国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ

被災地・避難所における感染症発生情報の
探知支援システムに関して
(関係自治体・保健所の皆様への情報提供)

2011年4月21日現在
国立感染症研究所感染症情報センター

【背 景】

 東日本大震災発生から約1ヵ月が過ぎ、各被災地の公衆衛生に関わる環境の多くが激変しました。依然として非常に多くの住民の方々が身を寄せている避難所においては、集団生活が長期化するに従い、急性下痢症やインフルエンザなどを始めとする感染症の散発、時には集団発生が知られるようになっています。これらの情報の探知体制(サーベイランス)・対応が、避難者の方々の健康を守るうえで非常に重要になってきました。

 これら避難所には、元の居住地と異なる場所での生活を強いられている方々が多数含まれていることなど、地域の人口集団の特徴は震災前と異なっていることも少なくないはずです。また、地域によっては、感染症発生情報を収集・発信するべき医療機関の機能が失われていたりするなどの状況もあるかもしれません。


【避難所を中心とした代替的な簡易サーベイランスの必要性】

 被災地における通常のサーベイランスの復旧までの道筋において、また被災地とは限らないものの時には1,000人以上の方々が集団生活を営んでいる避難所が多く存在している地域において、過渡的なサーベイランスを、避難所などの集団を中心に設定し、用いることの必要性・有用性が考えられます。

 代替的で簡易のサーベイランスが求める情報については、必ずしも医療従事者で無くとも情報収集が出来るように工夫が施され、また、効率的な介入を目的とした速報システムを主眼とすべきものです。

 自治体によっては、多少方法が異なるかもしれないものの、急性胃腸炎やインフルエンザ様疾患、その他の呼吸器疾患、あるいは麻疹や結核など、避難所で発生しやすい、あるいは発生すると被害が大きい感染症(症候群)を中心に、地域および季節の感染症の特徴を有る程度加味した内容であれば、十分に有用な仕組みであると考えられます。

 通常の発生動向調査の代替的措置としてのこれらの感染症サーベイランスの枠組みは一時的なものです。今後は避難されている方々の(仮設を含む)住宅での生活への移行に沿った地域での生活・医療システム復興の計画のなかで、通常のサーベイランス体制に戻していくように考えていく必要があります。


【当センターにおける自治体等への協力体制】
 国立感染症研究所・感染症情報センターにおいては、震災直後より、関係自治体・関係機関との情報交換のもと、被災地・避難所における感染症対策の一環として、避難所を中心とした今後の流行や集団発生が予想される感染症に対するサーベイランスの仕組みを構築してまいりましたまた、地域で新たに構築されたサーベイランスによって収集された情報についても、必要に応じて分析・還元の協力を行っていく体制も整えています。避難所サーベイランスの全体像(情報の流れ)は以下のようになります。

 避難所を中心とするサーベイランスの方法として、以下の2つについて紹介します。これらは、共に当センター内でそのシステムを準備しており、自治体・保健所によるご活用が可能です。ご活用される場合には感染症情報センターよりリスク評価や想定される対策のポイント(=アクションポイント)等に関する情報のご提供も可能です。ご興味のある関係自治体・保健所の方はご連絡をいただければ幸いです。


【避難所を中心とする感染症等の集団発生の探知のためサーベイランスの方法(紹介)】
1)症候群サーベイランス(Syndromic surveillance)
 避難所などで流行・集団発生が起こりやすく(あるいは起こった場合の被害が大きく)、地域・季節の特徴も加味した感染症の、主に症状(症候群)に絞って毎日の(主として発症者数の)情報収集を行うシステムです。これまで学校等、あるいは大規模イベントなどでも疾患の異常な集積を知るために行われてきた経緯があります。避難所ごとにID・パスワードを割り振って避難所あるいは保健所単位でのインターネット上の入力可能な様式を整えております。また、ファックスでも情報を当センターに伝達していただければ、対応を行うことが出来ます。

 このタイプのサーベイランスは、異常を探知しやすいという利点がありますが、発症者数を把握する必要があり、若干手間がかかります。発症者数は仮設の救護所・診療所(避難所内である場合も近傍である場合も)から報告していただく方法と、避難所を一つの単位として報告していただく方法の二つがあります。救護所・診療所単位の報告が診断の点ではより確実ですが、受診しない軽症者は見逃される可能性があります。ただし、規模の大きい避難所においては軽症者まで把握するのは大変ですので、救護所・診療所の受診者に絞ることでの利点があります。一方、避難所からの報告とした場合には、医学的な診断には基づかなくとも症状のあるヒトをより早期に把握出来、かつ毎日避難者の方々の健康チェックの実施と迅速な対応にも繋がるという考えも出来るかもしれません。こちらは、少し規模の小さな避難所などで実施することでの利点があるでしょう。

<必要と考えられる連絡内容の例>

1. 施設情報の例
  • 報告者氏名
  • 職種(医師:D; 保健師:P; 看護師:N; その他:O)
  • 避難所名(市・町・村)
  • 報告日 平成23年  月  日
  • 電話  
  • e-mail
  • 収容者概数(全体のみでも可)全体 約   人、5歳未満 約  人、5〜64歳約  人、 65歳以上約  

2. 症候群情報の例有症者数を記入。0人の場合は0を記入し、不明の場合は空欄とし、合計欄は余裕があれば記入してください。コメントは必要に応じてご利用ください。)
 また、避難所の状況に応じて、合計のみでも構いません。



2)集団発生サーベイランス(Event-based surveillance)
 避難所等の施設で同じような症状(下表、参照)が同時期に5人程度以上見られる様な場合(必ずしも5人でなくてよく、例えばインフルエンザ迅速検査陽性が1名かつ複数の急性呼吸器症候群患者がいる場合なども含む)など、異常と考えられる場合に連絡を行い、対応を行おうとする仕組みです。

<必要と考えられる連絡内容の例>
  • 報告者氏名・連絡先
  • 避難所名(市・町・村)
  • 発生時期(いつ頃から)
  • どんな症状で、および人数(小児?、高齢者?)  
  • 重症者、死亡者の有無
  • 収容者概数(全体のみでも可)全体 約   
  • 現場より必要と思われる公衆衛生・医療上の支援の内容

 このサーベイランスは現場で、なんらかの異常と考えられる状況が発生したときに報告を行うもので、医療資源や医療従事者が非常に乏しい状況下では、現場への負担が最小限で行うことができますので、いまだ状況が安定していない発災早期には非常に有用な方法です。しかしながら、現場で異常と判断されなければ報告されませんので、対応が遅れる可能性は一つの欠点です。震災後1ヵ月を経た現在、各被災地・避難所には多くの医療資源や医療チームが派遣され、よりきめの細かいケアと感染症対策が求められる状況では、現場の状況を勘案して、徐々に1)の症候群サーベイランスに移行していくことが理想的だと考えられます。


【情報の分析・還元に関する自治体等への協力】
 上記の1)2)についての国立感染症研究所感染症情報センターで整えたシステムのご利用、あるいは自治体が独自に実施する避難所における代替的な簡易サーベイランスから得られた情報を当センターとご共有していただけた場合には、情報の分析(現状のリスク評価、想定される対策のポイントに関する情報の作成)および還元について、個別の支援を行うことが可能です(一部実施中)。

 分析・還元については、避難所ごとに集められた感染症を疑わせる症状(症候群)の情報によって、避難所や地域において公衆衛生上対応の必要性が高いと評価される場合には、その評価を関係各自治体などに直ちに提供し、それぞれの被災地・避難所に対して、適切な公衆衛生・医療上の迅速な支援に繋げていただくことを最大の目標としています。

 加えて、定期的なまとめを行い、関係者へ還元していきます。避難所や地域の感染症に関する情報を理解する一助としていただきたいと思います。

 最後になりましたが、このサーベイランスの実施主体はあくまでも当該の自治体・保健所であり、我々感染症情報センターはそのためのシステムの提供や、情報の共有による詳細な分析等を通じて、そのサポートを行うものであるということを付加させていただきます。


【問い合わせ先】
自治体関係者からのお問い合わせの際は、以下までご連絡下さい。
震災対応チーム

国立感染症研究所感染症情報センター
〒162-8640 東京都新宿区戸山1−23−1

電話:03-5285-1111(代)
Fax:03-5285-1129
Email:outbreak●nih.go.jp(←●を半角@に変更の上ご送信下さい)

(2011年4月21日 IDSC 更新)

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