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WHOがSARSの疫学に関するコンセンサス・ドキュメントを発表

2003/10/17 WHO原文


WHOは本日、35ページからなるSARSの集団発生の疫学に関する国際的研究を集約した報告書を発表した。

- WHO consensus document on the epidemiology of severe acute respiratory syndrome (SARS) (pdf, 750k)

この報告は、主な集団発生が起こった全ての地域からの経験に基づいた知見のみならず、最近出版された数多くの研究や未発表の報告に基づき、公衆衛生、疫学、臨床ウイルス学の専門家らの見解を示している。また、WHOのSARSの疫学に関する特別研究班(WHO Ad Hoc Working Group on the Epidemiology of SARS)の毎週行われている電話会議からの情報も取り入れている。

この報告書はSARSに関する幾つかの未解決の懸念に言及しており、なかには結論が出されたものもある。これらの結論はWHOが、先の集団発生期間中に発表した提言が、最新かつ完璧な証拠に照らしてもなお、SARSの再流行に対して有効であるかどうかを判断する参考になるものである。この報告書はまた、主な集団発生の場それぞれにおける、顕著な疫学特徴についても触れている。

この報告書は、WHOがジュネーヴで主催する連続した4つのSARS会議の開始時に発表される。この会議は10月20日(月)から11月1日(火)まで開かれ、科学的研究、検査上の問題、臨床的な治療プロトコール、ワクチン開発の見通しに関する優先事項を取り上げる予定である。

来週初会合を開く予定のSARS研究諮問委員会(SARS Research Advisory Committee)では、動物宿主の可能性がある動物の調査から診断検査法の現状にいたる、広範囲な研究の必要性について検討する予定である。

検査部門会議では、診断検査の精度保証に関する重要な問題を検討する予定であり、国レベルでSARSウイルスの研究を行ったり、あるいは患者検体を保存する施設の整備に関する提言を取りまとめることが期待されている。そのような情報は、SARSウイルスを取り扱うか、検体を保存している実験室での事故により、SARSが再発生するリスクという点から重要なものであると考えられている。

臨床部門会議では、SARSの治療の評価における枠組みについて、合意に達することが目標である。SARSが再発生した場合に、すべての集団発生の場で、標準化したプロトコールを用いて同時に同様の臨床治験を行なうことは、最も効果的な治療法に関して結論づけることを大いに促進する新たな研究方法であり、そのため、世界中すべてのSARS患者に知られている限り最良の治療による恩恵が、確実に受けられるよう支援することになる。

ワクチン部門会議では、ワクチン候補の現状を評価し、いくつかの規制事項について検討する予定である。

これらの会議開催中に達した主な結論や提言の最新情報は、SARSウェブサイトに掲載される予定である。

WHOのSARSの疫学に関する最新の知見の集約文書:報告書からの幾つかの主な結論

−報告書によると、SARSが空気感染する疾患であるという証拠はない
すべての集団発生の場において、主要な感染経路は目・鼻・口からの感染性の呼吸器からの飛沫への直接接触である。1人の患者が平均3人を感染させたことは、SARSが空気中の浮遊微小粒子よりも、むしろウイルスを含んだ飛沫との直接接触により広がったと考える方が自然である。インフルエンザ*や麻疹といった空気中に病原体が浮遊する疾患においては、たった一人の患者が咳をすることにより室内にいる全員を感染させることができる。これがSARSにおいて発生した形跡はない。このことから、頻回の手洗いのような基本的な感染制御手技が、この疾患の拡散速度を落とさせる上で大きな役割を果たす。

* インフルエンザは飛沫感染が主体とされているが、空気感染の可能性もあるとされているので、原本通りとした。

−医療従事者が特に感染リスクにさらされている
医療従事者、特にエアロゾルを発生する行為に関与していた者がSARS患者全体の21%を占めており、その割合は可能性例として報告された症例の3%のアメリカから、43%のカナダまで様々である。幾つかの例では、医療従事者がマスク、眼の予防具、ガウン、手袋をしていたにもかかわらず感染した例もある。その他少数ではあるが、軽症の患者に短時間の直接暴露をしたのちに感染した例もある。

−感染のリスクは第10病日ごろが最も大きい

気道からのウイルス排出は、第10病日ごろに最も多くなり、その後減少していく。感染効率は、通常、発症して第2週目に入った重症患者や、急速に臨床経過が悪化していく患者に暴露された場合が最も高くなるようである。有症状の患者が発症から5日以内に隔離された場合には、二次感染はほとんど起こらなかった。しかしながら、感染初期の患者に暴露し感染した、例外的事例もいくらかある。

−報告書によると、解熱後10日以上経過した患者が感染を広げた形跡はない

この結果は、現在の接触管理や退院基準に関するWHOの提言を支持している。

−小児はめったにSARSに罹患しない

現時点で、小児から成人に感染した事例が2例報告されているのみで、小児から小児への感染は報告されていない。3つの独立した疫学的調査により、学校でSARSが感染伝播した確証は見つからなかった。さらに、妊娠中に感染した母から生まれた新生児に、SARS感染の兆候は見られなかった。小児が、無症状あるいは軽症のSARSに感染しているかどうかを確定するには、さらに調査が必要である。

−メトロポールホテルでの集団発生の意味するところは、まだ完全には解明されて いない
SARSの国際的拡散の発端となった、香港のメトロポールホテルにおける2月下旬の集団発生は、それを取り巻く詳細な状況調査によっても、すべての疑問点の解決には至らなかった。この事例の間、ウイルスは少なくとも16人の宿泊客や訪問者に感染したが、彼らはすべてホテルの9階に結びつけられた。発端者が宿泊した911号室の外側のカーペット上と、エレベーター周囲から環境検体を採取したところ、汚染領域(おそらく嘔吐物あるいは気道分泌物)であることが判明した。発端者がこのホテルで一晩過ごしてから3ヶ月経過後も、検体はPCR法により陽性であった。検査は生きたSARSコロナウイルスそのものではなくSARSコロナウイルスRNAの存在を示したに過ぎないが、この結果は環境中でこのウイルスが長期生存することを示唆している。

メトロポールホテルの集団発生は、「superspreading event(異常に多くの感染伝播を発生した事例)」として認識されている。しかしながら、発端者は第9病日および第11病日に検査した際には、特に異常に高いウイルス排出量は示さなかった。

−航空機内での感染伝播のリスク
国際線フライト5便が、有症状の可能性例から乗客や乗務員へのSARS感染に関連があるとされた。本報告書内に、これらフライトに関するより詳細な情報が記載されている。報告書によると、3月27日にWHOが航空機の利用に関連して更に国際的拡散する機会を減少させるために、飛行機による出国時スクリーニングやその他の対策を含む旅行勧告を発表した後は、航空機内での感染伝播が確認された形跡はない。

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(更新日:2003/11/5)