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2003/5/28

重症急性呼吸器症候群(SARS)−66



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(5月26日、更新第66報)


トロントの状況:「地域内伝播がある地域」の解釈


トロントの状況
WHOは本日カナダのトロントを、SARSの「最近の地域内伝播」がある地域の一覧に加えた。4つの病院が関連した26例の「疑い例」と8例の「可能性例」からなる新しい集積に関する情報が、カナダ保健当局によってもたらされ、これに基づいて変更が行われた。

予防措置として、SARSではない事が明らかになるまでは、患者集積群に含まれるすべての症例がSARSの可能性がある者として扱われている。すべての症例の即時隔離、感染制御対策の強化、厳格な接触者追跡調査、接触者の任意の自宅内隔離等を含んだ対策が取られている。これらの対策は、集団発生の封じ込めに効果が高いことが証明されている。

緊急警報は金曜日に、トロントのすべての医療機関、長期ケア施設(老人ホームなど)と介護ケア・サービスの提供機関等へ出された。曝露された可能性のある人々には4つの病院のスタッフ、患者、訪問者などが含まれる。

臨床検査と疫学的調査の結果待ちではあるが、現在の集団発生の発端者もしくは最初の症例が、二次感染以上の地域内伝播を引き起こしたとする十分な情報が得られている。従ってトロントでは、「パターンB」の感染の伝播様式があると分類される。この分類は、地域内で1世代を超えた感染(三次感染以上)によるSARS「可能性例」があると定義されている。

この一覧では、3種類の感染伝播の様式に分類しているが、ある地域や国がそこに掲載されても、WHOによるこの地域や国への旅行制限の勧告を意味するわけではない。

現在WHOはトロントに対する旅行制限はまったく出していない。
SARSの地域内伝播は、新たに発症した症例から既に知られている他の症例との接触へ遡れなかった場合や、隔離されていなかった症例の接触者であったことが分かった場合に、その地域に居住する人々と、(海外)旅行者として地域を訪れる人々の双方にとって大きな懸念材料である。両方の状況とも、地域内の他の人への感染の機会を増加させる。
「最近の地域内伝播」がある地域の一覧表は、SARSの症例を検出し、報告するために役立つように毎日更新されている。確固とした信頼性のある診断検査が開発されるまでは、SARSの「最近の地域内伝播」がある地域への最近の旅行歴があることは、WHOの「疑い例」、「可能性例」の両方の症例定義の一部となっている。

4月23日にWHOは、トロントへの旅行を予定している者に対して、「どうしても必要な旅行」以外は延期するよう勧告した。この勧告は、もはや旅行者に危険は及ばないレベルまで集団発生が制御されたという疫学的根拠に基づき、4月30日に解除された。

5月14日にはトロントは、「最近の地域内伝播」があった地域の一覧表からも、WHOが海外旅行に関する勧奨(出国時スクリーニングなど)を発表している地域の一覧からも除かれた。この表から除く際の条件には、潜伏期の2倍にあたる20日間、新たな「可能性例」が発生しないことが含まれる。新たな症例が20日間を超えて発生しなかった場合は、感染伝播の連鎖が断たれ、集団発生が制御されたと考えられる。

「最近の地域内伝播」がある地域の解釈
WHOによる「最近の地域内伝播」がある地域の一覧表は、「SARSの症例定義」を用いて「疑い例」や「可能性例」を検出し、報告することを奨励するために発表されている。医療現場のような限定された環境以外における地域内伝播が報告されている地域への最近の旅行歴があることは、医師が海外旅行者の症状を診断する際の判断の助けとなり得る。

患者情報と感染が報告された国に関する最新報告
本日までに28ヶ国から、累積で8,202例の「可能性例」と725例の死亡例が報告されている。これは先週の土曜日の最後の報告に比べ、96例の「可能性例」と29例の死亡例の増加である。新たな死亡例はカナダから3例、中国から9例、香港特別行政区から5例、台湾から12例が報告されている。

台湾からは過去2日間に62例の「可能性例」を報告しており、依然として最も急速に集団発生が広がっている。台湾は現時点で、累計で585例の「可能性例」を報告しており、集団発生の初期に最も深刻な影響を受けた地域のひとつであるシンガポール(206例の「可能性例」)の症例数の2倍以上となった。

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