国立感染症研究所 感染症情報センター
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細菌性赤痢 細菌性赤痢−2005年(2006年1月26日現在)



細菌性赤痢は通常1〜3日の潜伏期の後に、全身倦怠感、悪寒を伴う急激な発熱で発症し、発熱が1〜2日続いた後、水様性下痢、腹痛、しぶり腹、膿粘血便などのいわゆる赤痢症状が出現する腸管感染症である。原因菌はShigella 属の4つの菌種(S. dysenteriae、S. flexneri、S. boydii、S. sonnei )である。菌種は亜群とも呼ばれ、それぞれA群、B群、C群、D群に該当する。通常、S. dysenteriae、S. flexneri は典型的な赤痢症状を起こすことが多いが、S. sonnei では軽度の下痢、あるいは無症状で経過することが多い。

細菌性赤痢は1999年4月1日施行のいわゆる感染症法に基づく二類感染症として、疑似症患者、無症状病原体保有者を含む症例の届け出が義務づけられている。過去の年間累積報告 数は2000年843例、2001年844例、2002年699例、2003年473例、2004年594例であったが、2005年の報告数(診断日が2005年第1〜52週のもので、2006年1月26日までに報告されたもの)は557例であった。それらのうち疑似症患者が13例あり、無症状病原体保有者は42例であった。無症状病原体保有者は、探知された患者と食事や渡航を共にした者や、接触者の調査などによって発見された者である。

疑似症を除く544例については、性別では男性260例、女性284例で、年齢は1〜94歳(中央値32歳)であった。推定感染地域は国内121例、国外412例、不明11例であった。死亡例の報告が1例(80代)あった。

国内を推定感染地域とする121例については、性別では男性52例、女性69例で、年齢群別にみると、10歳未満23例、10代5例、20代9例、30代24例、40代15例、50代13例、60代13例、70歳以上19例(年齢中央値39歳)で、他の年齢群に比し10代および20代がやや少なかった(図1)。発症月別にみると(発症日が不明の1例を除く)、3月に発症したものが26例と多かったが(図2)、このうち18例は、愛知県の福祉施設での集団発生に関連した報告であった。この集団発生では、無症状病原体保有者21例も報告されている。都道府県別にみると29都道府県から報告があり、愛知県(48例)、東京都(8例)、宮城県(7例)、広島県(7例)が多かった。検出された菌種は、S. sonnei 98例、S. flexneri 19例、S. boydii 3例、S. dysenteriae 1例であった(図3)。国外を推定感染地域とする412例については、性別では男性202例、女性210例で、年齢群別にみると、10歳未満8例、10代14例、20代161例、30代111例、40代39例、50代34例、60代38例、70歳以上7例(年齢中央値31歳)であり、特に20代および30代が多く、全体の66%を占めていた(図1)

発症月別にみると、9月、3月、8月、7月の順に多く、長期休暇を反映していた(図2)。また、推定感染国別にみると(複数回答あり)、インド113例、インドネシア64例、ベトナム49例、フィリピン36例の順に多く、アジアで多い傾向は従来通りであった。また、検出された菌種は、S. sonnei 325例、S. flexneri 71例、S. boydii 12例、S. dysenteriae 4例であった(図3)には、それらの菌種を地域毎、国毎に分けて示した。
表. 国外を推定感染地域とする細菌性赤痢における4菌種の地域別・国別報告数(N=412)

予防の基本は感染経路の遮断であり、特に手洗いの励行は予防の基本である。また、流行地へ渡航する場合には生水、氷、生の魚介類、生野菜、カットフルーツなどを避けることが肝要である。また、特に小児や高齢者では重症化しやすいので注意が必要である。

なお、細菌性赤痢はサルの間にも感染がみられ、ヒトへの感染源となり得るため、2004年10月1日施行の感染症法施行令の改正により、細菌性赤痢のサルを診断した獣医師に届け出が義務づけられた。2004年には報告がなく、2005年(2006年1月26日現在)には5都道府県から37例の報告があった。これらのサルはすべて実験動物として輸入され、検疫(法定検疫及び自主検疫を含む)によって発見されたものである。

感染症発生動向調査週報 2006年第5号に掲載)


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