国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ
公衆衛生上の観点からの
インフルエンザ対応および感染性胃腸炎対応の
優先順位の考え方

2011年3月22日現在
国立感染症研究所感染症情報センター

1.優先順位マトリクスの考え方と作成方法(概説)

 災害などの医療資源が限られた状況下では、流行病等(例:インフルエンザ、感染性胃腸炎)への公衆衛生上の観点からの対応策の決定について優先順位マトリクスを利用する場合があります。以下のような目的となっています。

  • 最も効果が期待できる対策を抽出
  • 実行のためのCapacity(予算、人員、物資等)が限られている場合に優先順位を決定
  • 保有するCapacityで最大の効果を提供

 2項目の評価基準項目(重要度と実施可能性、重要性と緊急性、費用と効果ニードと実効性など)を選び、高低を検討、優先的な対策を決定します(図1のa.が該当)。

 今回、それぞれの被災地・避難所の状況は異なると予想されるものの、3月22日現在で、当センターが知り得た避難所等の様子をまとめて、概念的に一般化した情報に基づいています。よって、各地域・避難所において、それぞれの優先順位の内容が変わることがあり得ます。


図1 優先順位決定マトリクスとその優先

 本稿においては、3月22日現在、各避難所等において流行の兆しがあり、緊急に対応が必要と考えられるインフルエンザおよび感染性胃腸炎についてまとめています。


2.避難所でのインフルエンザ対応に関する優先順位

(1)インフルエンザへの薬剤を用いた対応(治療および予防)
 避難所における薬剤を用いたインフルエンザ対応(治療および予防)に関する重要度と優先順位は「医学的な重要度」と「医療資源投入の優先度」より「インフルエンザの治療」が最も高くなります。また、「インフルエンザワクチン」は効果が得られるまでの2週間以上かかるため接種後すぐの時点で大きな効果が期待できないこと、「多くを対象とした予防投薬」は重要であるが、治療での抗インフルエンザ薬が医療資源として限りがあり、医療資源として抗ウイルス薬の投入は治療を優先としたため予防投薬の優先度が低くなります。



A) インフルエンザワクチン:効果が期待できる時期が2週間後程度のため現時点での優先度
B) 多くを対象とした予防投薬:治療薬の確保を最優先のため資源投入優先度が低い

図2避難所でのインフルエンザへの薬剤を用いた対応(治療および予防)に関する優先順位(平成23年3月22日時点)


(2)インフルエンザへの薬剤を用いない対応(主に感染防護)
 避難所におけるインフルエンザ対策としての感染防護については、「(発熱・咳等がある者における)マスクの使用」、「(即乾性すりこみ式アルコール製剤を用いた)手指消毒」、「発病者と発病者以外の間隔を出来るだけ開ける」、「つい立ての使用」となりました。優先されなかった事項は、マスク、水道、石鹸、暖房用の燃料等の資源が限られている場合を前提としています。



A) 手指消毒はアルコール製剤が限られている場合発病者の咳、吐物等の飛沫付着時に利用 B) 衝立(つい立て)は段ボールなどの使用可能

図3避難所でインフルエンザへの薬剤を用いない対応(主に感染防護)に関する優先順位(平成23年3月22日時点)


3.避難所での感染性胃腸炎対応に関する優先順位

 避難所における(特にウイルス性の)感染性胃腸炎への対応(治療)については、インフルエンザと違い特異的な治療薬が無く、脱水の補正が主となります(参考:アセスメントに基づく注意すべき感染症:http://idsc.nih.go.jp/earthquake2011/2011pdf/20110316risuku02.pdf)。症状を区別することは容易ではありませんが、血便、強い腹痛等を伴う場合には、抗菌薬投与について検討を要する細菌性胃腸炎が疑われる症状を呈しているかもしれず、注意が必要です。ここでは、ウイルス性および細菌性共に共通の、感染性胃腸炎への感染防護に関する公衆衛生上の対策について述べます。

 感染防護に用いられる医療資源が少ないことを考慮して、「(即乾性すりこみ式アルコール製剤を用いた)手指消毒」を第一に、(可能なら)「流水・石鹸での手洗い」を「発病者と発病者以外の間隔を出来るだけ開ける」、を優先順位が最も高い、としました。次に、接触感染症予防策の中で医療資源投入/実施の可能性による優先度を考慮しながら、「流水・石鹸での手洗い」を第一に、以下、「手袋の着用」、「発病者の隔離・集団隔離」、「患者が下痢、失禁、おむつ管理、人工ろう状態の場合の専用上着」の着用とし、患者が嘔吐した際の体、衣類、床などの有効な洗浄方法の方法として、「塩素系消毒剤の使用」を加えています。



図4避難所における急性胃腸炎への対応(主に感染防護)に関する優先順位(平成23年3月22日時点) *塩素系消毒剤の例としては、キッチンハイターなどがあげられる。


参考文献

1. L.W. Green, Health Promotion Planning an Educational and Environmental Approach
2. The National Connection for Local Public Health, First Things First: Prioritizing Health Problems

(2011年3月22日 IDSC 更新)

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