The Topic of This Month Vol.18 No.1(No.203)
日本におけるポリオ患者の全国規模での実態は、1947年「伝染病届出規則」制定以来正式に把握された。1949年頃より全国各地でポリオの流行が報告された。1960年には北海道を中心に大流行し、1年間の患者が 5,000名を超えた。1961年には輸入生ワクチンの緊急投与が行われ、1963年からは定期接種が始まった。その結果、ポリオ患者は激減し、現在までほぼ完全に制圧されている(図1)。わが国ではポリオ生ワクチンは2回接種で、春と秋に一斉投与方式で行われている。
生ワクチン投与開始後1962年から、厚生省伝染病流行予測調査が実施されてきた。これは、各都道府県の協力を得て、感染源調査と感受性調査の両面からポリオ患者の発生の可能性を監視するものである。感染源調査は、健康小児糞便からのポリオウイルスの分離試験を、生ワクチン投与時期から2カ月以上経過した時点で行い、野生株ポリオウイルスの侵入を監視する。さらに定型的なポリオ様麻痺患者については、ウイルス学的、血清学的に確認検査を行ってきた。流行予測調査あるいは麻痺患者材料からポリオウイルスが分離された場合は、そのウイルスがワクチン由来株であるか野生株であるかの鑑別を行っている。感受性調査は一般健康者のポリオウイルスに対する中和抗体保有状況を継続的に追跡し、予防接種の効果と集団の免疫状況を監視している。以下に1962〜1995年の流行予測調査結果をまとめた。
(1)感染源調査:これまでの健康小児からのウイルス分離試験(約76,000検体)において、野生株のポリオウイルスが分離された例はない。
定型的なポリオ様麻痺患者についての検査結果を表1に示した。34年間で95症例由来の 119株のうち、野生株は、1型2株、3型1株の計3株のみで、その他はすべてワクチン由来株が毒力復帰したと考えられた。1991年以降接触症例(contact case)が3例報告された(本月報Vol.14、No.12 、Vol.15、No.1参照)。定型ポリオ様麻痺以外の患者からの野生株の分離は、1984年に愛知県(7歳女児、脳炎、咽頭拭い液)の1型1例(本月報Vol.6、No.1参照)と1993年に滋賀県(13歳男児、上気道炎、咽頭拭い液)の3型1例(本月報Vol.14、 No.11参照)がある。
(2)感受性調査:ポリオウイルスに対する抗体保有状況は、生ワクチン投与前の1961年の調査では、いずれの型に対しても加齢とともに上昇する自然感染特有のパターンを示していた。生ワクチン緊急投与後の1963年にはすべての年齢群で高い抗体陽性率を示した。図2に1972〜94年の抗体保有状況(中和抗体1:4倍以上)の推移を示す。1972年の調査では、ワクチン投与後の抗体獲得率(1〜2歳での抗体保有率)は1、2型は十分高かったが、3型は低かった。1978年の調査では、3型の抗体獲得率は改善されたが、逆に1型が低かった。1988年の調査では、1型についても改善された。しかし、1972年調査時に3型抗体獲得率が低かった集団と1978年調査時に1型抗体獲得率が低かった集団では年齢が高くなった1994年調査時でも低い抗体保有率のままであった(図2大きい丸印で示す)。抗体獲得がワクチン接種のみに依存する状況を示している。2型についてはどの調査時点でも、全年齢で高い抗体保有率を示した。
今回、特定の年齢での抗体保有率を明確にするため、1991〜94年の4年分の感受性調査結果(計7,306検体)を集計した。各調査対象者について1994年度での年齢を計算し、5歳以上の各年齢における1:4倍以上の中和抗体保有状況を図3に示した。1型に対する抗体保有率は18歳では約50%である。また、3型に対する抗体保有率は22歳では約50%である。
1型は特にポリオ流行地においてポリオ患者から分離されることが多い。厚生省では1型抗体保有率の低い年齢群(1975〜77年生まれに相当)に対して、ポリオの野生株がいまだに存在している国へ渡航する場合などには、ワクチン追加接種を受けるよう勧告した(本号3ページ参照)。
わが国のワクチン接種率は1981年以降は90%以上を維持している。現在のワクチンによる抗体獲得率は、1、2型がほぼ 100%、3型が90%である。今後も生ワクチンの免疫賦与能と神経毒力(麻痺)復帰は常に監視する必要がある。