国立感染症研究所 感染症情報センター
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麻疹 麻しん Q&A


5:医療機関での麻疹の対応について

1. 麻疹(ましん、はしか)について

2. 麻疹のサーベイランスシステムと今年の流行について

3. 麻疹ワクチンについて

4. 保育園, 幼稚園, 学校での麻疹の対応について

5. 医療機関での麻疹の対応について

6. 海外での麻疹の状況

Q5-[1]: 医療機関の職員に対する麻疹対策はどのようにすればよいでしょうか?
Q5-[2]: 麻疹疑いの患者が外来に来ました(来ます)。どう対応すればよいですか?
Q5-[3]: 発熱のために入院していた患者に発疹が出現しはじめ、麻疹であることがわかりました。大部屋に入院していたのですが、どのような対応をとればいいでしょうか。
Q5-[4]: 麻疹の免疫があるかどうかわからない医療従事者が麻疹の患者と接触しました。どう対応すればよいですか?


Q5-[1]:医療機関の職員に対する麻疹対策はどのようにすればよいでしょうか?

 麻疹が流行している、あるいは麻疹患者が来院してからとる対策も大切ですが、平常時から対策を取っておけば、そのようなときの対応が格段に楽になります。もっとも大切なことは、すべての職員の麻疹罹患歴と麻疹ワクチン接種歴を把握しておくことで、雇用時などにそれらの情報を入手しておきます。ただし、職員の記憶があいまいな場合や、ワクチン接種後の抗体価の低下によって麻疹に罹患するリスクをもつ人もありますので、理想的には雇用時あるいは雇用前、あるいは健康診断時などに麻疹含有ワクチン2回接種の記録の確認、あるいはB型肝炎の抗体検査と共に麻疹抗体価の検査を行なうことがすすめられます。

 麻疹未罹患かつワクチン未接種あるいは1回接種、または、麻疹抗体価検査により抗体陰性または抗体価が低いと判断された場合は、任意となりますがワクチン接種を勧めると良いでしょう。医学的な理由等により接種できない場合には、その内容を健康記録として留め、麻疹を疑う患者あるいは麻疹患者との接触を避けるよう勤務態勢を構築しておくとよいでしょう。

 詳細については、「日本環境感染学会 院内感染対策としてのワクチンガイドライン第1版:日本環境感染学会ワクチン接種プログラム作成委員会」(http://www.kankyokansen.org/other/vacguide.pdf)および「医療機関での麻疹の対応ガイドライン 第二版」(http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/guideline/hospital_ver2.pdf)をご覧下さい。

Q5-[2]:麻疹疑いの患者が外来に来ました(来ます)。どう対応すればよいですか?

 患者がこれから外来を受診する場合は、他の患者とスペースを共にしないよう、別室へ誘導します。すでに来院してしまった場合は、できるだけ速やかにそのような別室へ誘導します。またその患者は出来るだけ早く診察をするよう配慮する必要があります。

 患者の対応にあたるスタッフは、麻疹抗体価検査によりすでに抗体陽性が確認されているか、麻疹に罹患したことが確実なもの、麻疹含有ワクチンの接種歴が2回記録で確認されている者に限定します。

 麻疹は空気感染する疾患ですので、免疫がないスタッフが対応する場合には本人の防護のためにN95マスクあるいはそれ以上の性能のものを着用すべきです。麻疹に対する免疫があることが確実なスタッフは特に防護はなくとも対応可能ですが、他の疾患の可能性もありますので、サージカルマスクの着用が推奨されます。

 麻疹疑いの患者に対しては、麻疹の罹患に関する臨床的評価とウイルス学的診断のための検査(麻疹ウイルスゲノムの検出、麻疹ウイルスの分離、麻疹特異的IgM抗体の確認、ペア血清で麻疹特異的IgG抗体の陽転あるいは有意上昇の確認など)を行ないます。

 臨床的に麻疹と診断した患者(Q2-[4]参照)に関しては、地方衛生研究所あるいは国立感染症研究所で、RT-PCR法あるいはリアルタイムPCR法等による麻疹ウイルス遺伝子の検出、あるいは麻疹ウイルスの分離による検査診断が可能です。ウイルス検査のための検体を採取するスタッフは、手袋と防護用のマスクを着用した上で、民間の検査機関等での麻疹特異的IgM抗体の確認、ペア血清での麻疹特異的IgG抗体の測定を実施していただくとともに、血液(EDTA血あるいはクエン酸血)、尿、咽頭ぬぐい液(ウイルス搬送用培地セットが保健所にあります。緊急の場合は、検体が乾燥しないように生理食塩水にひたして送付してください)のうち2点以上(できれば3点セット)を、管轄の保健所を通じて地方衛生研究所あるいは国立感染症研究所へ搬送してください。

 麻疹罹患歴が確認できていないスタッフあるいは、麻疹抗体陽性が確認できていないスタッフが、麻疹患者と接してしまった場合の対応は、Q5-[4]および「医療機関での麻疹の対応ガイドライン 第二版」(http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/guideline/hospital_ver2.pdf)をご覧下さい。

Q5-[3]:発熱のために入院していた患者に発疹が出現しはじめ、麻疹であることがわかりました。大部屋に入院していたのですが、どのような対応をとればいいでしょうか。

 まず、患者を速やかに隔離体制に移す必要があります。麻疹の診断が確定していなくても、麻疹が疑われた時点で速やかに隔離体制に移します。

 次に患者の行動を速やかに調べます。患者が入院してから麻疹の診断がつくまで、同じ病棟内、同じ階、空調を共有している病棟に入院中の患者、勤務していた職員、病棟内で実習している学生、教官、患者の付き添いを含めて全員をまずリストアップします。

 患者が他科の外来に受診していなかったか、別の病棟に行ったことがなかったかどうか、同じ病棟以外の医療従事者が患者と接触していなかったかどうかについても、迅速かつ詳細に調査します。

 次に、それらの人々全員に対して麻疹の罹患歴、麻疹ワクチン接種歴を調べます。特に、小児や若年成人が多く入院する病棟においては、入院時にこれらの調査が行われているように平時からの対応が重要です。

 記憶が曖昧な人も多いと思われますので、麻疹に対する抗体陽性が確実であるもの、麻疹にかかった家族を看病したけれども麻疹を発症しなかったもの以外の人に対しては、直ちに全員の抗体検査を実施します。抗体測定方法は、CF法以外で、最も迅速に結果が出る方法を選択します。この対策は極めて大変な作業となりますので、少なくとも医療従事者ならびに実習にくる学生、教官については、麻疹に対する免疫があることをあらかじめ確かめておくことを強くお勧めします。

 抗体陰性あるいは、不十分であることが判明した人については、ワクチン接種不適当者ではないことを確認した上で、大至急麻疹ワクチン接種を検討します。麻疹患者と接触後3日以内であれば緊急ワクチン接種により発病を予防する可能性があります。また、接触後4日以上6日以内であれば免疫グロブリン製剤の注射という選択肢もあります。

 しかし、いずれの方法も確実ではありませんので、抗体陰性あるいは不十分であったものは、感染の可能性がある日から5日〜3週間(グロブリン製剤を投与した場合は4週間まで)、発症する可能性がありますので、麻疹感受性者(麻疹に対する免疫を持たない人)とは完全に隔離する必要があります。職員については、勤務の中止、あるいは麻疹感受性者とは確実に隔離することが求められます。もし、抗体陰性あるいは、不十分であることが判明した人が発熱を認めた場合は、速やかに麻疹の可能性を考えて、隔離体制とします。

 詳細については、「医療機関での麻疹対応ガイドライン 第二版」(http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/guideline/hospital_ver2.pdf)をご覧下さい。

Q5-[4]:麻疹の免疫があるかどうかわからない医療従事者が麻疹の患者と接触しました。どう対応すればよいですか?

 麻疹患者と接触後3日以内であれば緊急ワクチン接種により発症を予防できる可能性があります。従って、その医療従事者に対して直ちに麻疹抗体価を検査し、抗体価が陰性または陽性であっても不十分な場合は緊急ワクチン接種を考慮します。ただし、麻疹抗体価検査の結果を入手できるまでに日数を要する場合は、発症を予防できる可能性のある3日以内を逃さないために、抗体価検査を行なわずにワクチン接種を行なった方が有利であると考えられます。また、接触後4日以上6日以内であれば免疫グロブリン製剤の注射という選択肢もありますが、血液製剤であること、健康保険適用があるのは筋注用製剤であり、接種量が多く疼痛を伴うこと等の理由からその判断には十分な検討が必要です。いずれにしても、100%の緊急予防策はないことから、Q5-[3]の内容ともあわせて判断し、そもそも、このような事態が発生することがないよう、職員は雇用時に麻疹に対する予防を行ってから勤務につかせるべきでしょう。

 詳細については、「日本環境感染学会 院内感染対策としてのワクチンガイドライン第1版:日本環境感染学会ワクチン接種プログラム作成委員会」(http://www.kankyokansen.org/other/vacguide.pdf)および「医療機関での麻疹対応ガイドライン 第二版」(http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/guideline/hospital_ver2.pdf)をご覧下さい。


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