国立感染症研究所 感染症情報センター
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細菌性赤痢 細菌性赤痢−2009年(2010年4月5日現在)



 細菌性赤痢は通常1〜3日の潜伏期の後に、全身倦怠感、悪寒を伴う急激な発熱で発症し、発熱が1〜2日続いた後、水様性下痢、腹痛、しぶり腹、膿粘血便などのいわゆる赤痢症状が出現する腸管感染症である。原因菌はShigella 属の4つの菌種(S. dysenteriaeS. flexneriS. boydiiS. sonnei )である。菌種は亜群とも呼ばれ、それぞれA群、B群、C群、D群に該当する。通常、S. dysenteriaeS. flexneri は典型的な赤痢症状を起こすことが多いが、S. sonnei では軽度の下痢、あるいは無症状で経過することが多いとされる。

 細菌性赤痢は1999年4月施行の感染症法に基づく2類感染症として、疑似症患者、無症状病原体保有者を含む症例の届出が、診断した全ての医師に義務づけられた。2007年4月施行の法改正により、細菌性赤痢は3類感染症に変更され、患者及び無症状病原体保有者が届出対象(疑似症患者は対象外)となった。無症状病原体保有者は、探知された患者と食事や渡航を共にした者や、患者と接触した者に対する保健所の調査などによって発見される。

 感染症法のもとで届け出られた細菌性赤痢の過去の年間累積報告数は、2000年843例、2001年844例、2002年699例、2003年473例、2004年604例、2005年553例、2006年490例、2007年452例、2008年320例であり、2009年の報告数(2009年第1〜53週に診断されたもの)は181例であった(図1)。それらのうち、患者(有症状者)は168例、無症状病原体保有者は13例であった。性別では男性87例、女性94例で、年齢中央値は30歳(0〜85歳)であった。確定または推定として報告された感染地域は、国内54例、国外126例、不明1例であった。死亡例の報告はなかった(但し、届出時点以降での死亡については届出義務がないので十分反映されていない可能性があり、届出時点以降での患者が死亡した場合の追加報告を届出医師や自治体に依頼している)。



国内感染例:
 国内を感染地域とする報告は54例であった。23都府県から報告があり、東京都(11例)、三重県(6例)、神奈川県(5例)、群馬県(4例)の順に多く、また、感染地域の都道府県としては、東京都(7例)、三重県(6例)、群馬県、埼玉県、神奈川県、愛知県、岡山県(各3例)の順であった。2009年は小規模な家族内感染事例を除き、国内での集団感染事例はなかった。

 54例の性別は男性24例、女性30例で、年齢中央値は25.5歳(0〜85歳)(男性のみ21歳、女性のみ29歳)であった。年齢群別では、10歳未満20例、10代4例、20代5例、30代8例、40代1例、50代3例、60代10例、70代2例、80代1例であり、10歳未満、60代、30代の順に多かった(図2)

 発病月は、4、5、12月が各1例であった以外、毎月3〜6例の報告がされており、目立った季節性はみられなかった(図3)

 検出された菌種は、S. sonnei 31例、S. flexneri 20例、S. dysenteriae 1例、菌種不明2例であった(図4)


国外感染例:
 国外を感染地域とする報告は126例であった。感染地域別では、従来どおりアジアが102例(81.0%)と際立って多く、次いでアフリカ11例(8.7%)であった(図5)。国別では、アジア地域ではインド、インドネシア、ベトナム、カンボジア、ネパールの順に多いが、これに次いでアフリカのエジプトが多かった(表1)。報告数の多い感染地域や感染国の傾向は、従来とほぼ同様であった。

 126例の性別は男性63例、女性63例で、年齢中央値は31歳(1〜78歳)(男性のみ34歳、女性のみ29歳)であった。年齢群別では、10歳未満6例、10代3例、20代49例、30代27例、40代16例、50代8例、60代14例、70代3例であり、特に20代、30代が多い傾向は従来どおりであった(図2)

 発病月は、2月と9月(各13例)、3月(12例)、5月(11例)が多く(図3)、2月の13例中6例はインドネシアバリ島旅行者での集団感染であった(http://idsc.nih.go.jp/iasr/30/358/dj3581.html)。

 検出された菌種は、S. sonnei 101例、S. flexneri 23例、菌種不明2例であった(図4)。日本を含む感染国別の報告数を、菌種別に表に示した(表1)
 国外感染例の診断及び報告数の増減に関しては、流行の発生や流行地への渡航者数など様々な要因の関与が考えられるが、検疫法改正によりコレラが検疫感染症でなくなったことから、2007年6月以降は、検疫所で下痢などの申し出のあった者に対する検便が実施されなくなった。有症状者であっても、症状が軽いなどの理由で入国後に医療機関を受診しない者もいることが予測されるので、この点も報告数減少に影響する一要因として考慮する必要があると考えられる。検疫所からの届出は、2006年(4月〜)は国外感染例として報告された283例中105例、2007年は288例中81例(うち1〜5月が71例)、2008年は196例中なし、2009年も126例中1例もなかった。


症状:
 患者168例について、報告された症状をみた。届出票にあらかじめ記載されている症状では、下痢164例(97.6%)、発熱112例(66.7%)、腹痛98例(58.3%)、膿粘血便30例(17.9%)、しぶり腹27例(16.1%)であった(表2)。膿粘血便は、原因菌種がS. flexneri の症例(27.9%)でS. sonneiの症例(14.2%)に比して高率であり、しぶり腹もS. flexneri(27.9%)がS. sonnei(12.5%)よりも高率であった。また、その他の症状として自由記載されていたものでは、嘔気・嘔吐12例(7.1%)が多かった。

 一方、無症状病原体保有者13例の菌種は、S. sonnei 12例(同菌種総数132例の9.1%)、S. flexneri 1例(同44例の2.3%)であった。
 赤痢菌は腸管出血性大腸菌と同様に、微量の菌により感染が成立するため、感染が拡大しやすく、健康被害も生じやすい。特に小児や高齢者では重症化しやすいので注意が必要である。近年日本で発生している細菌性赤痢の半数以上は国外感染であり、国内感染についてはそれらの国外感染者からの二次感染や輸入食品の汚染による国内感染が推測されている。細菌性赤痢の感染予防策としては、充分な加熱調理や石鹸による手洗いの励行が基本である。渡航に際しては、渡航先の流行状況を把握すると共に、流行地へ渡航する場合には生水、氷、生の魚介類、生野菜、カットフルーツなどを避けることが肝要である。さらに二次感染を防ぐためには、患者や無症状病原体保有者を早期に探知して治療し、排菌しなくなったことを確認する必要がある。


(補)細菌性赤痢のサルの報告
 細菌性赤痢はサルの間にも感染がみられ、ヒトへの感染源となり得るため、2004年10月1日施行の感染症法施行令の改正により、細菌性赤痢のサルを診断した獣医師に届出が義務づけられた。2004年には報告はなく、2005年に5都道府県から45例、2006年に6都道府県から45例、2007年には3都道府県から51例、2008年には4都道府県から29例、2009年には2県から34例の報告(2010年4月5日現在)があった。報告されたサルのほとんどは輸入後の検疫(法定検疫または自主検疫)によって発見されたものでる。



感染症発生動向調査週報 2010年第24号に掲載)


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