*SARS 委員会は超省庁的特別対策委員会である。
接触者追跡調査手法
接触者追跡調査は、家族4人、共に旅行した5人の同僚、12月10日に彼を自宅へ送った運転手、同じ飛行機の便に乗り合わせた14人、12月11日に患者が診察に訪れたクリニックの医療スタッフと患者11人を含む、SARS症例と密接な接触があった者に対して実施された。合計34人に対して台湾CDCによる調査が行われ、10日間の「自主健康管理」を行うよう指示された。このうち20人は12月19日に、12人は12月20日に、最後の2人(症例の妻と父)が12月25日に「自主健康管理」期間を終えた。これらの人は全員健康状態は良好で、発熱も症状もまったく無い。患者との接触後にシンガポール、香港、米国へ渡航していた4人の旅行客は、国家保健当局により特定され、彼らも症状の発言は無かった。
これに加え、予防医学研究所からの情報によると、患者と同じ研究室で働いていた5人のうち2人が、曝露の発生した後である12月10日と11日にそれぞれ研究室へ入室していた。従って、予防医学研究所はより厳格なバイオセーフティー対策をとり、職場でこの症例と密接な接触があった36人に「自主健康管理」を行うように指示した。さらに重要なことには、彼らのいずれも、SARSの徴候/症状は呈していない。
疫学的調査
独立した調査チームが、この流行の感染源と、推定されるSARSの流行規模を明らかにするための調査に組織された。この患者は12月17日午前10:00に、SARS指定病院(台北市立和平醫院:Taipei Municipal Hoping Hospital)に転院した。同日調査チームはビデオによるリンクを通じてこのSARS患者から事情を聞いた。調査チームはまた、IPM−NDUに勤務する他の研究者や管理職から事情を聞き、事故が発生した実権室内の状況査察を行い、最近数週間の実験記録やコンピュータ記録も検討した。これに加え、実験室および実験室入り口周囲からの環境検体の採取が行われた。調査チームによる暫定報告を以下に示す。
12月17日の患者からの聞き取り調査の結果 -- この患者は数ヶ月のあいだ、実験室内でのSARS―CoVに対する抗ウイルス薬の効果のスクリーニング調査を分担していた、多施設間共同研究プロジェクトに従事していた。彼が実験室で働いたのは12月6日が最後であった。このときの退室前の最後の後かたづけの時に、感染につながったと考えられる出来事が起こったことを彼は思い出した。バイオセーフティ封じ込め施設の一部であり、実験に使用する試薬等の運搬に利用する「陰圧搬送室(negative-pressure transporting chamber)」内で、施設附設の手袋を着けたままでは届かないあたりに、実験廃液がこぼれているのに彼は気づいた。従って、彼はその部分にアルコールを噴霧し、こぼれた廃液を掃除するために搬送室の戸を開けた。これは、彼にとって通常とは異なる作業であった。(患者の医学的状態に配慮し、聞き取り調査はこの時点で不完全に中断された)
環境検体 -- 実験室は他の二人の同僚の研究者によって、12月11日まで使用された。12月18日に、実験室からの18の環境検体と、廊下や実験室外の他の部屋からの15検体は、ドアノブ、電源スイッチ、電話、ピンセットなどから系統的に集められ、4組の異なるプライマーを用いてSARS―CoVのRNAをRT―PCR法により検査した。搬送室の上部に置かれていたアルコール噴霧器の取手と、アイソレーター(バイオセーフティ・キャビネット・レベルIII)の灯火スイッチからの2検体が繰り返し陽性結果を示した。このほかの、実験室、ホール、他の部屋からの検体すべてはSARS―CoV陰性であった。
暫定的結論 -- 調査チームは、コンピュータの作業記録、IPM-NDUの管理職と実験室の同僚、環境検体の検査結果などから独立に収集した情報に基づき、これらが患者自身の報告を裏付け、12月6日に実験廃液がこぼれ、清掃のために搬送室の戸を開けたという出来事が、彼のSARS感染の最も合理的説明であるという主張と矛盾しないとの結論に達した。さらに調査チームは、もしこの実験室に汚染があったとしても、現時点では限られた場所だけにしっかり封じ込められていると結論付けた。
国際的協調
国際的パートナーへの報告: 台湾CDCはこのSARS確定例について直ちにWHO、WPRO、米国CDC、日本のNIID、APEC(アジア太平洋経済協力会議:Asia-Pacific Economic Cooperation)事務局と、症例が旅行したシンガポールへ報告した。これに加え、台湾CDCの事務総長であるSu博士は、個人的に台湾にある大使館、領事館、代表部経連絡をとった。今回は2003年9月のシンガポール以来2回目の、SARS研究者に発生したSARS―CoV感染であることから、WHOはバイオセーフティー対策に対して大きな懸念を抱いていた。台湾CDCは、さらにバイオセーフティーに基づく感染制御と調査を行うため、WHO/WPROからの専門家と非常に顕密な連絡をとった。
接触者追跡調査における他国との協調: SARSの実験室感染例と同じ機体に乗り合わせて、3列以内に座席のあった5人の旅行客は、他の国へ向かう途中の国際旅行客であった。台湾CDCは名前、国籍、フライト番号、座席番号などの情報を、香港(1人)、日本(2人)、シンガポール(2人)、米国(2人)へAPECのSARSコンタクトポイントと、美國在台湾協會(AIT:American Institute in Taiwan)、交流協会(Interexchange Association)を通じて提供した。その成果を以下の表に示す。
No.
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国籍
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渡航歴
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追跡調査結果
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1
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シンガポール
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12月16日 CI 66
台北→シンガポール
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1) 12/18 シンガポール衛生署と駐シンガポール台北経済文化代表處のTong-Yen Ho氏へ接触者情報が提供された。
2) 12/22 台湾衛生署はこの旅行者が中国からシンガポールへ帰国し、健康であるという情報を受け取った。
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2
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日本
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1) 12/18 日台交流協会台北事務所へ、接触者情報が提供された。台湾CDCは彼の接触者情報の提供を依頼した。
2) 彼は現在台湾で働いており、台湾CDCにより経過観察され、症状は無い。
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3
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米国
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12月11日 CI 100
台北→東京
12月11日 JAL 002
東京→サンフランシスコ
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1) 12/18 AIT、日本の厚生労働省(MHLW)、日台交流協会台北事務所へ接触者情報が提供された。
2) 12/18 夕刻に台湾CDCは、日本のMHLWからこの接触者が米国へ向かったという情報の提供を受けた。
3) 12/19 AITと米国CDCへ前述の情報を提供した。
4) 12/25 米国CDCから彼が元気であるという情報を受け取った。
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4
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米国
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12月11日 BR 851
台北→香港
12月12日 CX 530
香港→台北
12月14日 CX 405
台北→香港
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1) 12/18 香港衛生署へ接触者情報を提供した。
2) 12/18 香港衛生署のWu博士から夕刻に連絡があり、台湾CDCからの情報の受領が確認され、機内での座席の位置と名前の提供依頼があった。
3) 12/19 香港衛生署から、この接触者が確認されたとの報告を受けた。
4) 香港衛生署からの確認情報により、この接触者が10日間の隔離期間を発症すること無しに経過したことが分かった。
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5
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米国
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12月16日 CI 008
台北→ロサンジェルス
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1) 12/18 AIT、日本のMHLW、日台交流協会台北事務所へ接触者情報が提供された。
2) 12/25米国CDCから彼が元気であるという情報を受け取った。
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原文:http://203.65.72.52/sarsdoc/en/122503.pdf