横浜市の4小学校における毒素原性大腸菌O25:HNMによる集団食中毒事例
平成8(1996)年7月16日に保土ケ谷区のF小学校において腹痛、下痢等を訴え、欠席や早退する児童が多数発生し、続いて17日神奈川区のK小学校、18日旭区のM小学校、さらに22日になって、保土ケ谷区のB小学校においても同様の事例が発生した。
発症状況は4小学校の児童、教職員合わせて 2,137名のうち 801名が腹痛、下痢等の症状を呈した。その中の 377名が受診し、3名が入院した。有症者の発生期間は7月13日〜22日であり、患者発生は16日〜18日に集中し、ピ−クは17日であった。症状は腹痛が84%、下痢が78%、発熱が59%、嘔吐が10%などであった。なお、他の小学校からの発生報告はなかった。
児童、教職員および調理人を対象に計 1,432名の検便検査を実施した。そのうち7月19日にF小学校の4名から大腸菌O25:HNMが検出され、PCR 法で耐熱性毒素遺伝子が証明され、またELISA法でも耐熱性毒素の産生性が確認された。以後、合計で 393名から毒素原性大腸菌O25:HNM、耐熱性毒素産生菌(以下O25と省略)が検出された。その内訳は、発症者 641名中 270名(42%)、非発症者 791名中 123名(16%)であった。便以外の検体については、4小学校から収集した計 296検体を調べた(検食34検体、ふきとり 214検体、食材・水43検体、その他5検体)。4小学校中F、K、Mの3校で検食のツナぺーストからO25が検出された。
今回の事例は、隣接する3区の4小学校で同時期に発生し、発症者、非発症者、調理人の検便およびツナペーストからO25が検出された。これらの菌株について生物学的性状、薬剤感受性、プラスミド・プロファイル、PCR法によるRAPD解析、およびパルスフィールド電気泳動による染色体の制限酵素(Xba I 、Sfi I 、Spe I 、Not I)断片多型解析を行った。いずれの方法を用いた検査においても、由来の異なるそれぞれの菌株が同一のパターンを示し、各分離菌は同一由来であると推定された。
3校3名の調理人の検便から同一菌が分離されたが、いずれの調理人も給食を喫食しているため、給食により感染した可能性が高いと思われた。
横浜市小学校での学校給食は、4ブロック(10数校を1班とし、8班で1ブロック)に分けて同一ブロック内、同一メニューで、調理は自校方式で行われている。集団食中毒が発生した4校は、3ブロック・3班にまたがっていた。7月15日のツナペーストから菌が検出された3校は、給食メニューが同一であった。しかし、同一ブロック内で同じメニューの給食を提供された他の小学校では集団発生はみられなかった。なお、B小学校のメニューは菌が検出された3校とは異なっており、15日の検食から菌は分離されなかった。給食の食材はほとんど保存されておらず、調味料および同等品と思われる食材からも菌は分離されなかった。このため、汚染源となった食材を特定することはできなかった。
これらの結果から、4校共通の食材の一部のみが同一菌により汚染されていたと推測された。
横浜市衛生研究所 武藤哲典 山田三紀子 鈴木正弘 北爪晴恵 小林伸好 鳥羽和憲
横浜市立大学医学部 満田年宏 相原雄幸 横田俊平 伊藤 章