国立感染症研究所 感染症情報センター
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麻疹 麻しん Q&A


3:麻疹ワクチンについて

1. 麻疹(ましん、はしか)について

2. 麻疹のサーベイランスシステムと今年の流行について

3. 麻疹ワクチンについて

4. 保育園, 幼稚園, 学校での麻疹の対応について

5. 医療機関での麻疹の対応について

6. 海外での麻疹の状況

Q3-[1]: 0歳で1回麻疹ワクチンを受けました。今後どのようなスケジュールでワクチンを接種すれば良いでしょうか。
Q3-[2]: 麻疹あるいは麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)の接種を1回受けた場合、どのくらいの人が麻疹の免疫を獲得するのでしょうか。
Q3-[3]: 子どものときに麻疹にかかりました。麻疹にかかったことがあっても、ワクチンを接種した方が良いでしょうか?
Q3-[4]: 国内で接種されている麻疹ワクチンはどういうものですか?
Q3-[5]: 麻疹ワクチンは誰に使用しますか?(定期、任意)
Q3-[6]: 麻疹に関する予防接種は、どうして2回必要なのですか?
Q3-[7]: 麻疹ワクチン接種後の副反応には、どのようなものがありますか?
Q3-[8]: ワクチンよりも自然感染の方が強い免疫を得られると聞きました。ワクチン接種によるSVFの心配もいらないし、罹った方が良いのではないですか?


Q3-[1]:0歳で1回麻疹ワクチンを受けました。今後どのようなスケジュールでワクチンを接種すれば良いでしょうか。

 周りで麻疹の流行があり、緊急避難的に0歳で任意の麻疹ワクチン接種を受けた場合、それは1回目とは数えずに、1歳になったら忘れずに、第一期の麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)の接種を受けるようにしてください。0歳での接種は、1歳以上での接種に比べて、母体由来の抗体の残存などから免疫の獲得が十分ではないことがあるため、そのまま第二期の年齢まで接種を受けずにいると、途中で麻疹にかかってしまう可能性があるからです。また第二期は、同じように小学校入学前1年間(4月1日から3月31日まで)の間に麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)の接種を受けて下さい。

 米国では小学校入学時にMMRワクチンの2回接種が求められていますが、0歳で受けたワクチンはその回数に含まれないことになっています(米国小児科学会:Red Book 2009より)。

Q3-[2]:麻疹あるいは麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)の接種を1回受けた場合、どのくらいの人が麻疹の免疫を獲得するのでしょうか。

 通常、1回の接種で95%以上の人が免疫を獲得します。1回の接種で免疫を獲得できなかった場合を、primary vaccine failure(PVF)と呼びますが、周りで麻疹の流行があると、約5%のPVFの人は感染し、発症する可能性があります。これらの人の予防を目的の一つとして、2006年6月2日から麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)の2回接種制度が始まっています。なお、2回接種の意味は、次のURLに示すとおり(http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn01.html)、さらに2つの考え方があります。

Q3-[3]:子どものときに麻疹にかかりました。麻疹にかかったことがあっても、ワクチンを接種した方が良いでしょうか?

 一度典型的な麻疹を発症した人は、通常は生涯にわたる免疫(終生免疫)が獲得され、再び麻疹を発症することはありません。高齢になってから修飾麻疹を発症される例が報告されていますが、極めて稀と考えられます。そのため、以前麻疹にかかったということが記録等により確かであれば、再度ワクチン接種をする必要はありません。ただし、0歳児で発症した場合は、免疫の維持が不十分である可能性がありますので、接種を考慮した方が良いと考えられます。また、時に、麻疹と思いこんでいた病気が、発熱、発疹が出現する他の病気(たとえば、風疹や川崎病など)と混同されている場合がありますので、注意してください。

Q3-[4]:国内で接種されている麻疹ワクチンはどういうものですか?

 国内の麻疹ワクチンは、1966年から、不活化ワクチン(K:killed vaccineの略)と生ワクチン(L:live vaccineの略)の併用法(KL法)によって接種が開始されました。これは当時の生ワクチンの発熱、発疹出現率が高かったためですが、不活化ワクチンを接種した後に自然麻疹に罹患すると、四肢末端に強い発疹、肺炎と胸膜炎の合併、カタル症状(咳や鼻水、くしゃみなど)が乏しいなどを臨床的特徴とする異型麻疹の発生が問題となり、さらに、不活化ワクチンを先に接種することにより生ワクチンによる抗体獲得が見られない場合があり得ることなどから、KL法は中止となりました。

1969年以降は高度弱毒生ワクチンの単独接種に切り替えられ、現在に至っています。予防接種法に基づく定期予防接種に導入されたのは、1978年10月からです。

 国内で市販されている麻疹ワクチンに含まれているワクチン株(ワクチンウイルス)は、武田薬品工業のSchwarz-FF8株、北里研究所のAIK-C株、阪大微生物病研究会の田辺株、千葉県血清研究所のTD97株の4種類ですが、千葉県血清研究所が2002年9月に閉鎖されて以降は、武田薬品、北里研究所、阪大微研の3社が麻疹ワクチンを製造しています。 これらのワクチン株をニワトリ胚培養細胞あるいはニワトリ胚初代培養細胞で培養して、ワクチンが製造されています。接種時には、ワクチンに添付されている溶解液(注射用水)0.7mlで溶解後、0.5ml(力価5,000TCID50/0.5ml以上)を皮下接種します。

 また、1989年から1993年4月までの間、麻疹ワクチン定期予防接種時に、麻疹風疹おたふくかぜ混合ワクチン(measles-mumps-rubella; MMRワクチン)を選択しても良いことになっていましたが、おたふくかぜワクチンに由来した無菌性髄膜炎の多発により、国内でのMMRワクチンの接種は中止となり、現在に至っています。

 2006年4月から、予防接種法に基づく定期予防接種として、麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)が使用されていますが、現在、国内では、武田薬品工業と阪大微生物病研究会が上記のワクチン株を使用して、製造を行っています。

Q3-[5]:麻疹ワクチンは誰に使用しますか?(定期、任意)

 2006年度以降2010年6月現在、予防接種法に基づく定期予防接種は、1歳児(第一期)および5歳以上7歳未満で小学校入学前1年間の者(第二期)がそれぞれ1回ずつ、2回接種を行うことになっています。加えて、2008年度から5年間の時限付きで、第三期として中学1年生に相当するもの、第四期として高校3年生に相当するものが対象となっています。使用するワクチンは原則として麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)です。

  2010年6月現在の予防接種スケジュール、および2001年以降の予防接種スケジュールについては、国立感染症研究所感染症情報センターHP(http://idsc.nih.go.jp/vaccine/dschedule.html、およびhttp://idsc.nih.go.jp/vaccine/dschedule02.html)に掲載しておりますので、ご参照ください。

 定期予防接種対象者以外で麻疹ワクチンの接種を希望する場合、0歳児以外は年齢に関係なく、任意接種として接種が可能です。 0歳児の場合、生後6カ月未満の乳児には接種を行いません。生後6カ月以上1歳未満で接種を希望する場合は、麻疹流行時の緊急避難的な場合のみとし、接種に当たっては、Q3-[1] をご参照ください。

Q3-[6]:麻疹に関する予防接種は、どうして2回必要なのですか?
 2回接種が必要な理由は3つあります。(1)1回の接種で免疫がつかなかった子どもたち(数%存在すると考えられており、primary vaccine failure; PVFと呼びます)に免疫を与えること、(2)1回の接種で免疫がついたにもかかわらず、その後の時間の経過とともにその免疫が減衰した子どもたちに再び刺激を与え、免疫を強固なものにすること、(3)1回目に接種しそびれた子どもたちにもう一度、接種のチャンスを与えること、です。Q3-[5] にもあるように、このような理由から2006年6月2日以降、麻疹および風疹に関して、2回接種法が導入されています。国立感染症研究所感染症情報センターでは、2回接種が必要な理由に関するポスターを作成しました。ホームページ上から、ダウンロードして使用することが可能となっています(http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn01.html)。

Q3-[7]:麻疹ワクチン接種後の副反応には、どのようなものがありますか?

 麻疹ワクチンは生ワクチンですので、ワクチンの中に存在する弱毒化された麻疹ウイルスが体内で増殖する時期(接種後5〜14日)を中心として、約5.4%に37.5℃以上38.5℃未満、約8.1%に38.5℃以上の発熱、約5.9%に麻疹様の発疹が見られます(厚生労働省予防接種後健康状況調査報告書)。そのほかに、接種部位の局所反応、熱性けいれん(約3,000人に1人)、じんましん等も見られますが、いずれも一過性です。脳炎脳症は100〜150万人接種に1人以下、急性血小板減少性紫斑病は100万人接種に1人程度と言われています。ワクチン接種後の亜急性硬化性全脳炎(SSPE)はないとされています。麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)を使用する場合が多いですが、副反応の頻度については、麻疹ワクチンと概ね同じです。(Q1-[4] 参照)

Q3-[8]:ワクチンよりも自然感染の方が強い免疫を得られると聞きました。ワクチン接種によるSVFの心配もいらないし、罹った方が良いのではないですか?
 麻疹に罹患すると、臨床症状が重篤なだけでなく、Q1-[4] にあるような合併症を起こすことがあります。麻疹ワクチン接種後の副反応はQ3-[7] にあげたように、一過性のことが多く、自然感染による症状の重症化、合併症を併発するリスクの方が高い頻度で発生します。さらに、Q3-[6] にもありますように、1回接種で免疫がつかなかったPVFはワクチン接種者の5%未満と少なく、ワクチン接種後に自然感染のブースター効果を受けなかったことにより、免疫が減衰し、麻疹ウイルスに曝露されたときに修飾麻疹として発症するSVFも現在のところ、10-20%程度と推定されますので、1回の接種を受けたほとんどの方は、麻疹に対する免疫を獲得し、維持することができます。麻疹は、ワクチンで予防することが可能な疾患ですので、自然罹患で重症になったり、合併症を併発して後遺症を残したり、さらには死亡したりする方々が出ないようにすることが重要です。また、発症する少し前からウイルスを排泄することになりますので、周りにいる感受性者に感染を広げてしまう可能性があります。麻疹ワクチンを受けたくても医療上の理由から受けることができない方もいます。そのような方に麻疹をうつさないためにも、予防接種で発症を予防しておくことが極めて重要です。


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