アデノウイルス7型が分離されたウイルス関連貪食症候群(VAHS)の1例−川崎市

アデノウイルス7型(Ad7)は主に呼吸器疾患の患者から分離され、基礎疾患を持つ小児に肺炎での死亡例もみられている。当衛生研究所で1996年10月にAd7が分離された肺炎の患者で、VAHS(virus-associated hemophagocytic syndrome:ウイルス関連血球貪食症候群)を併発した症例がみられたので、その経過について報告する。

臨床経過:患者は10ヵ月の女児で、家族歴、既往歴に特記すべきものはない。1996年9月25日に発熱を主訴として川崎市内の小児科に入院した。入院時の胸部X線にて右下肺に肺炎像が認められ、その後も39〜40Cの発熱が続き、入院5日目には後弓反張様の全身硬直性痙攣と、軽い意識障害がみられたため、ウイルス性脳症と判断した。同時に末梢血において汎血球減少の所見が見られ、高LDH 血症、高フェリチン血症、IL-2レセプターの高値、および骨髄穿刺にて血球貪食像が認められ、VAHSと診断された。治療には抗生剤、γ−グロブリン、プレドニンを投与した。発熱は3週間程度続いたが、その後、骨髄の血球貪食像も徐々に軽快し、約2ヵ月後に退院した。現在のところ後遺症はみられていない。

ウイルス検査:10月1日に髄液、糞便、尿を採取し当研究所に搬入された。分離検査にはMDCK、HEp-2 、RD-18S、Vero、CaCo-2細胞を使用した。その結果、糞便において接種1代目からアデノウイルス特有のCPE がMDCK以外の細胞で認められ、予研より分与された抗血清で中和試験を行い、Ad7と同定された。髄液および尿からウイルスは今のところ陰性である。

VAHSはウイルス感染による刺激に対し、免疫能がうまく適応しない結果、サイトカインの過剰産生が生じ、マクロファージの増殖、活性、貪食能が亢進し、そのため、自己血球の貪食破壊像を呈すると考えられ、EBV等ヘルペスウイルス科等での報告が見られている。しかし、アデノウイルスの感染でVAHSを併発した例は稀である。今回、抗体検査においてEBV の感染が否定されたため、VAHS発症時に分離されたAd7が、その発症に関与していたことが疑われる。アデノウイルスは咽頭だけでなく結膜、肺、腸管等の粘膜上皮で増殖し、全身感染を引き起こすこともある。今後、Ad7は、呼吸器症状だけではなく他の疾患との関連についても調査を行い、PCR 等高感度な検査系の併用によりAd7の体内動向を解明していく必要性があると考える。

川崎市衛生研究所 清水英明 春山長治
聖マリアンナ医科大学東横病院 野口さおり

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