国立感染症研究所 感染症情報センター
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インフルエンザ


専門家向け解説


■ 今回米国で検出されたVRSAの特徴

 
今回のVRSA株は、バンコマイシンを長期に投与されていた腎透析患者さんから分離されており、バンコマイシンのMIC(最小発育阻止濃度)の値が、128μg/ml以上と高度耐性を示す株であると報告されています。このVRSA株からは、mecA 遺伝子とvanA 遺伝子がPCR法で検出されており、VREからvanA を担うプラスミドがMRSAに伝達したと推測されています。ただし、今回分離されたVRSA株は、ミノサイクリン、ST合剤、クロラムフェニコール、リファンピシン、リネゾリド、キヌプリスチン/ダルフォプリスチンなどには感受性を示すと報告されています。


■ VRSA出現の生物学的な危険性

 これまでは、VREから黄色ブドウ球菌へのvanA プラスミドの接合伝達は容易には起き難く、しかも、もし伝達しても、プラスミドの安定性、遺伝子の発現性、酵素蛋白の基質特異性などの問題(種の壁)があり、黄色ブドウ球菌にバンコマイシン耐性を付与する確率は非常に低いと考えられて来ました。

 しかし、一旦、MRSAにvanA プラスミドが伝達し、そのプラスミドが黄色ブドウ球菌に適応し安定化した場合、一般的には、そのプラスミドがさらに他のMRSA株に接合伝達する頻度が高くなる事が予想されます。その結果、vanA プラスミドがMRSAを含む黄色ブドウ球菌全般やその他表皮ブドウ球菌などのCNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌属)の間に容易に伝播、拡散する危険性が高くなり、VRSAやVRCNS(バンコマイシン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌属)の蔓延をもたらす事が強く懸念されています。


■ VRSAの検出と判定法

 バンコマイシンのMIC値が32μg/ml以上を獲得したVRSAが出現した場合、現在各医療施設の検査室等で日常的に実施されている薬剤感受性試験で十分検出が可能なため、特別な検査法や培地は必要ありません。

 ただし、判定が自動化されている市販の感受性試験用パネルなどでは、バンコマイシンの含量の最大値が4-8μg/ml程度に設定されているものが多いため、耐性の判定の為のブレークポイントである32μg/mlを確認するための正確なMIC値の測定には、手作業による試験が必要になります。


■ VRSAの薬剤感受性試験法に関する注意点

 
細菌は一般的にMIC値の1/2程度の濃度の抗菌薬にさらされると、徐々に薬剤に対する感受性が低下し、MIC値が2-3管上昇する現象(適応現象:adaptation)がしばしば見られます。したがって、MRSA株の薬剤感受性検査を行う場合は、バンコマイシンの入った培地で菌株を継代することなく、NCCLS(Natinal Committee for Clinical Laboratory Standards, 米国臨床検査標準化委員会)の定める方法に従い、可能な限り臨床分離された時点に近い「元株」を用いて検査する必要があります。


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