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台湾衛生署疾病管制局 更新3

 台湾の研究施設において感染したSARS確定例の報告

 (2003年12月26日)



症 例
2003年12月17日に台湾で、44歳の男性研究者がSARSであることが確認された。
この患者は、台北の國防大学(國防医学院)予防医学研究所(IPM−NDU)で働く上級研究官で、国家科学委員会の支援によってSARSコロナウイルスの研究を行っていた。 彼はこの5月以来、台湾で唯一のP4実験室においてSARSに関する研究を行っていた。

この症例はCI-661便で12月7日13:45にシンガポールを訪れ、シンガポール防衛庁医学環境研究所(DMERI:Defence Medical and Environmental Research Institute)での医学関連の問題についての意見交換に参加するために、12月10日までシンガポールに滞在した。その後12月10日12:18にCI-662便で台湾へ帰国し、このとき熱は無く、中正(CKS)国際空港での体温スクリーニングを通過した。

彼はシンガポールから帰宅した夜に発熱し、その時の口腔内体温は38.5℃であった。彼は下痢が始まるまで、初期の症状および徴候から、インフルエンザに感染したものと思いこんでいた。12月11日に台北県新店(Hsintien)のクリニックへ診察のために、妻が車を運転して連れて行き、それ以降自宅に留まって休んでいた。12月16日の夕方に、救急車で三軍總醫院(Tri-Service General Hospital)急診室を受診し、胸部レントゲン写真によって右肺の肺炎が確認された。 直ちにSARSが疑われ、SARSコロナウイルス検査のリアルタイムPCRとRT-PCR(逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応)のための検体として、咽頭拭い、うがい液、血液が採取された。 三軍總醫院での検査結果はSARS―CoV陽性であった。受診から6時間後の12月17日早朝、さらに台湾疾病対策センター(台湾CDC)のウイルス学研究所で、最初の検査から2時間後に行われたこの患者の診断が確認された。

台湾CDCは、WHO(世界保健機関)/WPRO(西太平洋事務局)のSARS検体を外部検証のために、日本のNIID(国立感染症研究所)へ送るようにとの提言に従った。NIID(日本)はWHOが認証する国際的リファレンス研究施設のひとつであり、台湾CDCとの協力関係を最近確立した。この検体は2003年12月20日にNIIDへ送付された。SARS−CoV検査は基本的なRT-PCRで実施された。12月23日にNIID(日本)から台湾CDCへ送り返された検査結果によると、喀痰がSARS−CoVのゲノム陽性であった。この検査結果は、WHOおよびWPROへも送付された。

感染制御対策
台湾CDCでは、SARSの予防措置を、レベル 0,A,B,Cの4段階に分類している。SARSの最初の患者が確認されたため、SARS予防対策の感染制御レベルは、SARS特別委員会により12月31日までの期間、「レベル 0(ゼロ)」 からより厳しい「レベルB(国内で第一例が出た場合)」へ引き上げられた。台湾衛生署は直ちに、2003年12月17日に第一回のSARS特別委員会を招集した。その結果、一般の人々に対して下記の予防策が導入された:

I. 出入国時対策(2003年12月18日午前零時から導入):
   1. 「自主健康管理」と自宅隔離を行うよう求められた密接な接触者の、国外旅行は許可されない。
   2. 中正国際空港(CKS:Chiang Kai-shek International Airport)と高雄国際空(Kaohsiung International Airport)での体温監視の実施:
   (1) 発熱している旅行者は、病院からのSARSに感染していないという健康状態証明書の提示があってはじめて出国が許可される。
   (2) 航空会社は、旅客機搭乗員に対する厳格な発熱スクリーニングを行うよう求められている。
   (3) 衛生署管轄下の病院で働く医師が、発熱症例の管理を支援するために、中正国際空港と高雄国際空港へ送られる予定である。
  3. 長距離(1時間以上)の移動手段を利用している人々は、出発前に体温を測定することが必要である。

II. 「自主健康管理」と自宅隔離:
  1. 密接な接触者は「自主健康管理」を行うよう命じられる。
  2. 「自主健康管理」の期間中に発熱したが、保健当局によってSARS症例から除外された者は、3日間の自宅隔離を行うよう命じられる。

III. バイオセーフティーと感染制御対策:
  1. 培養SARS―CoVを用いて実験を行っている研究施設はすべて調査され、政府によりバイオセーフティーが守られていることが保証され、承認されるまで、培養ウイルスを用いる研究のすべてを中止しなければならない。
  2. この症例の自宅は、直ちに徹底した消毒を行うよう命令が出された。

台湾のSARS対策レベル分類

 

O

A

B

C

定 義

世界的に一例も報告がない場合

世界中で初めての確定症例が報告された場合

国内で最初の一次感染の確定症例が報告された場合

国内で最初の二次感染の確定症例が報告された場合

責任・担当部局

台湾CDC

台湾衛生署

*SARS 委員会

*SARS 委員会

*SARS 委員会は超省庁的特別対策委員会である。

接触者追跡調査手法
接触者追跡調査は、家族4人、共に旅行した5人の同僚、12月10日に彼を自宅へ送った運転手、同じ飛行機の便に乗り合わせた14人、12月11日に患者が診察に訪れたクリニックの医療スタッフと患者11人を含む、SARS症例と密接な接触があった者に対して実施された。合計34人に対して台湾CDCによる調査が行われ、10日間の「自主健康管理」を行うよう指示された。このうち20人は12月19日に、12人は12月20日に、最後の2人(症例の妻と父)が12月25日に「自主健康管理」期間を終えた。これらの人は全員健康状態は良好で、発熱も症状もまったく無い。患者との接触後にシンガポール、香港、米国へ渡航していた4人の旅行客は、国家保健当局により特定され、彼らも症状の発言は無かった。

これに加え、予防医学研究所からの情報によると、患者と同じ研究室で働いていた5人のうち2人が、曝露の発生した後である12月10日と11日にそれぞれ研究室へ入室していた。従って、予防医学研究所はより厳格なバイオセーフティー対策をとり、職場でこの症例と密接な接触があった36人に「自主健康管理」を行うように指示した。さらに重要なことには、彼らのいずれも、SARSの徴候/症状は呈していない。

疫学的調査
独立した調査チームが、この流行の感染源と、推定されるSARSの流行規模を明らかにするための調査に組織された。この患者は12月17日午前10:00に、SARS指定病院(台北市立和平醫院:Taipei Municipal Hoping Hospital)に転院した。同日調査チームはビデオによるリンクを通じてこのSARS患者から事情を聞いた。調査チームはまた、IPM−NDUに勤務する他の研究者や管理職から事情を聞き、事故が発生した実権室内の状況査察を行い、最近数週間の実験記録やコンピュータ記録も検討した。これに加え、実験室および実験室入り口周囲からの環境検体の採取が行われた。調査チームによる暫定報告を以下に示す。

12月17日の患者からの聞き取り調査の結果 --  この患者は数ヶ月のあいだ、実験室内でのSARS―CoVに対する抗ウイルス薬の効果のスクリーニング調査を分担していた、多施設間共同研究プロジェクトに従事していた。彼が実験室で働いたのは12月6日が最後であった。このときの退室前の最後の後かたづけの時に、感染につながったと考えられる出来事が起こったことを彼は思い出した。バイオセーフティ封じ込め施設の一部であり、実験に使用する試薬等の運搬に利用する「陰圧搬送室(negative-pressure transporting chamber)」内で、施設附設の手袋を着けたままでは届かないあたりに、実験廃液がこぼれているのに彼は気づいた。従って、彼はその部分にアルコールを噴霧し、こぼれた廃液を掃除するために搬送室の戸を開けた。これは、彼にとって通常とは異なる作業であった。(患者の医学的状態に配慮し、聞き取り調査はこの時点で不完全に中断された)

環境検体 --  実験室は他の二人の同僚の研究者によって、12月11日まで使用された。12月18日に、実験室からの18の環境検体と、廊下や実験室外の他の部屋からの15検体は、ドアノブ、電源スイッチ、電話、ピンセットなどから系統的に集められ、4組の異なるプライマーを用いてSARS―CoVのRNAをRT―PCR法により検査した。搬送室の上部に置かれていたアルコール噴霧器の取手と、アイソレーター(バイオセーフティ・キャビネット・レベルIII)の灯火スイッチからの2検体が繰り返し陽性結果を示した。このほかの、実験室、ホール、他の部屋からの検体すべてはSARS―CoV陰性であった。

暫定的結論 --  調査チームは、コンピュータの作業記録、IPM-NDUの管理職と実験室の同僚、環境検体の検査結果などから独立に収集した情報に基づき、これらが患者自身の報告を裏付け、12月6日に実験廃液がこぼれ、清掃のために搬送室の戸を開けたという出来事が、彼のSARS感染の最も合理的説明であるという主張と矛盾しないとの結論に達した。さらに調査チームは、もしこの実験室に汚染があったとしても、現時点では限られた場所だけにしっかり封じ込められていると結論付けた。 

国際的協調
国際的パートナーへの報告: 台湾CDCはこのSARS確定例について直ちにWHO、WPRO、米国CDC、日本のNIID、APEC(アジア太平洋経済協力会議:Asia-Pacific Economic Cooperation)事務局と、症例が旅行したシンガポールへ報告した。これに加え、台湾CDCの事務総長であるSu博士は、個人的に台湾にある大使館、領事館、代表部経連絡をとった。今回は2003年9月のシンガポール以来2回目の、SARS研究者に発生したSARS―CoV感染であることから、WHOはバイオセーフティー対策に対して大きな懸念を抱いていた。台湾CDCは、さらにバイオセーフティーに基づく感染制御と調査を行うため、WHO/WPROからの専門家と非常に顕密な連絡をとった。

接触者追跡調査における他国との協調: SARSの実験室感染例と同じ機体に乗り合わせて、3列以内に座席のあった5人の旅行客は、他の国へ向かう途中の国際旅行客であった。台湾CDCは名前、国籍、フライト番号、座席番号などの情報を、香港(1人)、日本(2人)、シンガポール(2人)、米国(2人)へAPECのSARSコンタクトポイントと、美國在台湾協會(AIT:American Institute in Taiwan)、交流協会(Interexchange Association)を通じて提供した。その成果を以下の表に示す。

No.

国籍

渡航歴

追跡調査結果

1

シンガポール

12月16日 CI 66
台北→シンガポール

1)  12/18 シンガポール衛生署と駐シンガポール台北経済文化代表處のTong-Yen Ho氏へ接触者情報が提供された。
2)  12/22 台湾衛生署はこの旅行者が中国からシンガポールへ帰国し、健康であるという情報を受け取った。

2

日本

 

1)  12/18 日台交流協会台北事務所へ、接触者情報が提供された。台湾CDCは彼の接触者情報の提供を依頼した。
2)  彼は現在台湾で働いており、台湾CDCにより経過観察され、症状は無い。

3

米国

12月11日 CI 100
台北→東京

12月11日 JAL 002
東京→サンフランシスコ

1)  12/18 AIT、日本の厚生労働省(MHLW)、日台交流協会台北事務所へ接触者情報が提供された。
2)  12/18 夕刻に台湾CDCは、日本のMHLWからこの接触者が米国へ向かったという情報の提供を受けた。
3)  12/19 AITと米国CDCへ前述の情報を提供した。
4)  12/25 米国CDCから彼が元気であるという情報を受け取った。

4

米国

12月11日 BR 851
台北→香港

12月12日 CX 530
香港→台北

12月14日 CX 405
台北→香港

1)  12/18 香港衛生署へ接触者情報を提供した。
2)  12/18 香港衛生署のWu博士から夕刻に連絡があり、台湾CDCからの情報の受領が確認され、機内での座席の位置と名前の提供依頼があった。
3)  12/19 香港衛生署から、この接触者が確認されたとの報告を受けた。
4)  香港衛生署からの確認情報により、この接触者が10日間の隔離期間を発症すること無しに経過したことが分かった。

5

米国

12月16日 CI 008
台北→ロサンジェルス

1)  12/18 AIT、日本のMHLW、日台交流協会台北事務所へ接触者情報が提供された。
2)  12/25米国CDCから彼が元気であるという情報を受け取った。

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原文:http://203.65.72.52/sarsdoc/en/122503.pdf

(2004/1/7掲載)

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