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専門家向け情報 |
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1.VRE検出法と抗菌薬感受性試験など 1)日本の臨床分離腸球菌における、バンコマイシンのMIC値は通常 1μg/ml以下である。 2)バンコマイシンのMICが≦ 4μg/mlを感受性、8〜16μg/mlを判定保留、32 μg/ml≦を耐性とする。 3)VREを検出するため液体培地を用いる時、バンコマイシンの最低濃度は3μg/ml〜4μg/mlが望ましい。 4)class A VRE(vanA 遺伝子を持つ)の多くは、バンコマイシン、ペニシリン系、ゲンタマイシン(>1000 μg/ml)に高度耐性である。 5)class A VREの治療のための感受性抗菌薬を調べる時は、クロラムフェニコール等も含めた現存するすべてのグラム陽性菌に有効な薬剤を調べる必要がある。 6)ディスク拡散法で抗菌感受性試験を実施している場合は、24時間培養後に阻止円の直径を透過光線下で測定する。 7)寒天平板希釈法、寒天勾配希釈法、試験管液体希釈法、微量液体希釈法で最小発育阻止濃度を測定する場合は、24時間培養する。 8)表1にVREの種類と特徴を示す。 2.臨床材料からVREを疑う菌が検出された場合 VREが疑われる菌が分離された場合、施設で行っている抗菌薬感受性試験を用いてバンコマイシン耐性であることを確かめるか、腸球菌の集落を培養してMcFarland 0.5の菌浮遊液を調整し、その1μl〜10μlをバンコマシンが6μg/ml添加されたBHI(ブレインハートインフュージョン)寒天培地に接種し、35℃で24時間培養後に発育が認められたらバンコマイシン耐性とする。 尚、VREが分離された場合には、各都道府県の衛生部等に報告を行ってください。 3.糞便等検査材料よりのVREの選択分離 1)分離用培地として Bile esculine azide agar (Difco)、EF寒天培地(日水)、Enterococcosel agar (BBL)、 等がある。 2)バンコマイシン3〜6μg/mlを含む前述の寒天培地上に検査材料をエーゼ又はswabにて塗布し、2日間35℃で培養しコロニーを分離する。 3)Bile esculin azide agarあるいはEnterococcosel agarを用いた時には直径0.5〜1.5mm程度の黒又は黒灰色のコロニー、EF培地を用いた時には海老茶色(E. faecalis)、黄色(E. faecium)のコロニーをバンコマイシン耐性腸球菌として推定し、純粋培養を行い菌の同定と薬剤耐性検査を行う。バンコマイシンを含む腸球菌分離用培地には、VRE, Pediococcus, Leuconostoc が生育するが、VREは比較的コロニーが大きく液体培地での生育も良い。臨床分離腸球菌の80〜90%はE. faecalisで、その他にはE. faeciumが多く、E. gallinarum、E. casseliflavus 等が少数分離される。 通常の分離・同定検査の過程では、生来VCM耐性であるLeuconostoc, Pediococcus, Lactobacillus などを、VREと誤同定する可能性もあり、同定検査の精度管理にも留意する必要があります。 4.保菌者からのVREの排出の特徴と感染防止対策 VRE保菌者の多くはVREが腸管に長期間定着していることが多く、また、VREが糞便中に高濃度に含まれる場合も多い。又、VREは無症状の保菌患者の尿からも分離されることも多い。このためVRE保菌患者の便又は尿(特に便)からVREが断続的に長期にわたり排出される事態が生ずる。VREが保菌者などから排出されているにもかかわらず、発見や院内感染防止対策が遅れた場合、院内環境が広範囲に汚染される危険性が高い。したがって、VREに対する院内感染対策の基本は早期発見、院内での広がりの監視、接触者や介護者への伝播の防止(ディスポーザブルのグローブの使用や手指の消毒、手洗いの励行)、適切な汚物処理による院内環境汚染防止、トイレの消毒などを通じての、他の重症患者等への感染拡大の防止である。 以上により、VREが臨床検査材料から分離された時、最初に行うべきことは、当該患者あるいは同室の患者の便中のVREの存在を調べ、VREを含む便などを介して環境汚染が広がらないようにすることである。また、必要に応じて、職員や患者家族の糞便検査を行う。一般的な院内感染防止対策はMRSA院内感染対策を基準とし、糞便、尿の処理などに注意しつつ、施設の状況に応じた拡散防止対策を実施する。 5.具体的な対応策 VREが患者から分離された場合の対応の基本及びVREの拡散防止対策の要点 1)健常者あるいは、感染防御能の正常な患者から分離された場合 VREの除菌を目的とした抗菌薬療法は原則として実施しない。 他の重篤な患者などへのVREの伝播を阻止する拡散防止対策を第一とします。 2)VREによる感染症を引き起こしている場合 感受性試験結果などを参考に抗菌薬療法を実施するとともに、適切な拡散防止対策を講じます。 6.グリコペプチド系抗菌薬について バンコマイシンと同系統のリコペプタイド系抗菌薬であるテイコプラニンもこの7月からMRSAの治療薬として認可されましたが、van A遺伝子を保有するVREはテイコプラニンに対しても耐性を示します。したがって、MRSA感染症の治療目的にバンコマイシンやテイコプラニンを投与されている患者さんでは、定期的に糞便などにおけるvanA型VREのチェックが必要と考えられます。また、テイコプラニンはコアグラーゼ陰性のブドウ球菌属(CNS)におけるグリコペプチド系抗菌薬耐性を誘導し易いとの報告もあり、適正使用に心がける必要があります。 7.vanA, vanB遺伝子のPCRによる検出 PCRによりvan遺伝子の型別は以下の方法で行えます。 KBディスク法などによる感受性試験で用いたMH寒天培地上の、VCMディスクの近傍の菌を少量採り、滅菌精製水を1.0ml入れたエッペンドルフチューブに懸濁(10E6 CFU/ml程度の濃さ)し、99℃で10分加熱処理し、その後、15,000rpmで5分間遠沈します。 (注意:VRE検出用培地上のコロニーを直接採取した場合は、PCR反応がうまくいかない場合があります。) 上清を15μl程度取りPCR反応液に加え、PCR用DNAポリメラーゼを用い、酵素に添付のプロトコルに従いPCR反応を行います。 サーマルサイクラーの設定は、 94℃2分、 94℃1分→53〜55℃1分→70〜72℃1.5分(30サイクル)、 70〜72℃5分、 4℃(保存)です。 vanAのプライマイーは(5'-gggaaaacgacaattgc-3')(5'-gtacaatgcggccgtta-3') vanBのプライマイーは(5'-atgggaagccgatagtc-3')(5'-gatttcgttcctcgacc-3') vanCのプライマイーは(5'-ggtatcaaggaaacctc-3')(5'-cttccgccatcatagct-3')vanC-1用 (5'-ctcctacgattctcttg-3')(5'-cgagcaagacctttaag-3') vanC-2, vanC-3用を用います。 また、電気泳動は、1.0%程度のアガロースを用います。 参考文献は、Sylvie Dutka-Malen et al, Detection of glycopeptide resistnce genotypes and identification of the species level of clinically relevant Enterococci by PCR, J. Clin. Microbiol. 33:24-27, 1995. 尚、PCR法に関し、ご不明の点がございましたら下記までお寄せください。 8.問い合わせ先:国立感染症研究所 細菌第二部 柴山恵吾 〒208-0011 東京都武蔵村山市学園四丁目7-1 電話:042-561-0771、Fax:042-561-7173、 E-mail:keigo@nih.go.jp ------------------------------------------------------- 補足1:KBディスク法によるvan 遺伝子型の簡易推定法
◆vanB タイプはテイコプラニンのディスクの周辺に明瞭な阻止円が形成されるもののバンコマイシンのディスクの周囲には10 mm以下の径の阻止円が形成されるか、あるいは阻止円がほとんど形成されない。 ◆vanC タイプのVRE(E. gallinarum など)は双方のディスクの周囲に、明瞭な阻止円が形成され、バンコマイシンのディスクの周囲の阻止円径の測定から「判定保留」となる場合があります。 ◆バンコマイシン感受性の腸球菌は双方のディスクの周囲に、明瞭な大き目の阻止円が形成され径の測定により「感受性」と判定されます。 補足2:バンコマイシン耐性腸球菌の種類と特徴 補足3:vanB 型VREと紛らわしいvanA 型VREについて 9.参考資料 1.平成8年度 (厚生科学特別研究事業) 「バンコマイシン耐性菌等対策に関する研究班」(班長 渡辺治雄) 薬剤耐性菌対策に関する専門家会議 報告書 2.院内感染対策の指針,−MRSAと話題の感染症− 監修/厚生省保健医療局国立病院部政策医療課、第1法規出版、1998年 3.Recommendation for Preventing the Spread of Vancomycin Resistance, MMWR 44(RR-12):1-13, 1995(原文) |
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