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4/30/2003


SARS:診断検査法
(4月29日 4訂-1)

 

数カ国の研究者たちが迅速かつ正確なSARSコロナウイルス(SARS-CoV)の診断検査を開発するために研究を行っている。しかしながらウイルスと抗体の検出に用いる、標準化された反応試薬が入手可能になり、検査が実際の臨床の場で適切に試験的使用され検定が終わらない限り、SARSの診断は引き続き、臨床的、疫学的所見によって成される。この診断基準とは急性発熱疾患で、他の原因がない呼吸器症状を伴い、SARSの「疑い例」あるいは「可能性例」、またはその気道分泌物やその他の体液への曝露歴によってなされる。

これら症例定義は現行のCase Definitions for Surveillance of Severe Acute Respiratory Syndrome (SARS) [日本語版] に示されている。しかし、カナダ、フランス、ドイツ、香港特別行政区、イタリア、日本、オランダ、シンガポール、英国、米国などの国々では、SARSの「疑い例」や「可能性例」の症例の検体に対してSARS-CoVの検査を行っている。

SARSの診断の確定、否定を決定する検査結果の基準値は、今後決定される。

1.分子生物学的検査法(PCR)


PCR法は様々な検体(SARS診断検査のために採取された、血液、糞便、気道分泌物、体液)から、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)の遺伝子や遺伝子断片を検出することができる。PCR検査法の大事な鍵となるプライマーは、共同研究ネットワークに所属する研究所によって、WHOのウエッブサイト (感染症情報センター [日本語版] 上で公開されている。プライマーと、陽性と陰性のコントロールを含んだ、既製のPCR診断検査キットがひとつ開発された。WHOネットワークの研究施設によって、他のネットワークの研究所によって開発されたプライマーを用いた場合と比較検討検され、臨床的、疫学的情報と関連付け、このキットの性能の評価検討に必要な情報が、早急に収集される予定である。

現在公開されているPCR法は、特異性は非常に高いが、感度が低い。つまり、陰性の検査結果でも患者がSARSウイルスに感染していることを否定できない。さらに研究施設において精度管理が不十分なために検体汚染が生じても、偽陰性の検査結果に繋がる。

PCRの陽性結果:以下は、必要な検査精度管理が取られている場合について述べる。
SARSコロナウイルスの診断検査に関する提言は、非常に特異的で、陽性結果の意味するところは、SARS-CoVの遺伝子断片(RNA)が検体中に存在するということである。この結果は、生きたウイルスがいるということではないし、他の人に感染を生じるのに十分な量いるというわけでもない。

PCRの陰性結果:これは、患者が「SARSに感染していない」という意味ではない。SARS-CoV PCRが陰性となる理由としては以下が考えられる:

患者はSARSウイルスに感染していない。つまり、疾病は他の感染性病原体(ウイルス、細菌、真菌)あるいは、非感染性の原因によりおきている。

感度が低いために、検査結果が正しくない(偽陰性)。現在の検査法は感度を向上させるために更に開発を続ける必要がある。

(PCRやウイルス培養のための)検体採取が、ウイルスやその遺伝子あるいは遺伝子断片を排出する時期に行われなかった。検査した検体の種類により、ウイルスやその遺伝子断片の排出期間が短期間しかない場合も考えられる。


2.抗体検査

これらの検査はSARSコロナウイルス感染の経過中に、感染反応として産生される抗体を検出する。感染の経過中には、異なる型(IgMとIgG)の抗体が出現し、その血中レベルも変化する。これらは感染の早期においては検出できない。IgGは通常、疾病治癒後も検出できる。

以下のような検査方式が開発されたが、まだ一般発売はされていない:

―ELISA(固相酵素結合免疫測定法)はSARS患者の血清中のIgMとIgG抗体の混在したものを、疾病発症後21日目以降から信頼性を持って陽性検出する。
―IFA(免疫蛍光抗体法)はSARS患者の血清中のIgM抗体を、発症後約10日目以降から陽性検出する。この検査方式はIgGの検査にも用いる。これは信頼性のある検査方法ではあるが、蛍光顕微鏡下に固定したSARSウイルスが必要となる。

抗体検査の陽性結果:これは以前にSARS-CoVに感染した事を示す。
急性期と回復期血清のあいだで、陰性から陽性転化が見られた場合や、4倍以上の抗体上昇が見られた場合は、最近感染した事を示す。

抗体検査の陰性結果:疾病の発病後21日以降に抗体が検出されないことは、SARS-CoVによる感染はなかったものと考えられる。

3.細胞培養(ウイルス分離)法

SARS患者検体(気道分泌物、血液、糞便)中のウイルスは、培養細胞に感染増殖させることでも検出できる。ウイルスは一旦分離した後にさらに検査を行い、SARSウイルスであることを同定しなければならない。これは非常に多くの条件を満たすことを要求する検査方法だが、現時点で(動物実験以外では)生きたウイルスの存在を示す唯一の方法である。

培養陽性結果:これは検査した検体中に、生きたSARS-CoVが存在した事を示す。

培養陰性結果:この結果は、SARSを否定するものではない(PCR検査の陰性結果を参照)

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