The Topic of This Month Vol.17 No.5 (No.195)


アデノウイルス7型の出現、1995

日本では1994年までわずかであったアデノウイルス7型(Ad7)の分離報告が、1995年以降全国各地から相次いでいる。Ad7は3型(Ad3)と同じB亜属アデノウイルスで、Ad3と同様に結膜、咽頭、肺、腸管など多臓器で増殖するため多彩な症状を起こす。特に心臓、肺に基礎疾患のある小児に致命的な呼吸器疾患を起こす(CDC, MMWR, Vol. 32,No. 19, 1983:その抄訳は本月報第44号, 1983)。英国では1971年以前には稀であったAd7の分離が1972年に増加し始め、1973〜74年に大流行し、その後3〜4年毎に繰り返し流行したと報じられている(CDSC, CDR, 84/23, 1984:その抄訳は本月報第54号, 1984)。

本特集では病原微生物検出情報に報告されたAd7分離例をまとめ、臨床症状と年齢分布を近縁ウイルスであるAd3分離例と比較した。

日本ではアデノウイルス分離が毎年多数報告され、Ad3がその約3分の1を占めている(本月報Vol.15, No. 5参照)。1980〜1993年の14年間にAd3の分離報告は7,187であるの対し、Ad7はわずか30例で、1992年に愛知衛研から12例が報告されたのが最高数であった(表1)(本月報Vol.16, No. 1参照)。

Ad7は1994年には全く分離報告がなかったが、1995年に入って、5月に広島市で分離されたことが始めに報告された(本月報Vol.16, No. 11参照)。6月には山梨から高熱を伴うインフルエンザ様疾患の寄宿舎内集団発生が初めて報告された(在寮者202 名中発症者145 、入院患者31)(本号3ページ参照)。1995年7月以降も毎月Ad7の分離報告があり、これまでに10機関から計90例が報告されている(表2:1996年4月23日現在報告数)。

Ad7が分離された90例中臨床診断名が報告されたのは76例であった。うち64例(84%)が呼吸器に関連した疾患で(インフルエンザ様疾患24、かぜ症候群20、咽頭結膜熱9、気管支炎5、肺炎4、異型肺炎1、ヘルパンギ−ナ1)、その他は流行性角結膜炎4、結膜炎2、感染性胃腸炎4、腸重積1、筋炎1であった。

Ad7分離例90例中臨床症状が報告された86例と同期間のAd3分離報告379 例を表3に示した。Ad7分離例では発熱が87%、上気道炎が69%、下気道炎が14%にみられ、Ad3分離例と同様の割合であった。しかし、最高体温を比較すると(図1)、Ad7分離例の方が高熱を呈したものが多く、40℃以上が38%を占めた(Ad3分離例は25%)。

臨床診断名および臨床症状の記載より下気道炎があった例を第1のグループ、下気道炎はなかったが上気道炎があった例を第2のグループ、上気道・下気道炎はなく結膜炎があった例を第3のグループ、胃腸炎のみがあった例を第4のグループとしてAd7とAd3分離例の年齢分布を比較した(図2)。下気道炎グループのAd7分離例は5歳以下に分布しておりAd3分離例と同様の傾向である。結膜炎グループのAd7分離例は10歳以上に分布しており、Ad3分離例と同様に幅広い年齢の成人も含まれている(本号4ページ参照)。上気道炎グループはAd3分離例が4歳をピ−クに1峰性に分布しているのに対し、Ad7分離例は2峰性の分布を示した。この中には山梨の集団発生例(15〜24歳11例)が含まれている。

Ad7が分離された検体の種類は鼻咽喉ぬぐい液64、鼻咽喉ぬぐい液+便13、眼ぬぐい液9、便2、鼻咽喉ぬぐい液+眼ぬぐい液1、鼻咽喉ぬぐい液+便+尿1であった。

アデノウイルスは便中に長期間排泄されるので、他の人への感染源となりうる。このため迅速診断が必要で、迅速診断には市販ELISA キットで便および咽頭ぬぐい液中のアデノウイルス抗原の直接検出が可能である(広島市衛研による)。分離されたアデノウイルスの型同定用の抗血清はデンカ生研から市販されている。

編集委員会註:昨年5月のAd7分離報告以来このウイルスの動向に注目してきたところ、本年3月に当情報事務局に千葉県の病院から、2人の死亡した乳幼児からAd7が分離されたとの報告があった(分離同定は民間検査所で実施)。厚生省エイズ結核感染症課は4月8日付で都道府県・指定都市にAd7に対する注意を喚起するよう文書で連絡した(本号6ペ−ジ参照)。

アデノウイルスの消毒:次亜塩素酸ソーダで不活化されるが、逆性石鹸には抵抗性である。70%よりも90%エタノールの方が消毒効果が高い。イソプロパノールは無効。


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