The Topic of This Month Vol.17 No.4 (No.194)


コレラ 1994〜1995年

1961年頃から、スラウェシ(旧セレベス)島に起源をもつエルトールコレラが近隣諸国へと蔓延しだし、瞬く間にタイ、バングラデシュ、インドへと広がった。これがコレラの第7次パンデミーの始まりである。その後このエルトールコレラは東南アジア全域、アジア、中近東、アフリカ、欧米さらに中南米へと拡大し、この流行が始まってから35年にもなるが、いまだ終息する兆しが見られない。

わが国におけるコレラの発生は1976年以前には東南アジアやインドなどのコレラ流行地からの帰国者にほとんど限られていたが、1977年以降には海外渡航歴の全くない人びとにもその発生が見られるようになった(図1)。

コレラの国内集団発生で話題となった事例としては、1977年にコレラ汚染地からの帰国者がその原因とされたコレラ集団発生が和歌山県有田市に起こり、翌1978年には東京の結婚式場で出されたロブスターが原因食となったコレラ流行を経験した。1989年には名古屋市を中心とした集団発生があり、患者は愛知県、愛媛県、京都市、東京都、静岡県、群馬県、新潟県と広範囲にまたがった。1991年には首都圏コレラ事件がで発生し、東京湾で捕れたアオヤギがその発生源としてマスコミで騒がれ、コレラパニックを起こした。

1994年に発生したコレラ事例数は114で、輸入例90(79%)、海外渡航歴のない国内発生事例24(21%)であった。その発生数は前年(102)をやや上回ったが、特に国内散発事例の増加が目立った(1993年3名;1994年24名)。

1995年には、その総発生事例数が372と異常な増加を示した。これらのうち、輸入例は341(92%)、国内発生例31(8%)であった(本号7ページ参照)。この発生数は、わが国がエルトールコレラの侵入をうけて以来、最高の数値である。

従来から、エルトールコレラの発祥の地であるインドネシアからの帰国者の間では、コレラ患者の発生がしばしば見られており、1985年20名、その後1991年39名、1992年8名、1993年16名、1994年25名と毎年コレラ患者が頻発していた。

ところが、1995年2月以降バリ島への観光ツアー帰国者の間にコレラ患者が爆発的に発生し、12月末までに患者(278名)および保菌者(18名)を併せて296名にも達し、その発生は37都道府県に及んだ。特に2月(154事例)および3月(105事例)の2ヵ月の間に、バリ島帰国者コレラの88%(259事例)が集中的に発生した(図2)。しかしながら、4、5月にはこのバリ島由来のコレラ事例は激減した。その後6月9事例、7月19事例、8月5事例と再びやや増加の傾向を示したものの、9月以降の発生は1事例のみであった。このバリ島帰国者コレラは1995年の全コレラ罹患者(372名)の80%を占めた。

なお、オーストラリアでもバリ島で罹患したコレラ患者(3名)の報告があり(本月報、Vol.16、No.10、1995参照)、バリ島では1995年当初よりコレラが潜在的に蔓延していたものと推察される。

一方、海外渡航歴の無い国内散発事例は、前年から増加の傾向にあったものが、1995年にはさらに増加した(31事例)。1995年の検疫所で実施された魚介類のコレラ菌検査(17,001件)で、2検体(いずれもインド産のエビ)からコレラ毒素産生性コレラ菌が検出されており、検疫の目をくぐり抜けたコレラ菌の汚染を受けた輸入魚介類がこれらの散発事例に関与している可能性は否定できないであろう。また、散発事例の増加はコレラ集団発生の引き金になることは十分予測され、今後これらの動態についてはさらなる監視が必要である。

わが国におけるVibrio cholerae O139 の発生状況: 1992年後半にインドで発生したV. cholerae O139 による新型コレラの大流行は、瞬く間に近隣諸国へ波及し、早くも翌1993年には東南アジアへと拡大して行った。

1993年、わが国でもインド亜大陸からの帰国者(2名)および来訪者(1名)の下痢症からV. cholerae O139 が分離された。翌1994年には8事例が認められ、それらのうちの2事例はインド、1事例はバングラデシュからの帰国者、4事例はタイ、また残りの1事例は中国への旅行者から分離された。しかしながら、1995年に入ってからは全くその発生を見ていない。表1は1994年5月以降に報告された4事例の要約を示した(なお、それ以前の事例については本月報Vol.15, No.6,1994に掲載されている)。

現在インド亜大陸では、V. cholerae O139 によるコレラは減少傾向にあるが、タイを始めとする東南アジア諸国や中国などではその流行が拡大しているものと考えられることから、今後ともその発生の動向については十分な監視が必要であろう。


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