痙攣等の神経症状を伴ったロタウイルス胃腸炎症例 千葉県
ロタウイルスは、冬期における乳幼児下痢症の主要な病因であるが、時に痙攣を伴ったり、脳炎を呈することが報告されている。今回、我々は神経症状を伴ったロタウイルス胃腸炎患者の髄液、血清、うがい液についてRT-PCRよるウイルスゲノムの検出を試みたので報告する。
方法:検体からの核酸の抽出は、グアニジンチオシアネートを加えた後RNaid法により行った。RT-PCRはGouveaら1)の方法に従い1st PCRはBeg9とEnd9のA群特異的プライマーペアを用い、2nd PCRは血清型特異的プライマーペアで同定した。
結果:今回調べた症例を表1に示した。症例2〜5、7は、嘔吐、下痢などの胃腸炎症状を示し、2〜3日後に痙攣が出現した。いずれも1週間余で回復し、予後は良好であった。症例6は、胃腸炎症状はなく発熱、頭痛、頸部痛により髄膜炎疑いで入院した。症例1は、小児の原因不明の急性脳症の一つとして近年問題となっている出血性ショック症候群(水様下痢、嘔吐などの前駆症状後、DIC、肝障害、腎障害を示す)と診断されたものである2)。なお、すべての症例で、髄液所見には異常は認められなかった。
RT-PCRの結果を表2に示した。7症例中5症例でロタウイルスゲノムを検出した。症例1、2は2型、4、5、6は3型であった。髄液は7例中5例、血清は2例中2例、うがい液は5例中3例陽性であった。また、症例2〜6については便についてもRT-PCRを行った。症例5、6は、他の検体と同一の血清型であったが、症例2は便が1型、髄液、血清が2型、症例4は便が3型と2型、髄液、うがい液が3型を示し、重複感染が認められた。
牛島ら3)は、ロタウイルス胃腸炎患者の急性期のうがい液から、痙攣を伴う患者の髄液、血清からロタウイルスゲノムを検出し、上気道での感染と、中枢神経への侵襲を示唆した。今回、我々も痙攣などの神経症状を伴ったロタウイルス胃腸炎患者の髄液、血清、うがい液からロタウイルスゲノムを検出した。しかし、嘔吐は発症日にみられ、うがい液は症例6を除いて嘔吐後のものであった。このため、咽頭に付着していたウイルスを検出した可能性も考えられ、上気道感染を起こすかどうかは不明であった。今後、同様の症例について検討していきたい。
参考文献
2) Makino M., Tanabe Y., Shinozaki K., Matsuno S. and Furuya T. Haemorrhagic shock and encephalopathy associated with rotavirus infection., Acta Paediatrica Scandinavica, 1996, 632-634
3) Ushijima H., Xin K., Nishimura S., Morikawa S. and Abe T. Detection and sequencing of rotavirus VP7 gene from human materials (stools, sera, cerebrospinal fluids, and throat swabs) by reverse transcription and PCR., J. Clin. Microbiol., 1994, 32, 2893-2897