国立感染症研究所 感染症情報センター
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ウエストナイル熱患者の国内初報告事例について


 2005年10月3日に川崎市立川崎病院(川崎保健所管内)から届出のあった、ウエストナイル熱患者の発生事例について、その概要を報告する。

【患者概要】
 患者は30歳代・男性で、8月24日に出国し、8月28日から9月4日まで米国(ロサンゼルス)に滞在後、9月5日に帰国した。帰国前夜から倦怠感を呈し、9月5日から発疹、頭痛、発熱(38.3℃)、腰痛の症状を呈したため近医を受診したが、症状が改善しなかったため、9月10日に川崎市立川崎病院を受診した。その後、患者は回復している。

【川崎市立川崎病院での検査・対応等】
 初診時、髄膜脳炎を疑って髄液検査を実施したが、細胞数は正常値であった。頭部CT検査でも特に異常所見はなかった。また、血液検査結果では、血小板数の減少と白血球数の減少を認めた。9月12日の再診時には症状は消失していたが、ウエストナイル熱を疑い、日本脳炎抗体価を測定したところ、1,280倍に上昇していた。日本脳炎の予防接種は小児期以降受けていないことから、ウエストナイルウイルスに感染した可能性を疑った。そこで、9月20日に採血を行い、初診時に採血した血液と併せて国立感染症研究所へ送付し、ペア血清検査等確定診断に要する検査を依頼した。
 本事例では、主治医から患者に対して、ヒトからヒトへの感染の危険性がないこと及び各種検査の必要性等、ウエストナイルウイルスについての十分な説明が行われ、患者の同意と協力が得られた。

<血液検査結果詳細>

【国立感染症研究所での検査】
 9月23日に実施されたウエストナイルウイルスIgM抗体検査では、9月10日に採取した血清で弱陽性、9月20日に採取した血清で陽性であった。さらに両血清をペア血清とした中和試験では、4倍以上の上昇が認められ、10月3日に検査結果は陽性と確定した。なお、RT-PCR法による遺伝子検査は、9月10日の血清について行ったが陰性であった。

【行動調査】
 患者は、通常の潜伏期間である発症前2〜6日の間、米国(ロサンゼルス)に滞在していた。滞在中は主に屋内活動が主体であったが、毎日、朝及び夕刻等にホテルの中庭に出ており、その際何度か蚊に刺されていた。
 同行者については、全員健康であるとの情報は得たが、それ以上の調査協力は現在のところ得られていない。

【川崎市における蚊のサーベイランス実施状況】
 川崎市では、平成14年5月から市内8定点において週1回蚊を捕集し、捕集された蚊を検体としてウエストナイルウイルス検査を実施している。更に平成17年度からは、市内4箇所の公園でも蚊を捕集し、ウエストナイルウイルス検査を実施している。
 平成17年度(4月〜9月)においては1,217匹の蚊を捕集し、ウエストナイルウイルス検査を実施したが、現在のところウエストナイルウイルスは分離されていない。十分な蚊のサーベイランスを実施していたことで、住民不安はなかった。

【考察】
 本患者は米国(ロサンゼルス)において蚊に刺されており、潜伏期間及び米国、特にカリフォルニア州での今シーズンの流行状況から考えると、米国(ロサンゼルス)において蚊に刺されたことでウエストナイルウイルスに感染したと考えられる。
 また、患者は自分の症状等について、ウエストナイル熱等のウイルス性感染症の疑いを持っており、診療に協力的であったことが診断の一助となったと考えられる。
 ウエストナイルウイルスは鳥類の体内で増幅し、蚊を介して感染が拡大するため、航空機等を介した感染蚊の侵入や感染渡り鳥の侵入が危惧されている。渡航者への一層の注意喚起を行うと共に、蚊のウイルス検査、死亡鳥類調査等、国内でのサーベイランスを継続することが重要と考えられる。


 川崎市健康福祉局保健医療部疾病対策課
   丸山 絢 岩瀬耕一 小林和仁 大塚吾郎 坂元 昇(部長)
 川崎区役所保健福祉センター衛生課
   浅井威一郎 妙摩 博 丸田茂貴 藤生道子(所長)
 川崎市立川崎病院内科
   小泉加奈子 中島由紀子 小井戸則彦 一條眞琴 秋月哲史



IDWR 2005年第40号「速報」より掲載)



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