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重症急性呼吸器症候群(SARS)に関するWHO世界会議
WHO Global Conference on Sever Acute Respiratory Syndrome

Where do we go from here?(今後の対策と方針)

2003年6月17〜18日
クアラルンプール(マレーシア)にて開催


概要報告 

「SARSに関するWHO世界会議:今後の対策と方針」は、マレーシアのクアラルンプールで平成15年6月17日、18日の両日に開催された。43*ヵ国から900人以上の参加者が第一線の臨床、検査、疫学上の経験を発表し、SARS封じ込めにどのような対策が最も効果的で有るかという意見を交換するために集まった。

専門領域の科学者たちは、今日までの知見を集約し、実際の経験を引用し、将来へ向けての最優先事項を指摘した。会議での発表は、以下の3つの非常に重要な問題点について論ずるように構成された。

  ・SARSは根絶できるのか?
  ・現在の感染制御手法は有効であるか?
  ・現在の警戒と対応のシステムは適切に機能しているか?

第一日目はこの流行の歴史、ジュネーヴの本部やマニラの西太平洋地域事務所(WPRO)を通じたWHOの調整による世界的あるいは地域的な対応、中国、香港中国特別自治区、シンガポール、ベトナム、カナダ、アメリカにおける国あるいは自治区としての対応などに関する報告で始まった。9つの発表で、最先端の科学的知識が検討された。広範な個人的経験を持った専門家がSARSの起源について報告し、臨床診断と管理について議論し、診断検査の状況の検討を行い、この疾患の疫学的側面において何が分かっているかを吟味した。ワクチン開発の進捗状況も報告された。この他に、SARSの出現における動物の役割や動物宿主の存在の可能性について議論し、感染伝播の連鎖における環境因子の役割を検討し、SARSの心理的な影響を評価し、難しいリスクコミュニケーションにおける問題点を集約した。

第二日目には小グループに分かれて、先の3つの重要な問題点に対する解決策を求め、今後の対策に対する提言をこの解決案に沿って策定するために検討が行われた。

* 参加43ヵ国:Australia, Bangladesh, Belgium, Brazil, Canada, Chile, China (People's Republic of), Denmark, Egypt, Finland, France, Germany, Ghana, Greece, Guatemala, India, Indonesia, Israel, Italy, Japan, Kenya, Malaysia, Mongolia, Netherlands, New Caledonia, New Zealand, Nicaragua, Pakistan, Philippines, Republic of Korea, Saudi Arabia, Singapore, South Africa, Spain, Switzerland, Syria, Thailand, Trinidad and Tobago, United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, United States of America, Viet Nam, Zimbabwe

世界的、地域的、国家的な対応

SARSが国際公衆衛生上の危機で有ることが認識され、その直後に導入された迅速に一掃するための対策の記録が、集団発生の世界的、地域的対応に関した発表で示された。WHOによって発せられ、メディアによって増幅された「Global alert(世界的警鐘)」は、高度の警戒体勢をもたらし、新たな地域へ「輸入」された症例の迅速な検知と隔離を奨励することに役立った。早期に、そして最も深刻に影響を受けた地域への援助のためにWHO、WPRO、GOARN(WHOの世界的集団発生監視警戒と対策のためのネットワーク)は、疫学的調査と封じ込め作戦を支援するために、専門スタッフの派遣を含む直接的な技術的援助を行った。

新しく、ほとんど知られていなかった疾患に関する研究を促進するためにWHOは、それぞれウイルス学者、臨床家、疫学者からなる3つの電子ネットワークを構築した。彼らはこの厳重なセキュリティーに守られたウェブサイト上と毎日の電話会議で、経験と発見を共有した。1ヵ月の内に原因病原体が最終的に特定された。WHOウェブサイトに発表される症例定義、実践的ガイドライン、推奨される感染制御対策は、この疾患に関する新たな知見が加わるたびに更新された。高度の警戒と政治的取り組み、昼夜を問わない研究、経験と発見の自由な共有、そして迅速な情報交換が、感染制御対策の改善やその効果的利用などに貢献した。

集団発生の発生当初から、WHOの目的は更なる国際的拡大を阻止し、この新疾患がヒト社会へ定着することの防止であった。各国の状況報告から、この目標は実現可能と考えられた。伝統的な疫学的手法である患者隔離、感染制御、接触者追跡調査、接触者の適切な管理、旅行制限などの適用は、介在する保健医療システムの大きな違いや集団発生の深刻さや疫学的特性の違いに拘わらず、感染が広がったすべての地域で有効であったことが証明された。各国からの報告はまた、ある感染症が著しく国民的、政治的懸念となった場合には、多くの改革を含めた保健医療システムの早急な改良が可能であることを示した。

SARSは根絶できるか?

小分科会の各グループは、SARSが根絶できるかどうかを決定するにはまだ時期尚早であり、その目標達成の前には幾つかの難問が立ちはだかっていると言う結論に達した。無症候性のキャリアが存在しないこと、慢性感染が存在しない、アフリカの様な対策が難しい新たな地域で患者が出ないことを前提に、現在のヒト−ヒト間の感染伝播の連鎖はおそらくは断ち切ることができると言う点で、専門家たちは同意した。特に幾つかの研究によって示された、SARSコロナウイルスの動物宿主の存在は非常に根絶の達成を難しいものにする。現在の集団発生においては、主要な感染伝播経路では無いと考えられているものの、感染者の糞便中へのウイルスの排泄と、環境中での明らかなウイルスの安定性は、さらに根絶への障害を増すことになる。

これらのグループにおいて示された優先事項は、感染と伝播の疫学に関する一層の情報と、ウイルスに関する研究が更に必要であることに集約された。特に一層の研究強化を必要とする事項には、「スーパースプレッダーによる感染拡大」の影響、ウイルス宿主となり得る動物種、疾患の発生につながった要因、環境要因の役割、流行を制御する様々な対策の有効性を含むように決められた。このほかの優先事項としては、診断検査手法と試薬の標準化、信頼性の高い疾病早期に利用可能な治療開始前検査の開発、検体の安全な輸送方法の改善、疾病の病原性や臨床経過を理解し、ワクチン開発や抗ウイルス薬の試験に利用するための動物モデルの開発が含まれる。

現在の感染制御対策は有効か?

専門家たちは、医療機関での感染伝播を防止するために現在推奨されている対策手法は理論上非常に有効であるが、有効性を確保するためには、適切な設備、訓練、一貫した適用が必要である。このような対策は、非常に資源集約的で、社会的活動の阻害となり、長期間継続することが困難である。多くの保健医療施設での感染制御対策能力とその実践は改善が必要であった。最低限の国際的レベルの安全な実践(標準予防策にリスクに基づく予防策を追加したもの)が確立されなければならない。マスクの型のような、最も適切な感染防止手法を決定し、これらのような対策をいつ用いるかを決定するために、研究が必要であった。それに加え、隔離施設や個々の着用者におけるマスクのフィットテストにまでおよぶ適切な感染防止手法が、より広範囲で利用できるようになる必要があった。

コミュニティー(医療機関外の地域社会)での感染伝播の制御手法と、国際的拡大を防止する対策は、その有効性を知るためにさらに評価検討をする必要があった。これには、発症時の即事報告を奨励するための、一般社会への情報提供と知識普及キャンペーン、発熱を報告するホットライン、救急救命施設の負担を軽減するための「発熱クリニック」の設立、公共の場における体温スクリーニング、旅行者への勧告、国境に置ける質問票と体温チェックによる入国、出国スクリーニングなどが含まれる。接触者追跡調査と、自主隔離や接触者自宅隔離の有効性は、十分に示された。

医療施設と周囲の広域なコミュニティーの関連に注目して、曝露の状況に基づき優先順位を決めた接触者追跡調査と併せてコミュニティー内での感染制御対策の手法を取れば、最大限の効果が上げられると専門家らが示唆した。しかしながら、確固とした結論に達するまでには、さらに詳細な検討が必要である。自宅内、あるいは施設内での隔離が感染制御対策に盛り込まれた場合は、経済的、精神的支援によって補償されるべきであり、さらに影響を受ける人々の日常的需要を確実に満たさなければならない。隔離状態におかれる個人あるいは集団に対する、恐怖感や不適切な氾濫情報によって増幅された誹謗中傷は、特に重要な問題であると指摘された。参加者の中には、コミュニティー内や国際的感染拡大の防止に対する、目に見える感染制御対策が取られていることが、SARS症例の検知に対して有効であるかどうかに拘わらず、社会的、経済的な信頼を取り戻すためと感染拡大の抑止力として重要であるという考え方を持つ人達がいた。

現在の警戒と対応のシステムは適切に機能しているか?
専門家らが述べたように、SARSの封じ込めの成功が続いていることが、現在の警戒体制と対応のシステムが適切であることを示している。しかしながら、SARS対策の要望でこれらのシステムはその限界まで達した。いかに成功を収めていようとも、このような感染制御対策は長期間維持することはできない。改良したサーベイランスでは、再発生のリスクの最も大きい地域では高い感受性を持った「アラート」症例の定義の準備、他の呼吸器感染患者の罹患率が高い時期にSARS感染患者を検知するための、治療開始時点での診断検査の開発、臨床検査機能の拡充と検査室ベースのサーベイランス、臨床データ、疫学データ、検査データのリアルタイムの解析を可能とする総合的情報分析手法の開発が必要となる。

対応の改善の優先事項としては、不測の事態に対する危機管理計画の確立、協力・協調のためのより良い機構、世界的、地域的、国家的レベルの非常事態に対する許容限界の拡大、検査施設の処理能力と情報技術システムの強化などが挙げられる。現在進行中の国際保健規則(IHR)の改正は、新興・再興感染症を封じ込める能力を高めるものでなくてはならない。

一般大衆と広報機関への情報提供と情報共有(コミュニケーション)に関する問題は、有効な対応の独立した一部門として、特に個別に取り上げられた。情報は透明性を持って、正確に、時期を逸せずに提供、共有されなければならない。SARSは集団発生の制御の一要素として、また重大感染症事例における健康、経済、心理上の(悪)影響を減じる方策の一つとして、より良いリスクコミュニケーションの必要性を明確に示した。

次段階として取るべき対策

SARSは、緊密に相互に関連し合い、人の移動の激しい世界で、新しい疾患がどれだけ広範な影響を与え得るかを劇的に示した。また、密接な共同研究とデータと経験の完全な共有に特徴づけられるように、連携をとった国際的対応の重要性も強調した。このような対応を指導し協調を図る機能が権限と共に、2003年5月の第56回世界保健会議(WHA)においてWHOに与えられた。SARSの集団発生を受けて、各国代表はWHOに公式の政府報告以外の情報源からの情報に基づいて行動し、感染が広がっている国内の感染制御対策が国際的拡大を防止する点で疾病の封じ込めに有効であるかを確認するため、当該地域における調査を行う権限を与える決議を満場一致で採択した。このように強化された機能によって、国際的問題である感染症の事例による被害を最小限に止めるため、そして可能であるなら新興疾患がヒト社会へ定着の機会を得る前に封じ込めるための、現行のそして将来的努力のすべてが督励される必要がある。

参加者によって指摘された研究の優先事項は、特にSARSの季節的再発生が否定できない状況では、推進されなければならない。ワクチンの開発と効果的治療の研究以外では、信頼性のある治療開始時点での診断検査法、改定症例定義、各対策の有効性に関する知見、可能性のある動物宿主に関する一層の研究などが緊急の課題であると判断された。SARSの再発生の可能性についての予測は、この新疾患の発生起源の状況の一層の理解無しにはできない。

結 論

世界的な視点から言うとSARSの流行は、適時報告、迅速な双方向性の連絡、科学的根拠に基づく対応により新興の微生物学的脅威と取り組む、世界的規模のサーベイランスと対応能力の重要性を示した。多くの参加者たちが、WHOの調整による国際協力が研究課題の達成に重要であること、また、臨床、研究、公衆衛生、獣医学のそれぞれの分野の連携の必要性を強調した。

国家的視点からは、社会全体を動かすための高次の強力な政治的指導性、迅速な対応、連邦制度を敷く国の国内における、全国レベルと地方レベルの協調関係の改善、公衆衛生分野への投資の拡大、サーベイランス、隔離、検疫手法に付随する法規の改正などが必要であることを学んだ。また、医療関連施設や長期介護施設(老人ホーム)における感染制御対策や、国境における輸入症例のリスクを減じ、国際空港における輸出症例のリスクを減じるためのスクリーニング手法の必要性が指摘された。

SARSは急速に拡大し、広範囲へ被害を及ぼすにあたり国際化社会の状況を巧みに利用したが、その感染制御の努力にもまた、世界が緊密に相互に関連し合っていることによる大きな恩恵が与えられた。ウェブ上に出される警戒情報に始まり、症例の毎日の電子報告、電子的に結びつけられた研究施設の支援などに、利用可能な資源を最大限に利用し、知識の創出と普及の進展を促進するためにコミュニケーション技術が効果的に利用された。

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(更新日:2003/8/20)