The Topic of This Month Vol.18 No.2(No.204)
溶血レンサ球菌の感染によって起こる種々の病態のうち、感染症サーベイランスの対象となっている溶連菌感染症は主としてA群レンサ球菌による咽頭炎である。溶連菌感染症の定点医療機関からの患者報告総数は、1994年は80,095、1995年は60,007であった。一定点当たり年間報告数は1987年に最低値21.1を記録して以来、1991年に27.7、1992年に28.3、1993年に29.0と増加していたが、1994年の33.0をピークに、1995年は24.6に減少した。一定点当たり患者報告数のパターンは、1993年後半〜1994年前半にかけて感染症サーベイランス開始以来最大の流行となり、従来の10〜12月に高いピーク、1〜3月および5〜7月に低いピークを繰り返す、いわゆる”高−低−低の3峰性”のパターンが崩れたが、1995年には例年通りのパターンに戻った(図1)。
病原微生物検出情報では1990年1月以降、医療機関から検体材料別に病原菌検出報告を収集している。 1994年に検出されたA群レンサ球菌は、咽頭および鼻咽喉材料から13,055、喀痰、気管吸引液および下気道材料から 820であった。1995年の検出数はそれぞれ 7,704、676で、患者報告数と同様、1990年以来増加していた検出数が1995年初めて減少に転じた。
病原微生物検出情報における1988年1月〜1995年12月の地研・保健所によるA群レンサ球菌T型別を月別および年別に図2、表1に示した。A群レンサ球菌検出数の合計は感染症サーベイランス情報の患者報告(図1)と同様、3峰性のパターンを示している(図2)。1988年〜1995年までにT型別を実施したA群レンサ球菌の年間報告数は 1,271〜 2,556であった(表1)。各年別のT型の検出割合をみると、主に検出されるのものはT1、T4、T12で、この3つの型で各年の50%以上を占めている。
これらの型の年次変動として、T1型は1988年、1992年に、T4型は1989年、1991年に、T12型は1990年および1995年あるいはそれ以降にピークを示す傾向にあるが、急激な変化は示してはいない。一方、T3型は1991年〜1993年および1994年にかけて1%から11%に急激に検出率の増加がみられ、また、逆にT6型は、1989年〜1991年および1992年にかけて11%から1〜2%に急激に減少している。T28型は1993年〜1995年にかけて徐々に増加する傾向にある。また、TB3264型は1992年〜1993年にかけて徐々に増加する傾向から、1994年および1995年は7〜8%程度で安定している(表1)。
劇症型A群レンサ球菌感染症:近年、欧米をはじめ日本においても劇症型A群レンサ球菌感染症(TSLS:toxic shock-like syndrome)いわゆる”人喰いバクテリア”による劇症型感染症が問題になっている。劇症型感染症の出現の理由が、宿主側の免疫状態の変化あるいは菌側の病原因子の変化で証明されようとしているが、いまだ確定していない。
1992年に日本で初めての劇症型A群レンサ球菌感染症例の報告があって以来、劇症型感染症についてのサーベイランスを開始した(診断基準は本号3ページ参照)。主に各地方衛生研究所を経て国立予防衛生研究所に報告された劇症型A群レンサ球菌感染症例は、1994年に13症例(千葉3、広島2、山形1、神奈川1、静岡1、兵庫1、鳥取1、高知1、熊本1、大分1)、1995年に12症例(千葉2、静岡2、徳島2、秋田1、愛知1、奈良1、高知1、佐賀1、宮崎1)であった。1992年以降に国立予防衛生研究所に報告された劇症型A群レンサ球菌感染症を起こした菌株でTおよびM型別を調査した29症例中(患者平均年齢48歳)、T1(M1)型は8症例、T3(M3)型は12症例で、全体の69%を占めていた。これらの結果は、 CDCが1990年にアメリカにおける劇症型A群レンサ球菌感染症を起こした株のうちM1、M3型が80%近くを占めると報告しているが、それと一致するものであった(Y. Inagaki, T. Konda et al., Epidemiol. Infect., in press)。
A群レンサ球菌感染症を起こす主な型は、先に述べたようにT1、T4、T12型であるが、これらが必ずしも劇症型を起こす主な型とはなっていない。また、1993年〜1994年にT3型菌の分離率が急激に増加するに従い、T3型で劇症型A群レンサ球菌感染症を示す症例が見られてきた傾向にあったが、これらの因果関係をはっきりさせるためにさらなる詳細な調査が期待される。
速報:感染症サーベイランス情報によると、1996年10〜12月に溶連菌感染症の患者報告数は大きく増加した。第48週(11月24〜30日)に一定点当たり1.00人を超え、第50週(12月8〜14日)には1.13人となり、前2年同期を上回り、1993年に次ぐ高いピークとなった(図1)。