The Topic of This Month Vol.17 No.2 (No.192)
感染症サ−ベイランスでは小児科・内科定点の医療機関が胃腸炎患者の発生数を「感染性胃腸炎」と「乳児嘔吐下痢症」に分けて報告している。1987年以降、「乳児嘔吐下痢症」は0〜3歳の臨床的にロタウイルス感染を疑う胃腸炎、それ以外の胃腸炎は「感染性胃腸炎」として報告されている。この2疾患は毎年冬季に大きく増加している(図1)。冬季には胃腸炎患者からのロタウイルス、SRSVなどの胃腸炎ウイルスの検出報告が増加する(本月報 Vol.10, No.4、Vol.12, No.5、Vol.14, No.3、Vol.16, No.2 参照)。本特集ではこの2疾患の患者報告を胃腸炎患者報告としてまとめて解析した。
1995/96シーズンはこれまでより早い時期に胃腸炎患者報告が増加し始め(図2)、第48週には1981年の集計開始以来最高に達した。1995年10〜12月(第4四半期)の患者報告数は過去の同期を大きく上回った。
1995年第4四半期の都道府県別胃腸炎患者発生状況の推移を次ページ図3に示した。第43週に埼玉、大分、第44週に東京、京都で一定点当たり8人以上に増加し、その後北海道、沖縄を除く広い範囲に流行が拡大している。ブロック別の患者発生のピークは関東甲信越が第46週、東海・北陸、近畿が第48週、中国・四国、東北が第49週、九州・沖縄が第50週であった。患者の年齢は0〜4歳が63%を占めた(図4)。
ウイルス検出報告速報:これまでの胃腸炎流行では患者発生の増加に呼応して病原微生物検出情報へのロタウイルス検出報告が増加していたが、1995年第4四半期の流行ではロタウイルスの検出がほとんど報告されていないことが注目される(表1)。今後ウイルス検出報告は追加されることが見込まれるが、1996年1月22日現在、ロタウイルスは10月に2例、11月に1例から検出されたのみである。
これに対し、1995年10〜12月に、埼玉、大阪、広島市、福岡市で小児27例(0歳3例、1歳11例、2歳2例、3歳9例、6歳1例、7歳1例)、成人2例(28歳、31歳)の散発患者から電顕でSRSVが検出されており(本号24ページ参照)、今期の流行はSRSVによるものと思われる。SRSVは食中毒様集団発生を起こすことが知られているが、これまで広域のSRSV胃腸炎患者多発の報告はない。
さらに、千葉(本月報Vol.17, No.1参照)、東京(本号3ページ参照)、神奈川(本号4ページ参照)でも今期の小児の散発患者から電顕やRT-PCRでSRSVが検出された(ロタウイルスは検出されなかった)。患者の臨床症状は回数は少ないが激しい嘔吐が主で下痢に先行してみられたことが報告されている。東京の例では便のみならず吐物からもRT-PCRでSRSVが検出された。
胃腸炎患者から病原細菌、ロタウイルスやアデノウイルスが検出されない場合、SRSVやアストロウイルスの検索を行うことが必要である。しかし、現時点では電顕に代わる簡便な検査法はまだ確立されていない。