国立感染症研究所 感染症情報センター
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◇ マラリア 1999年4月〜2004年12月(2005年7月1日現在)


 マラリアは、ハマダラカの刺咬によりPlasmodium属のマラリア原虫が体内に侵入して起こる疾患であるが、ヒトに疾患を起すのは三日熱マラリア原虫(P. vivax)、四日熱マラリア原虫(P.malariae)、卵形マラリア原虫(P. ovale)、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)の4種類である。なかでも、熱帯熱マラリアは短期間で重症化あるいは死亡にいたる危険がある(重症マラリア)。地域的には亜熱帯・熱帯地方に広く分布するが、特にサハラ以南アフリカでは問題が大きい。流行地住民のみならず、旅行者が流行地から帰国して発症する輸入マラリアも問題となっており、全世界で年間3万人程度あるとされる。

 潜伏期間は熱帯熱マラリアでは1〜3週間、他は10日〜4週間のことが多いが、特に予防内服を行っている時などでは数カ月、あるいは1年以上になることもある。症状は、発熱、悪寒・戦慄、倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛などが主であるが、ときに悪心・嘔吐、下痢、腹痛などの腹部症状や、乾性咳嗽などの呼吸器症状がみられることもある。また、重症マラリアでは脳症、急性腎不全その他、合併症による様々な症状や所見を示す。

 診断には、ギムザ染色血液塗抹標本を光学顕微鏡で観察する顕微鏡法が基本である。しかし、熟練していない場合などには見逃しを生じやすく、原虫種鑑別も難しいことがあるので、補助的診断法として抗原検出法(国内未発売)やPCR法の併用も勧められる。

 治療では、特に熱帯熱マラリアでの薬剤耐性を考慮する必要がある。また、「熱帯病・寄生虫症に対する稀少疾病治療薬の輸入・保管・治療体制の開発研究」班(http://www.ims.utokyo.ac.jp/didai/orphan/index.html)が、わが国で認可されていない抗マラリア薬を保管している。さらに同研究班では、マラリアを含む輸入感染症に関する医療従事者からの相談を広く受けている。

 マラリアの予防は防蚊対策、予防内服、スタンバイ治療に分けられる。防蚊対策は全ての場合の基本であり、予防内服、スタンバイ治療はリスクに応じて行なうものと位置づけられるが、これらは主に、独立した専門分野である「旅行医学」で扱われている。わが国でも最近、「日本の旅行者のためのマラリア予防ガイドライン」が発刊された。

 以下に、1999年4月施行の感染症法の元でのマラリア報告症例の集計結果を示す。


1. 全マラリア
 わが国におけるマラリア報告数は、感染症法施行以前の伝染病予防法下では年間50〜80
人で推移していた。しかし感染症法施行後、報告数は増加し、1999年(4月〜)112例、2000年154例、2001年109例と年間100例を超えたが、その後、2002年83例、2003年78例、2004年75例と減少している(図1)

 1999年4月〜2004年12月の期間に報告された611例についてみると、性別では男性460例、女性151例で、年齢別では0〜9歳9例(1%)、10〜19歳24例(4%)、20〜29歳245例(40%)、30〜39歳182例(30%)、40〜49歳74例(12%)、50〜59歳46例(8%)、60〜69歳25例(4%)、70〜79歳6例(1%)であった。原虫種別では三日熱257例(42%)、四日熱8例(1%)、卵形29例(5%)、熱帯熱261例(43%)、不明56例(9%)であった。死亡の報告は8例あり、熱帯熱マラリアが4例で、他の4例は原虫種不明であったが、届け出以降に死亡した症例が把握されていない可能性もある。

 これらの611例を推定感染地域別にみると、アフリカ(263例)、アジア(229例)、大洋州(76例)、南米(16例)、中米(1例)、中東(1例)、2地域以上の記載のあるもの・記載なし・不明(25例)であった。アフリカの中では国名などの詳細が不明な24例を除き、すべてがサハラ以南の地域であり、西アフリカと東アフリカの両地域の合計が80%以上を占めた。アフリカに次いで多かったのはアジアで、東南アジアと南アジアの両地域の合計が95%以上を占めた。

図1. マラリアの年別・原虫種別発生状況

2. マラリア原虫種別

a. 三日熱マラリア
 報告数は257例であったが、性別では男性194例、女性63例で、年齢別では10〜19歳12例(5%)、20〜29歳131例(51%)、30〜39歳65例(25%)、40〜49歳28例(11%)、50〜59歳14例(5%)、60〜69歳5例(2%)、70〜79歳2例(1%)であった(図2)。推定感染地域別では特にアジア(157例:61%)が多く、次いで大洋州(48例:19%)、アフリカ(23例:9%)、南米(15例:6%)の順であり、中米(1例)、中東(1例)の報告もあった(表1、表2)。アジアの中では東南アジア(96例:61%)、南アジア(55例:35%)が多く、国別にみると特にインドネシア(63例)、インド(42例)の2カ国が多かった。

b. 四日熱マラリア
 報告数は8例であったが、性別ではすべて男性で、年齢別では20〜29歳3例、30〜39歳3例、40〜49歳2例であった(図2)。推定感染地域別ではアフリカ5例、アジア2例、大洋州1例であった(表1、表2)

c. 卵形マラリア
 報告数は29例であったが、性別では男性22例、女性7例で、年齢別では0〜9歳3例(10%)、10〜19歳2例(7%)、20〜29歳13例(45%)、30〜39歳7例(24%)、40〜49歳2例(7%)、50〜59歳2例(7%)であった(図2)。推定感染地域別ではアフリカ(24例)が大半を占め、アジア(3例)、大洋州(2例)の報告もあった(表1、表2)

d. 熱帯熱マラリア
 報告数は261例であったが、性別では男性194例、女性67例で、年齢別では0〜9歳4例(2%)、10〜19歳8例(3%)、20〜29歳75例(29%)、30〜39歳90例(34%)、40〜49歳38例(15%)、50〜59歳25例(10%)、60〜69歳18例(7%)、70〜79歳3例(1%)であった(図2)。推定感染地域別では特にアフリカ(186例:71%)が多く、次いでアジア(45例:17%)、大洋州(21例:8%)であり、南米(1例)の報告もあった(表1、表2)。アフリカの中では、西アフリカ(109例)と東アフリカ(45例)の合計が80%以上を占めており、国別にみるとガーナ(31例)、ナイジェリア(29例)、マリ(14例)、タンザニア(12例)、ケニア(10例)が多かった。

図2. マラリアの性別・年齢群別報告数(1999年4月〜2004年) 表1. マラリア報告症例の推定感染地域(1999年4月〜2004年) 表2. マラリア報告症例の推定感染国(1999年4月〜2004年) N=555



IDWR 2005年第34号「速報」より掲載)



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