The Topic of This Month Vol.17 No.7 (No.197)
かつては細菌性食中毒の半数近くを占め、常に首位の座に君臨していた腸炎ビブリオが、1992年〜1993年にかけて激減し、その事例数および患者数がともにサルモネラに追い抜かれた。これは、サルモネラ・エンテリティディスに汚染した輸入ヒナに起因する卵によるサルモネラ食中毒の患者数の激増によるものである。
1994年、再び腸炎ビブリオが事例数においてサルモネラをやや上回り、翌1995年にはさらなる増加の傾向が見られた。しかしながら、患者数においては、依然としてサルモネラによるものが群を抜いている(図1、2;厚生省大臣官房統計情報部「食中毒統計」による)。このことは、最近のサルモネラ食中毒の発生規模が極めて大型化する傾向にあることを示している。
「食中毒統計」によると、1994年の食中毒発生事例総数は830 件(対前年比151 %)、患者総数は35,735人(対前年比139 %)、死者2人(2例とも自然毒による;対前年比20%)であった。これらのうち、原因物質が判明した事例数は709 件、患者数は29,894人であった。そのうちで、腸炎ビブリオによる事例数は224 件(32%)で、次いでサルモネラによるものが205 件(29%)であった。しかしながら、患者数では腸炎ビブリオに起因したものが5,849 人(約20%)であったのに対し、サルモネラによる患者数は14,410人(48%)と、腸炎ビブリオによるものを大きく引き離している。
翌1995年は、食中毒発生事例総数699 件(対前年比84%)、患者総数26,325人(対前年比74%)、死者5人(3例は自然毒、2例はそれぞれサルモネラおよび黄色ブドウ球菌による;対前年比250 %)で、事例数および患者数ともに減少した。原因物質の判明した事例は627 件で、それらの患者数は22,660人であった。そのうちで、腸炎ビブリオによる事例は245 件(39%)、患者数は5,515 人(24%)であり、またサルモネラの事例数は 179 件(29%)、患者数は7,996 人(35%)であった。前年と同様、腸炎ビブリオは事例数ではサルモネラをかなり上回ったものの、患者数においては前年ほどではないものの、かなり水をあけられている。
1994年および1995年に地研・保健所から報告されたヒト由来腸炎ビブリオの総数は、それぞれ 1,280 (内輸入例108 )、1,304 (内輸入例85)であった。さらに、1994年に検出された腸炎ビブリオの月別報告数をみると、7月(271 ;21%)、8月(577 ;45%)、9月(222 ;17%)に多発し、また1995年においても7月(230 ;18%)、8月(624 ;48%)、9月(335 ;26%)に多くの報告がみられ、両年とも従来(本月報Vol.15、No.8、1994参照)同様、8月にピークを持つ夏季多発の傾向を示している(図3)。
1994年および1995年の2年間に、病原微生物検出情報に報告された腸炎ビブリオ集団発生のうちで、患者数が10人以上の事件について、その規模別の発生状況を表1に示した。この2年間の当該事件数は1994年79件、1995年78件、計157 件で、それらのうち121 件(77%)は患者数が10〜49人の小規模事例であった。一方、前回の特集・腸炎ビブリオ(本月報Vol.15、No.8、1994)によれば、1987〜1993年の7年間に発生した患者数10人を超した集団発生事例(533 件)のうち、患者数が10〜49人の小規模事例の占めた割合は82%であった。これは、今回のここ2年間の傾向とそれほどの変動は見られなかった。一方、患者数101 〜400 人の大規模事例が11件報告されているものの、500 人以上の超大型の事例は見られなかった。
一方、わが国における最近の食中毒は、患者数が500 人あるいは1,000 人を超す超大規模事例がしばしば発生し、大型化の傾向にある。また、これらの大規模事例の過半数は学校給食がその原因となっているが、近年腸炎ビブリオによる学校給食での食中毒事例の報告は全く見られていない。わが国の腸炎ビブリオ食中毒は比較的小規模な発生に限局する傾向にある。
患者数10人以上の集団発生事例に係わった腸炎ビブリオ分離菌株の血清型のうち、O4:K8 が1994年には38件(48%)から、また1995年では19件(24%)からと、いずれの年も極めて高頻度に分離されている。このことは、前報(1987〜1993年)の当該事例におけるO4:K8 の分離状況(26%)と同様の傾向にあり、血清型O4:K8 がわが国の腸炎ビブリオ食中毒の最も重要な血清型であることを示唆している。