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麻しん(2007年第17週) |
今回の麻疹流行は10代、20代の罹患例が増加しており、集団発生事例の調査では麻疹未罹患でワクチン未接種者の群からと、発病率は低いものの麻疹未罹患でワクチン1回接種の群からの発病者もみられている。麻疹を予防するためのワクチン(麻疹ワクチン、麻疹・風疹混合ワクチン、もしくは現在国内では使用されていない麻疹・おたふくかぜ・風疹混合ワクチン)は、有効性(免疫獲得率)は95%以上と高いものの、1回のワクチン接種では免疫を獲得できなかった者が数%存在する。また、近年麻疹発症者数が大きく減少したことによって麻疹ウイルスに曝露・感染する機会が激減し、麻疹に対する免疫のブースター効果(免疫増強効果)を得る機会が少なくなった。そのため、ワクチン接種によって一旦免疫を獲得したワクチン既接種者の一部においては、麻疹ウイルスに対する免疫が減衰している場合もある。このように1回接種群で免疫が獲得できなかった一部の者及び免疫が減衰した者や、未だにワクチン未接種であり、かつ麻疹に罹患したことがない者が麻疹感受性者となり、流行による感染機会の増大に伴って麻疹ウイルスに感染・発病しているものと思われる。
感染症発生動向調査によると、全国約3,000カ所の小児科定点からの麻疹の報告数は第13週以降増加が続いており、2007年第17週は20都府県から103例の報告数(定点当たり報告数0.035)となり、2004年以降の最高値となった(図1)。都道府県別では埼玉県、千葉県から各16例、東京都11例、栃木県8例、神奈川県、徳島県、鹿児島県から各6例、宮城県、長野県、香川県から各5例、山梨県4例、茨城県3例、群馬県、大阪府、兵庫県、広島県各2例、三重県、滋賀県、島根県、佐賀県各1例の順であり、埼玉県、千葉県、東京都を中心とした関東地域からの報告数は62例と前週の55例よりも増加し、さらに関東地域以外からの報告数も前週より増加している。2007年第1〜17週までの小児科定点からの患者累積報告数は383例であり、埼玉県109例、東京都64例、千葉県42例、神奈川県30例、大阪府16例、栃木県、愛知県各14例、鹿児島県12例の順であり、関東地域が中心であるものの、麻疹発生は全国的に広がりつつある(図2)。累積患者報告数の多い主要都府県の患者報告数の週別推移をみると、現在の関東地域の流行は2006年末に埼玉県を中心に開始し、その後2007年に入って東京都、千葉県、神奈川県等の関東地域に拡大しているものと推定される(図3)。累積報告数の年齢別割合では、0〜1歳児の発病者の割合は依然として高いものの(0歳14.5%、1歳15.6%)、これまで全報告数の60%前後を占めてきた0〜4歳からの報告割合は40.0%と減少している。一方、10〜14歳からの報告割合が33.5%と増加しており、比較的年長者の割合は流行の進展とともに更に増加してきている(図4)。
全国約450カ所の基幹定点からの成人麻疹(届出対象は15歳以上)の報告数は23例(定点当たり報告数0.051)となり、2002年以降の最高値であった前週(報告数39例)から減少した(図5)。都道府県別では東京都15例、群馬県3例、岩手県、福島県、神奈川県、長野県、香川県から各1例の報告であり、東京都からの報告数は前週の12例から更に増加した。2007年第1〜17週までの累積報告数は130例であり、都道府県別では東京都53例、神奈川県18例、埼玉県12例、長野県10例、宮城県8例、群馬県6例、茨城県5例の順であり、東京都を中心とした関東地域での患者の増加が続いている(図6、図7)。累積報告数の年齢別割合では、20〜24歳(36.0%)、25〜29歳(20.8%)、15〜19歳(20.8%)、30〜34歳(13.6%)となっており、20代からの報告割合が50%を超えているとともに、15歳から39歳までの報告数が全体の96%を占めている(図8)。
4月末の第17週現在、埼玉県、東京都、千葉県、神奈川県を中心とした関東地域における麻疹の流行は更に拡大傾向にあることに加えて、大阪府、宮城県、鹿児島県、長野県、香川県等他の地域においても麻疹の患者発生数は増加しつつある。今回の流行において、10代、20代の患者発生を中心とした成人麻疹の報告数は、2001年の流行時の水準に達しつつあり、相当数の成人麻疹例が発生しているものと思われるが、成人麻疹の報告医療機関である基幹定点は450箇所と少なく、実際の患者発生数を正確に把握することは残念ながら不可能である。10代、20代等の年長者の行動範囲は広く、また感染力は強いものの発熱やカタル症状が主で発疹のみられないカタル期においては、麻疹と自覚しないままに活動を継続してより広範囲に感染を広げてしまう可能性が高いものと考えられる。既に高校や大学における集団感染例が複数例発生しているが、公共交通機関内や施設、レストラン等における不特定多数の者への麻疹ウイルスの感染伝播による、感染源不明の麻疹発生例も相当数存在しているものと推測される。今後麻疹の発生動向に対してはより一層の注意深い観察が必要であると共に、麻疹の流行阻止に向けた迅速で効果的な対策の実施が望まれる。 ●麻疹: http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/index.html (IDWR週報 2007年第17号「注目すべき感染症」掲載予定) |
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