胃腸炎乳幼児からのアデノウイルス31型の分離−広島市
乳幼児下痢症の原因となる主なアデノウイルスとして、40型、41型以外に31型が知られている。しかし、その分離はまれで病原微生物検出情報による集計でも1982〜93年の12年間に8例が報告されているにすぎない。この理由として、(1) 31型感染(またはそれによる発症)が少ない、(2)抗血清がないため同定できない、(3) 増殖が比較的遅く、分離されにくい、などが考えられる。本情報では、広島市における感染症サーベイランス事業による31型分離例について報告する。
31型の由来:1982〜96年の15年間に31型は1989年に2例、1995年に2例、計4例(5検体)から分離された(表1)。患者はいずれも7カ月〜1歳の乳幼児(男児3例、女児1例)であり、臨床診断名は感染性胃腸炎3例、乳児嘔吐下痢症1例で、主な臨床症状は発熱(38.3〜40C)、下痢、嘔吐であった。同期間中に胃腸炎を主とする消化器疾患患者の糞便から検出されたアデノウイルスは76例で、31型は5%を占めた。
31型の検出:31型はすべて糞便から分離され、他の分離材料からは分離されなかった。ウイルス分離にはヒト胎児繊維芽細胞(HE)、HEp-2 、Vero、RD-18Sを使用し、HE、HEp-2 では全例、Veroで3例、RD-18Sで1例が分離陽性であった。いずれも2代の継代で分離陽性となった。また、電子顕微鏡検査およびアデノクローン(TFB製)では31型分離陽性5検体のうち4検体がアデノウイルス陽性であった。電子顕微鏡検査で1例からSRSVが同時検出された以外は、細胞培養法、アデノクローンE(TFB製)、ロタウイルス検出RPHAあるいはELISA、および細菌分離培養法ではいずれも陰性で、他の病原体は検出されなかった。
31型の同定:現在、31型の同定用抗血清は市販されておらず、中和試験による同定が困難であることから、DNA切断パターン解析により同定を試みた(表2)。その結果、Sma IおよびBamH I ,Hind IIIあるいはBstE IIの切断で31型標準株と同じパターンを示し、かつ他の酵素でも標準株と極めて類似したパターンを示したことから、31型と同定された。また、株数は少ないが、同一年次に分離された株は同じパターンを示し、1989年と1995年の株は異なるパターンを示したことから、年次により異なる遺伝子型の31型が流行している可能性が示唆された。
以上、広島市における31型の分離例について報告した。これらの結果は、31型がすべて乳幼児の胃腸炎患者の糞便から分離されたこと、電子顕微鏡検査およびELISAでも3例が陽性となったことなどから、これまでの報告と同様に31型が腸管で増殖し、胃腸炎の原因となっていることを示唆している。乳幼児下痢症の原因アデノウイルスとしては40型、41型が重要であり、検出用キットも市販されているが、今後31型にも注目する必要があり、抗血清の供給等の検査法の確立が望まれる。
広島市衛生研究所 野田 衛 桐谷未希 阿部勝彦 池田義文 山岡弘二 荻野武雄