の細胞内で増殖している。

図1. レジオネラ症の年別累積報告数の推移
図2. レジオネラ症の発症月別報告数
そのため、打たせ湯、ジャグジー、加湿器、噴水などにより発生したエアロゾルを吸入することで、気道感染を起こして発症することが知られている。レジオネラ症は1999年4月の感染症法施行から全数把握の対象疾患となり、無症状病原体保有者を含め、診断したすべての医師に届け出が義務付けられている。届け出は肺炎型とポンティアック熱型に分類されておらず、届出票の症状記載からの判別も難しいが、ポンティアック熱は集団発生などで発見されることがあっても、散発例での診断は困難なことがほとんどなので、届け出患者のほとんどは肺炎型と推測される。

感染症法のもとで報告されたレジオネラ症は、1999年(4月〜)56例、2000年154例、2001年86例、2002年167例、2003年146例、2004年161例であり、2005年は、第19週(5月中旬)から増加傾向が認められ、第44週までに225例であった(図1)。集団感染事例として、2000年3月に静岡県(温泉:23例)、2000年6月に茨城県(総合福祉センター入浴施設:24例)、2002年7月に宮崎県(温泉:34例)で、いずれも循環式浴槽水による集団感染があり、また、2002年8月に鹿児島県(9例)で同じく循環式温泉施設によると推定される集団感染がみられた(IASR vol. 21 No9、IASR vol. 24 No2)(図2)。2005年においては明らかな集団発生事例の報告が認められないにもかかわらず、第44週までですでに過去最高の報告数となっている。都道府県別にみると、東京都20例、大阪府17例、埼玉県および愛知県15例、宮城県14例、神奈川県13例などが多かった。一方、1例も報告のない都道府県は6県みられた。ただしこれらの数値は必ずしも、感染を受けた都道府県を示すものではない。

1999年4月〜2005年第44週までの累積報告数995例のうち、発症日の記載のある934例(1999年4月以前の発症例を除く)についてみると、前述の集団発生を除けば、発症月に明らかな偏りは認められなかった(図2)

図3. レジオネラ症の性別・年齢群別報告数と罹患率 図4. レジオネラ症報告症例における検査法 図5. レジオネラ症における初診から診断までの日数

995例の性別では、男性867例、女性128例であり、男性が圧倒的に多く87.1%を占めた。また、年齢は0〜95歳(年齢中央値は63歳)であり、年齢群(10歳毎)別にみると0〜9歳(11例)、10〜19歳(4例)、20〜29歳(11例)、30〜39歳(15例)、40〜49歳(75例)、50〜59歳(266例)、60〜69歳(317例)、70〜79(236例)、80〜90歳(53例)、90歳以上(7例)で、50歳以上が88.3%を占めた。男性では60代をピークに50代、70代の順に多く、女性では70代、60代、50代の順に多かった。一方、罹患率(人口10万人当たり)の年齢分布をみると、報告数の分布とは異なり、男性では70代、60代、50代の順となり、女性では40代から90代まで年齢が上がるにつれて高くなった(図3)

死亡の報告は51例(男性40例、女性11例)で、致死率は5.34%である。ただし、感染症法の元では、届け出後に死亡した症例が反映されていないこともありうる。死亡例の年齢は0〜88歳(中央値68歳)であった。

995例のうち、診断方法が記載されていた968例について、年次別にその方法をみると、大きな変化が認められる。即ち、1999年には約20%を占めるに過ぎなかった尿中抗原検査法が、 年々その割合を増し、2005年(〜第44週)には約90%を占めるようになった。2005年の累積報告数255例について、検査法の記載されていた223例に限ってみると、尿中抗原のみが199例であり、尿中抗原+他の検査(PCR法、血清診断、培養)が6例、PCR法単独が4例、血清診断+培養が14例であった(図4)。また、この尿中抗原検査法の普及に伴って、診断に要した期間の短縮傾向が認められた(図5)

届出項目である「推定感染源・感染経路」について記載のあった565例についてみると、温泉252例(44.6%)、循環式浴槽水35例(6.2%)であった。

レジオネラ菌が土埃などとともに冷却塔、循環式浴槽、給湯設備、加湿器などの人工環境水系に混入することは避けられない。入浴施設などにおいては、人工環境水設備マニュアルに沿った適切な換水や清掃、消毒を行うことが求められる。

レジオネラ菌は細胞内寄生菌であることから、有効な抗菌薬を選択することが極めて重要である。臨床症状のみでは他の肺炎との鑑別はほとんど不可能であり、尿中抗原検査法の普及 は、診断率の向上と診断に要する期間の短縮をもたらし、本症の診断・治療に大きな功績を挙げたといえる。しかし尿中抗原検査の増加に伴い、従来行われていた喀痰などの検体の採取・保存の頻度が少なくなることも危惧される。温泉や入浴施設における集団発生が疑われる場合、あるいは家庭風呂であってもさらなる感染拡大を防止するためには、感染源を特定することが重要であり、そのため患者と環境(浴槽水など)から分離されたレジオネラ菌の細菌学的な解析が有用である。したがって、診療時の問診や保健所などの調査の際には、感染源・感染経路に関する疫学情報の収集を行うと同時に、菌分離の必要性を判断することが重要である。


感染症週報 IDWR 2005年44週号に掲載)
Copyright ©2004 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.