国立感染症研究所 感染症情報センター
Go to English Page
ホーム疾患別情報サーベイランス各種情報
麻疹 関東における麻しんの集団発生


本年4月から5月にかけて、ほぼ同時期に茨城県及び千葉県にて麻しんの集団発生が確認された。5月8日現在の茨城県公表資料によると、茨城県竜ヶ崎保健所管内の2カ所の学校で同時 期に麻しんの集団発生が発生している。牛久市の小学校では麻しん症例14名全員が麻しんワクチン接種歴を有していた。ワクチン接種歴のあるこれらの症例は比較的軽症であった。取手 市の中・高等学校の33症例に加えて、成人麻しん症例、乳幼児麻しん症例、他の小中高校症例 の17名を併せ合計64症例が確認されている。そのうち13名が医療機関に入院した。症例数は、 5月2日の公表資料から増加している。同保健所管内を中心に麻しん患者報告の強化、ワクチン 未接種者に対する接種勧奨等を行っている。また、5月10日の千葉県公表資料によると、鎌ヶ谷 市内の高校で麻しん患者6名の集団発生が確認されている。ほぼ同時期に近隣の複数の地域 で麻しん集団発生があり、報告症例数が増加していることから、今後、東関東を中心とした麻し ん発生地域の拡大、患者数の増加が懸念される。小児科定点医療機関及び基幹定点医療機 関からの報告では、明らかな集団発生は確認されていない(本号「注目すべき感染症」参照)。

麻しんは非常に感染力が強く、患者との直接対面接触がなくても、同じ空間を共有することで感染する「空気感染」を起こしうる。麻しんに対する免疫の無い者が発病すると重症度が高く、約40%が入院し、患者1000人に対し1人の割合で死亡することがある。乳児、妊婦、免疫能低下者などでは特に重症化しやすい。発病した後の特異的な治療法は無く、ワクチンによって予防することが対策上最も重要である。ワクチン接種歴があるため軽症であった場合など、症状が典型的でない時には、他の熱性疾患との鑑別が困難なことがあり、診断には注意を要する。その場合も、麻しん感染源とはなり得るので、やはり警戒が必要である。

麻しんに対する免疫を持たない集団で麻しんが発生した場合は急速に感染拡大するため、一旦発生した場合は、その集団はもちろんの事、周辺の地域においてもワクチン接種などの対策強化が重要となる。定期予防接種対象年齢にあるワクチン未接種者は速やかに接種を行うことが重要である。また、定点医療機関からの報告による麻しん発生動向調査では、流行時の症例を迅速にもれなく把握することはできない。流行が懸念される地域における麻しん報告の強化による発生監視を行い、一例でも症例が発生した場合には速やかに対策を実施することが望まれる。今回、ワクチン接種者での患者も発生しており、検査室診断の重要性は高い。血清IgM抗体が陽性の場合は麻しん感染が強く疑われる。同検査は、保険適応であり一般検査として実施可能であるが、患者からのウイルス分離を含め、公衆衛生上の必要性が高い場合には、地域の衛生研究所や国立感染症研究所で実施されることもある。詳細は、最寄りの保健所に問い合わせされたい。

保育園、幼稚園、学校、医療機関等は、しばしば集団発生が起こる。その他の職場等における集団発生の報告もあり、麻しん発生時には迅速な対応が必要である。麻しんに対する免疫を持たない者が麻しん患者と接触した場合、接触から3日以内ならワクチン接種で、6日以内なら血液製剤の一種であるガンマグロブリン投与によって発病を予防することができる事がある。また、発病初期は発疹がなく麻しんと診断がつきにくいため、流行が疑われるときには、発熱が見られたものは速やかに登園、登校、勤務等を控えるようにすることも重要である。たかが麻しん、と侮ることなく、保健所等や医療機関、学校・職場等が連携し、注意深くかつ速やかに対応することが重要である。

IDWR 週報 2006年第16号「速報」掲載)


Copyright ©2004 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.