つつが虫病におけるDNA診断実施について

衛生微生物技術協議会検査情報委員会に設置されている「つつが虫病小委員会」(以下委員会)では全国の地方衛生研究所(以下地研)の協力を得て、平成元年よりつつが虫病様患者(血清診断)発生状況(平成8年度から、つつが虫病・紅斑熱様患者)を個票で集計している。

つつが虫病の抗体測定は、間接免疫蛍光抗体法(IF)と間接免疫酵素抗体法(IP)により実施されているが、確定診断を行うためには高い抗体価を示すか、抗体の有意な上昇があることが必要とされる。しかし、本病の特徴から、適切な治療が行われた場合にはほとんど通院の必要性がないため、回復期に採血できる可能性が少ない。そのため、届出医師の努力にもかかわらず回復期血清の検査が実施できなかったことによる「判定保留」あるいは「判定不能」となったケースが全報告数の約1/3にも達している。そこで、判定保留あるいは判定不能の検体について神奈川県衛生研究所(以下神奈川衛研)が行ったDNA診断の有用性について紹介する。

神奈川衛研では血清診断の抗原として標準3株と県に特徴的なKawasaki株とKuroki株を加えた5株を用いている。これは、株特異的抗原に対するIgM 抗体の上昇が属共通抗原に比べて早い時期から観察されることから急性期血清における確定診断の可能性が増大するためである。しかし、患者発生の増加に伴いIgM 抗体が検出されない急性期のみの血清が増加することにより判定不能の事例も増加していることから、患者の急性期血液(血餅)からのDNA 検出を試みた。患者血餅に精製水を加え、ホモジナイザーで磨砕し、蛋白分解、除蛋白、エタノール沈殿させ鋳型DNA とした。つつが虫病リケッチアのDNAを特異的に増幅するプライマーを用いてPCR を行った。1990年〜94年までの結果をみると、抗体が検出され、つつが虫病と診断された患者は 288例あったが、このうち急性期の血餅があるものについてPCR を行ったところ、IgG 抗体価が 320倍以上あるものはDNA が検出されない場合もあったが、抗体価が検出されないもの、低いものではすべてDNA の検出は可能であった。1994年の検査結果を詳細にみると、臨床的につつが虫病を疑われた患者は57例で、抗体で有意の上昇があり陽性となったものは43例であった。抗体上昇がなく陰性となったものは5例あり、3例からDNA が検出された。このうち2例は播種性血管内凝固症候群(DIC )を併発し、治療のために一刻も早い確定診断が必要であった。また、急性期に抗体上昇がなく回復期の血清が得られなかったため判定不能となったものが9例あり、このうち7例からDNA が検出された。このように、高抗体価を除き、抗体陽性とDNA 検出成績は良く一致し、さらに血清診断による判定不能の場合でもDNA 検出によりつつが虫病と診断できる可能性が示唆された。

以上、臨床的につつが虫病と診断されながら、血清診断で陰性あるいは判定不能とされる患者におけるDNA 診断の有用性が明らかにされた。委員会では臨床的につつが虫病様症状があり、血清診断において判定不能あるいは判定保留例とされた例について各地研で積極的にDNA 診断を行い(プライマー等が必要な場合は神奈川衛研の協力が得られる)、その診断的意義を明らかにしたい。

衛生微生物技術協議会検査情報委員会 つつが虫病小委員会 委員長 衛藤繁男 (神奈川県衛生研究所長)
神奈川県衛生研究所 吉田芳哉

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