国立感染症研究所 感染症情報センター
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麻疹 麻しん Q&A
*各カテゴリ内の質問項目は順次追加される予定です。
[2010.7.7更新/更新履歴]
1:麻疹(ましん、はしか)について


1. 麻疹(ましん、はしか)について

2. 麻疹のサーベイランスシステムと今年の流行について

3. 麻疹ワクチンについて

4. 保育園, 幼稚園, 学校での麻疹の対応について

5. 医療機関での麻疹の対応について

6. 海外での麻疹の状況

Q1-[1]: 麻疹はどのように感染しますか?
Q1-[2]: 麻疹にはどのような症状がありますか?
Q1-[3]: 麻疹の予防方法について教えてください。マスクをすれば防ぐことができますか?
Q1-[4]: 麻疹では合併症を起こすことも多いと聞きました。麻疹の合併症にはどのようなものがありますか。
Q1-[5]: 修飾麻疹とはどんなものですか。



Q1-[1]:麻疹はどのように感染しますか?

 麻疹は麻疹ウイルス(Paramyxovirus科 Morbillivirus属)によっておこる感染症で、人から人へ感染します。感染経路としては空気(飛沫核)感染のほか、飛沫や接触感染など様々な経路があります。感染力はきわめて強く、麻疹の免疫がない集団に1人の発症者がいたとすると、12〜14人の人が感染するとされています(インフルエンザでは1〜2人)。

 不顕性感染(感染はしても発症しない=症状がでない)はほとんどなく、感染した90%以上の人が発症します。発症した人が周囲に感染させる期間は、症状(Q1-[2])が出現する1日前(発疹出現の3〜5日前)から発疹出現後4〜5日目くらいまでで、学校は解熱後3日を経過するまで出席停止となります(麻疹は、学校保健安全法に基づく第二種学校感染症に指定されており、学校をお休みしても、欠席扱いにはなりません)。なお、感染力が最も強いのは発疹出現前のカタル期(Q1-[2])です。

Q1-[2]:麻疹にはどのような症状がありますか?
 麻疹ウイルスの感染後、10〜12日間の潜伏期ののち発熱や咳などの症状で発症します。38℃前後の発熱が2〜4日間続き、倦怠感(小児では不機嫌)があり、上気道炎症状(咳、鼻みず、くしゃみなど)と結膜炎症状(結膜充血、目やに、光をまぶしく感じるなど)が現れて次第に強くなります。

 乳幼児では消化器症状として、下痢、腹痛を伴うことも多くみられます。発疹が現われる1〜2日前ごろに頬粘膜(口のなかの頬の裏側)にやや隆起した1mm程度の小さな白色の小さな斑点(コプリック斑)が出現します。コプリック斑は麻疹に特徴的な症状ですが、発疹出現後2日目を過ぎる頃までに消えてしまいます。また、口腔粘膜は発赤し、口蓋部には粘膜疹がみられ、しばしば溢血斑を伴うこともあります(上気道炎症状や結膜炎症状をカタル症状といい、以上を「カタル期」あるいは「前駆期」といい、「潜伏期」とは異なります)。

 その後、体温は1℃程度下がり、その後半日くらいのうちに、再び高熱(多くは39℃以上)が出るとともに、発疹が出現します。発疹は耳後部、頚部、前額部から出始め、翌日には顔面、体幹部、上腕におよび、2日後には四肢末端にまでおよびます。発疹が全身に広がるまで、高熱(39.5℃以上)が続きます。発疹ははじめ鮮紅色扁平ですが、まもなく皮膚面より隆起し、融合して不整形斑状(斑丘疹)となります。指圧によって退色し、一部には健常皮膚が残っています。次いで暗赤色となり、出現順序に従って退色します。この時期には高熱が続き、カタル症状が一層強くなります(以上、「発疹期」)。

 発疹出現後3〜4日間続いた発熱は解熱し、全身状態、元気さが回復し、カタル症状も次第に軽快してきます。発疹は黒ずんだ色素沈着となり、しばらく残ります。合併症のないかぎり7〜10 日後には主症状は回復します(以上、「回復期」)が、リンパ球機能などの免疫力が低下するため、しばらくは他の感染症に罹ると重症になりやすく、また体力等が戻って来るには結局1ヶ月位を要することが珍しくありません。

 このように、麻疹の主症状は発熱が約1週間続き、カタル症状も強いため、合併症がなくても入院を要することが少なくなく、回復までには時間のかかる重症な病気といえます。

Q1-[3]:麻疹の予防方法について教えてください。マスクをすれば防ぐことができますか?
 麻疹は、接触、飛沫、空気 (飛沫核)のいずれの感染経路でも感染します。麻疹ウイルスの直径は100〜250nmであり、飛沫核の状態で空中を浮遊し、それを吸い込むことで感染しますので、マスクでの予防は難しくなります。唯一の予防方法は、ワクチン接種によって麻疹に対する免疫をあらかじめ獲得しておくことです。

Q1-[4]:麻疹では合併症を起こすことも多いと聞きました。麻疹の合併症にはどのようなものがありますか。
 麻疹に伴ってさまざまな合併症がみられ、全体では30%にも達するとされます。その約半数が肺炎で、頻度は低いものの脳炎の合併例もあり、特にこの二つの合併症は麻疹による二大死因となり、注意が必要です。麻疹の合併症には以下のものがあります。

(1)肺炎:麻疹の肺炎には「ウイルス性肺炎」「細菌性肺炎」「巨細胞性肺炎」の3種類があります。

[ウイルス性肺炎]ウイルスの増殖にともなう免疫反応・炎症反応によって起こる肺炎です。病初期に認められ、胸部X 線上、両肺野の過膨張、び漫性の浸潤影が認められます。また、片側性の大葉性肺炎の像を呈する場合もあります。
[細菌性肺炎]細菌の二次感染による肺炎です。発疹期を過ぎても解熱しない場合に考慮すべきもので、原因菌としては、一般的な呼吸器感染症起炎菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌、化膿レンサ球菌、黄色ブドウ球菌などが多くみられます。抗菌薬により治療されます。
[巨細胞性肺炎]成人の一部、あるいは特に細胞性免疫不全状態時にみられる肺炎です。肺で麻疹ウイルスが持続感染した結果生じるもので、予後不良であり、死亡例も多いものです。発症は急性または亜急性で、発疹は出現しないことが多くあります。胸部レントゲン像では、肺門部から末梢へ広がる線状陰影がみられます。本症では麻疹抗体は産生されにくく、長期間にわたってウイルスが排泄されます。

(2)中耳炎:細菌の二次感染により生じ、麻疹患者の約5 〜15%にみられる最も多い合併症の一つです。乳幼児では症状を訴えないため、中耳からの膿性耳漏で発見されることがあり、注意が必要です。乳様突起炎を合併することがあります。

(3)クループ症候群:クループ症候群の原因である喉頭炎および喉頭気管支炎は小児(特に乳幼児)の麻疹の合併症として多くみられるもののひとつです。麻疹ウイルスによる炎症と細菌の二次感染による場合があります。吸気性呼吸困難が強い場合には、気管内挿管による呼吸管理を要します。

(4)心筋炎:心筋炎、心外膜炎をときに合併することがあります。麻疹の経過中半数以上に、一過性の非特異的な心電図異常が見られるとされますが、重大な結果になることは稀です。

(5)脳炎:麻疹を発症した1,000例に0.5〜1例の割合で脳炎を合併します。発生頻度は中耳炎や肺炎のようには高くはありませんが、肺炎とともに死亡の原因となり、注意を要します。発疹出現後2〜6日頃に発症することが多く、髄液所見としては、単核球優位の中等度細胞増多を認め、蛋白レベルの中等度上昇、糖レベルは正常かやや増加します。麻疹そのものの症状の重症度と脳炎発症には相関は認められません。脳炎発症患者の約60%は完全に回復しますが、20〜40%に中枢神経系の後遺症(精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺)を残し、致死率は約15%です。

(6)亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis :SSPE):麻疹に罹患した後、7〜10年で発症することのある中枢神経疾患です。知能障害、運動障害が徐々に進行し、ミオクローヌスなどの錐体・錐体外路症状を示します。発症から平均6〜9カ月で死の転帰をとる、進行性の予後不良疾患です。麻疹ウイルスの中枢神経細胞における持続感染により生ずるとされますが、本態は未だ不明です。発生頻度は、麻疹罹患者10万例に1人とされています。

Q1-[5]:修飾麻疹とはどんなものですか。

 麻疹に対する免疫は持っているけれども不十分な人が麻疹ウイルスに感染した場合、軽症で非典型的な麻疹を発症することがあります。このような場合を「修飾麻疹」と呼んでいます。例えば、潜伏期が延長する、高熱が出ない、発熱期間が短い、コプリック斑が出現しない、発疹が手足だけで全身には出ない、発疹は急速に出現するけれども融合しないなどです。しかし、その感染力は弱いものの周囲の人への感染源になるので注意が必要です。通常合併症は少なく、経過も短いため、風疹など他の発疹性疾患と誤診されることもあります。

 以前は母体由来の移行抗体が残存している乳児や、ヒトガンマグロブリン製剤を投与された後に見られていました。最近では、麻疹ワクチン既接種者がその後麻疹ウイルスに曝露せず、ブースター効果(免疫増強効果)が得られないままに体内での麻疹抗体が減衰し麻疹に罹患する場合〔このような人をsecondary vaccine failure(SVF)と呼びます〕が見られるようになっています。


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