国立感染症研究所 感染症情報センター
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細菌性赤痢 細菌性赤痢−2006年(2007年3月31日現在)



細菌性赤痢は通常1〜3日の潜伏期の後に、全身倦怠感、悪寒を伴う急激な発熱で発症し、発熱が1〜2日続いた後、水様性下痢、腹痛、しぶり腹、膿粘血便などのいわゆる赤痢症状が出現する腸管感染症である。原因菌はShigella 属の4つの菌種(S. dysenteriae、S. flexneri、S. boydii、S. sonnei )である。菌種は亜群とも呼ばれ、それぞれA群、B群、C群、D群に該当する。通常、S. dysenteriae、S. flexneri は典型的な赤痢症状を起こすことが多いが、S. sonnei では軽度の下痢、あるいは無症状で経過することが多いとされる。

細菌性赤痢は1999年4月1日施行の感染症法に基づく二類感染症として、疑似症患者、無症状病原体保有者を含む症例の届け出が義務づけられている(注)。過去の年間累積報告数は2000年843例、2001年844例、2002年699例、2003年473例、2004年604例、2005年553例であり、2006年の報告数(診断日が2006年第1〜52週のもので、2007年3月31日までに報告されたもの)は488例であった(図1)。それらのうち疑似症患者が11例あり、無症状病原体保有者は24例であった。無症状病原体保有者は、探知された患者と食事や渡航を共にした者や、患者と接触した者に対する保健所の調査などによって発見された者である。

疑似症を除く477例は、性別では男性243例、女性234例で、年齢中央値は29歳(1〜92歳)であった。確定または推定として報告された感染地域は、国内101例、国外372例、不明4例であった。死亡例の報告はなかった。


国内を推定感染地域とする101例(男性51例、女性50例)について、年齢群別にみると、10歳未満24例、10代8例、20代16例、30代10例、40代11例、50代13例、60代8例、70代8例、80代1例、90代2例であり、10歳未満が最も多いが、それ以上のいずれの年齢群でもほぼ同様に幅広く発生している(図2)。年齢中央値は31歳であった。発症月別にみると(発症日が不明の12例を除く)、9月(20例)、10月(25例)に発症したものが多く(図3)、2006年9月には石川県で寿司店(12例)に関連して(病原微生物検出情報IASR Vol. 27 No.12 p.10-11, 2006参照)、また、10月には大阪府で保育施設(14例、うち1例は疑似症患者)に関連して(病原微生物検出情報IASR Vol. 28 No. 2 p.15-16, 2007 参照)集団発生があった。報告都道府県別では22都道府県から報告があり、大阪府(16例)、東京都(13例)、石川県(13例)、愛知県(10例)が多かった。検出された菌種は、S. sonnei 74例、S. flexneri 26例、S. boydii 1例で、S. dysenteriae の報告はなかった(図4)。国外を感染地域とする372例(男性190例、女性182例)について、年齢群別にみると、10歳未満8例、10代18例、20代163例、30代74例、40代38例、50代23例、60代36例、70代11例、80代1例で、特に20代、次いで30代が多い傾向は従来どおりであり、両群で全体の64%を占めていた(図2)。年齢中央値は29歳であった。発症月別にみると、8月、9月、3月の順に多く、長期休暇を反映していると考えられる(図3)。感染地域別では、従来どおりアジアが316例と際立って多く、国外のみの85%、国内も含めた全体では66%を占める(図5)。アジアの中では南アジア(138例)、東南アジア(117例)が多い。また、マレーシア・シンガポールへの修学旅行(6例:菌陰性確認後の再発者1例あり報告上は7例。さらに帰国後に2次感染1例あり。)(病原微生物検出情報IASR Vol. 27 No. 3 p.8, 2006 参照)や、マダガスカルへのツアー(6例:3府県から報告)などの集団発生があった。検出された菌種は、S. sonnei 291例、S. flexneri 70例、S. dysenteriae 7例、S. boydii 4例であった(図4)。日本を含む感染国毎の報告数を、菌種別に表に示した(表)

赤痢菌は腸管出血性大腸菌と同様に、微量の菌により感染が成立するため、感染が拡大しやすく、健康被害も生じやすい。特に小児や高齢者では重症化しやすいので注意が必要である。近年日本で発生している細菌性赤痢の大半は国外感染であり、国内感染についてはそれらの国外感染者からの二次感染や輸入食品の汚染によることが推測されている。感染予防策としては、充分な加熱調理や石鹸による手洗いの励行が基本であり、流行地へ渡航する場合には生水、氷、生の魚介類、生野菜、カットフルーツなどを避けることが肝要である。さらに二次感染を防ぐためには、患者や無症状病原体保有者を早期に探知して治療し、排菌しなくなったことを確認する必要がある。

(補)細菌性赤痢はサルの間にも感染がみられ、ヒトへの感染源となり得るため、2004年10月1日施行の感染症法施行令の改正により、細菌性赤痢のサルを診断した獣医師に届け出が義務づけられた。2004年には報告がなく、2005年に5都道府県から45例、2006年も5都道府県から45例の報告(2007年3月31日現在)があった。報告されたサルはすべて輸入後の検疫(法定検疫及び自主検疫を含む)によって発見されたものである。

(注)感染症法改正により、2007年4月1日から、コレラ、細菌性赤痢、腸チフス、パラチフスは、腸管出血性大腸菌感染症と同じ三類感染症に変更され、患者および無症状病原体保有者が届出対象(疑似症患者は対象外)である。

感染症発生動向調査週報 2007年第16号に掲載)


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