国立感染症研究所 感染症情報センター
Go to English Page
ホーム疾患別情報サーベイランス各種情報
麻疹 麻しん Q&A


2:麻疹のサーベイランスシステムと
             今年の流行について


1. 麻疹(ましん、はしか)について

2. 麻疹のサーベイランスシステムと今年の流行について

3. 麻疹ワクチンについて

4. 保育園, 幼稚園, 学校での麻疹の対応について

5. 医療機関での麻疹の対応について

6. 海外での麻疹の状況

Q2-[1]: 近年の麻疹の流行にはどのような特徴があるのでしょうか?
Q2-[2]: なぜ2009年と違って2007年、2008年は10代、20代の人がたくさん麻疹にかかっていたのでしょうか?
Q2-[3]: 麻疹が流行することはどうして問題なのですか?
Q2-[4]: 麻疹の今後の流行はどうなっていくでしょうか?



Q2-[1]:近年の麻疹の流行にはどのような特徴があるのでしょうか?

 日本は2012年に麻疹を国内から排除することを国の目標に掲げています(厚生労働省ホームページ「麻しんに関する特定感染症予防指針」:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/dl/071218a.pdf)。その目標を達成するために、2008年度からは(1)新たに5年間の経過措置として第3期、第4期の定期予防接種を実施して10代における2回目のワクチン接種の機会を設け、麻疹ウイルスに対する感受性者数を減らす、(2)2007年までは麻疹の感染症発生動向調査は小児科定点および基幹定点からの報告に基づいていたが、それを全数把握疾患に変更し、麻疹発症者全例の確定検査の実施を目指す、(3)麻疹が地域で1例でも発生したら、直ちに疫学調査を実施して対策を行い、感染拡大の防止に努める、以上の3点を対策の3本柱としています。(2)による、2008年からの全数報告によると、2008年の麻疹の報告数は11,015例であったものが2009年は741例(以上暫定値)と大幅に減少(93%減)しました。2007年や2008年は、麻疹患者発生の中心が10代でしたが、2009年以降、2010年5月19日現在まで10代を中心とした流行はみられていません。

 2010年5月26日現在までに、2009年第1週〜2010年第20週の約1年半の間に感染症発生動向調査に基づき保健所に報告された患者さんの数(計947例)でみると、患者さんの半数近く(400例、42%)は5歳未満です。2001年当時と比較すると、乳幼児の患者報告数は激減しているものの、特に0歳児が全体の約1割(82例、9%)、1歳児が全体の2割(201例、21%)を占めています。これらの年齢の小児は、まだ麻疹ワクチンの定期接種対象者に至っていなかったり、体調不良などで、1歳になってすぐにワクチン接種ができていなかったりする場合もあるため、家族や周りにいる人がこの年齢の小児に麻疹ウイルスを感染させないようにすることが大切です。そのためにも、定期接種の各年代(第1期:1歳児、第2期:小学校入学前1年間の幼児、第3期:中学1年生相当年齢の者、第4期:高校3年生相当年齢の者)における麻疹含有ワクチン(原則として、麻疹風疹混合ワクチン(measles-rubella; MRワクチン)の接種率を95%以上に保つことが必要です。

Q2-[2]:なぜ2009年と違って2007年、2008年は10代、20代の人がたくさん麻疹にかかっていたのでしょうか?

 2001年の全国的な麻疹の流行以降、1歳早期における麻疹ワクチンの接種率が上昇したことによって、これまで麻疹流行の中心であった乳幼児における麻疹の患者発生は著しく減少し、麻疹の流行規模は縮小していきました。一方これによって麻疹ウイルスに対する感染機会が激減し、これまでであれば麻疹ワクチンを接種していない場合、早い時期に麻疹に罹患していたはずの人が罹患しなくなり、またワクチンを接種しても免疫を獲得できなかった人(5%未満程度存在します)も、以前であれば麻疹ウイルスに感染して発症していたはずが、感染しないですむという現象が起こってくるようになりました。

このように、社会全体での流行が抑えられてくると、

  1. 麻疹に対して免疫を持たない人であっても麻疹に罹患しないままでいる

  2. 過去に麻疹ワクチンを接種して免疫を獲得した人の中には、麻疹ウイルスに感染する機会が減ったために、自然感染による免疫増強効果(ブースター効果)を得ることがなくなり、それによって接種から年数を経るにつれて麻疹に対する免疫が減弱してしまった人が一部出てくる。 (学校における麻しん対策ガイドライン:http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/guideline/school_200805.pdf

などの現象が見られます。

 このような人が蓄積されて多数集まっているところ(学校など)に、麻疹のような感染力の強いウイルスが入り込むことによって、この世代での発症者が多くみられるようになっていったと考えられています。またこれらの人の中には、軽症者も多く(ワクチン接種によって免疫を少しでも持っている場合、典型的な症状を呈さず、修飾麻疹として発症する人等)、気づかぬ間に感染源となって周囲にひろげてしまっているという現象もあったものと思われます。

 2007年の10代の年齢層を中心とした流行を受け、2008年度からは中学1年生相当、高校3年生相当の年齢を対象とした第3期、第4期の麻疹含有ワクチン(麻疹単抗原ワクチンあるいはMRワクチン:原則としてMRワクチンを選択)の定期予防接種が始まりました。このことや、2007年、2008年の麻疹の流行によって、10代の年齢層で麻疹ウイルスに免疫を持っている者の割合が増加した(感染症情報センターホームページ、感染症流行予測調査より:http://idsc.nih.go.jp/yosoku/index.html)ことにより、2009年は10代の麻疹患者数が大幅に減少したものと考えられます。

Q2-[3]:麻疹が流行することはどうして問題なのですか?

 通常、10日前後の潜伏期間を経て典型的な麻疹を発症した場合、3日前後のカタル期と4日前後の発疹期を合わせて平均1週間程度高熱が続きますが、麻疹に対する特異的な治療方法は存在しません。2000年の大阪での麻疹流行時の調査によると、合併症発症率は30%以上であり(肺炎15.2%、腸炎3.1%、脳炎0.8%等)、また発症者の平均入院率は40%にものぼりました(平成13年度大阪感染症流行予測調査結果報告書)。2007年、2008年には各9例の脳炎合併症例が報告されました(2009年は報告なし)。また、世界では現在でも途上国を中心に毎年たくさんの子ども達が麻疹に罹患し、2008年には164,000人が亡くなっていると推計されています(Q6-[1])

 麻疹はこのように重篤で合併症発症率も高い感染症ですが、麻疹ワクチンを接種することによって高い予防効果を得ることができる疾患です。麻疹ワクチン接種率を高く保ち、しかも複数回接種体制を導入することによって、欧米諸国やオーストラリア、韓国等の国々の中には、既に国内からの麻疹ウイルスの排除に成功した国もあります。これらの国々では、麻疹を排除するという国を挙げた強い意志のもとで、国家的な取り組みがなされ、その目的が達成されていきました。確かに2009年は日本国内の麻疹患者数が大きく減少し、2010年もこれまでのところ患者発生数は少ない状態が続いていますが、国内から麻疹が排除された状態には至っておらず、現在は、流行そのものは見られないものの、麻疹ウイルスに対して免疫が不十分である人(感受性者)が蓄積されつつあるという見方もあります。麻疹はワクチンを接種することによって日本の国内から排除することができる感染症です。国内における麻疹患者がさらに減少し、1日も早く日本から麻疹が排除されるよう、さらなる取り組みが必要とされています。

Q2-[4]:麻疹の今後の流行はどうなっていくでしょうか?

 Q2-[1]で述べたように、2008年の麻疹の報告数は11,015例であったものが2009年は741例(以上暫定値)と大幅に減少しました。では、このままで日本国内での麻疹患者数は減少し、2012年の排除の目標は達成されるのでしょうか?

 残念ながら現状のままでは困難です。その理由としては、まず麻疹含有ワクチン(麻疹単抗原ワクチンあるいはMRワクチン)の接種率が、2008年度の集計結果で目標の95%に達成していません。特に第3期、第4期の接種率は十分ではなく、麻疹に対する感受性者が積み残されたままとなっています。接種率の高い地域も存在していますが、全国的にみると2008年度第3期は85.1%、同第4期は77.3%と、第4期では80%を下回っています(感染症情報センターホームページ:http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/pdf02/20090812-01.pdf)。特に東京都、神奈川県、大阪府等の大都市圏でのワクチン接種率は低いままであり、現在は麻疹の患者発生数が減少していても、このまま接種率が上がらなければ、感受性者が蓄積し、再び数年後に患者数が増加する可能性は否定できません。

 また、地域において麻疹の患者数が減って、明らかな流行が確認されなくなってくると、散発的に発生する麻疹の診断は、その後の対策に直結するため、大変重要になります。正しい診断のもとに感染拡大防止対策を実施するためにも、検査診断の役割が極めて重要ですが(厚生労働省ホームページ「麻しんに関する特定感染症予防指針」:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/dl/071218a.pdf)、日本国内では臨床診断の割合が約4割と高く、また検査診断の殆どが麻疹特異的IgM抗体のみによる検査診断であるため、麻疹ウイルスの直接の証明による検査診断が求められています(感染症情報センターホームページIASR「麻疹」:http://idsc.nih.go.jp/iasr/31/360/tpc360-j.html)。また、現状のままでは、今後日本国内で麻疹が排除されたかどうかを確認することが困難となることが予想されます。検査診断の徹底と、迅速な対策が重要です。

 以上より、「2012年度までに麻疹を国内から排除し、その状態を維持する」という我が国の目標は、現状のままでは達成が困難であり、数年後に麻疹の流行が再燃してしまう可能性が否定できません。2012年度に排除の目標を達成するためには、2回の予防接種率をそれぞれ95%以上にし、また国内の麻疹の検査診断システムを確立・活用していく等の対策が必要であると思われます。

 麻疹の検査診断に関しては、国立感染症研究所と全国の地方衛生研究所において、RT-PCR法、リアルタイムPCR法等の麻疹ウイルス遺伝子の直接検出に関わる検査診断法を統一し、ネットワークを組んで対応しています。

各医療機関においては、

  1. 麻疹と臨床診断した場合、
  2. 麻疹特異的IgM抗体陽性により麻疹と検査診断した場合、
  3. 麻疹特異的IgM抗体陽性により修飾麻疹と診断した場合は、

管轄の保健所を通じて、地方衛生研究所に、(1)血液(EDTA血あるいはクエン酸血)、(2)尿、(3)咽頭ぬぐい液(ウイルス搬送用培地セットは、全国の保健所にお送りしていますのでご活用ください)のうち2点以上(できれば3点セット)を採取し、保健所を通じて地方衛生研究所にご依頼下さい。地方衛生研究所で実施困難な場合は、国立感染症研究所で対応いたしますので、お問い合わせください。

※麻疹ウイルス感受性者:麻疹ウイルスに対する免疫がないかもしくは不十分であり、麻疹ウイルスに感染した場合に発症(発熱や発疹などの症状が現れること)する者


↑トップに戻る
3. 麻疹ワクチンについて → →


Copyright ©2004 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.