国立感染症研究所 感染症情報センター
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レプトスピラ症(2003年11月5日〜2005年4月7日現在)


 レプトスピラ症は、病原性レプトスピラによって起こる人獣共通の細菌(スピロヘータ)感染症である。病原性レプトスピラは保菌動物(ネズミ、イヌ、ウシ、ウマ、ブタなど)の腎臓に保菌されているが、尿中に排出され、この尿に汚染された下水や河川、泥などから経皮的に、ときには汚染された飲食物の摂取により経口的に感染する。5〜14日の潜伏期の後、悪寒、発熱、頭痛、全身倦怠感、眼球結膜充血、筋肉痛などの症状が出現する。臨床経過は、一過性の発熱と感冒様症状で経過する軽症型から、黄疸、出血、腎障害などが出現する重症型まで多彩である。「秋季レプトスピラ症(秋やみ)」、「イヌ型レプトスピラ症」は通常軽症のことが多く、「黄疸出血性レプトスピラ症(ワイル病)」は重症型の代表である。これらの異なる病型は、230以上知られている血清型の異なる病原レプトスピラによって起こる。

 わが国では従来、本疾患は届出の対象でなかったため、発生状況は正確には把握されていなかった。しかし、2003年11月5日施行の感染症法改正によって、新たに感染症法上の四類感染症に規定され、現在では診断したすべての医師に届け出が義務づけられている。

 2003年11月5日から2005年4月7日までに報告されたレプトスピラ症は、20例(2003年1例、2004年18例、2005年1例)であった。性別では男性16例、女性4例で男性に多く、年齢は20〜80歳(中央値47歳)で、年齢群別(10歳毎)では20代2例、30代4例、40代6例、50代2例、60代3例、70代2例、80代1例であった(表)。推定感染地域は、3例(インドネシア、タイ、マレーシア)を除く17例が国内であり、その内訳は、沖縄県7例、千葉県2例、長崎県2例で、東京都、神奈川県、徳島県、愛媛県、鹿児島県、九州地方が各1例であった。また、20例の推定感染機会としては、河川に関連したものが5例、農作業が5例、貯水池でのヘドロ除去作業が4例、下水道作業が1例、ビルの清掃作業が1例、イヌとの接触が1例、イヌ・ヤギとの接触が1例、不明が2例であり、ヘドロ除去作業の4例(沖縄県)以外は散発例であった。
表. レプトスピラ症の報告状況(2003年11月5日〜2005年4月7日)

 レプトスピラ症は、特に発熱・感冒様症状が主症状である軽症型では、見逃されていることも多いと考えられる。診断のためには症状、所見に加え、病原体との接触機会(職業、行動など)や渡航歴などの疫学情報を十分問診することが重要である。また本症を疑う場合には、病原体検査または血清抗体検査が必要である。病原体検査にはコルトフ培地やEMJH培地などの特殊な培地による分離培養と、PCR法による病原体遺伝子の検出がある。血清抗体検査は、ペア血清を用いて顕微鏡下凝集試験法(MAT法)により、血清型(血清群)特異的抗体を検出する。血清抗体検査は感染の確認になるが、さらに原因菌の血清型を把握することは、わが国におけるレプトスピラ症の疫学情報として重要である。なお、血清抗体検査としてラテックス凝集試験が行われることがあるが、現状のキットは偽陽性の多いことが指摘されており、少なくとも単一血清のみでの診断は行わないよう、注意が必要である。MAT法による検査は、国立感染症研究所細菌第一部に検査依頼が可能である。



IDWR 2005年第13号「速報」より掲載)



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