鹿肉の生食による腸管出血性大腸菌(O157:H7)感染事例について−山形県

平成9(1997)年1月10日山形県鶴岡保健所に鶴岡市内の医療機関から、血便のあった患者(8歳女児)の便検査の結果病原性大腸菌O157が検出され、衛生研究所で志賀毒素(Stx )1、2(VT1、2)の産生性が確認されたため、腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の届出がなされた。翌11日および12日には鶴岡市内の別の2医療機関からそれぞれ1名(53歳男性、8歳男児)のEHEC感染症の届出があった。さらに14日には最初に届出た医療機関から最初の患者の姉(14歳女性)についてEHEC感染症の届出がなされた。保健所では、疫学調査を行うとともに患者家族、関連する人の検便を行った()。調査の結果、4名の患者はいずれも鹿肉を刺身(生肉)で食べていることがわかった。残っていた鹿肉を検査したところ病原性大腸菌O157が検出された。鹿肉はエゾシカで、平成8(1996)年11月下旬に北海道で県内在住のAが狩猟したものを、鶴岡市に隣接する藤島町内の患者方がもらい受け冷凍保存していた。これを患者方と親類関係にある家族が1月1日、2日に会食した。刺身で摂食したのは11名で、うち4名が発症した。Aは他にも数人の知人に鹿肉を分配していたが、これらの家族等では未摂食、または加熱調理後摂食しており発症者はいなかった。A宅に残っていた鹿肉からも病原性大腸菌O157が検出されたことから、残品全量の回収および関係者の検便を行った。検便の結果、患者と一緒に刺身を摂食した2名(症状無し)から病原性大腸菌O157が検出された。

分離された菌は、鹿肉から分離されたものも含め、いずれも血清型O157:H7で、Stx(VT)1、Stx(VT)2両方産生性、またeae 遺伝子保有のものであった。性状はソルビトール遅分解、β−グルクロニダーゼ陰性その他は一般の大腸菌の性状と同じであった。薬剤感受性はCMZ、CEZ、SBPC、ABPC、MINO、TC、GM、SM、IPM、CZX、Nd、NFLX、OFLXの13薬剤について一濃度ディスク法(昭和)により実施したがすべて感受性であった。プラスミドのパターンはすべての株が予研分類のL1に相当するものであった。パルスフィールドゲル電気泳動(ジーンパス:バイオラッド社)は、試薬キット1、制限酵素Xba I、泳動条件プログラムNo.14で行ったが、すべての株がスメア状態になり、切断バンドのパターンとしては得られなかった。しかし、すべての株がこのタイプであったことは株の類縁性を示すものと考えられた。

保健所での疫学調査およびプラスミドパターンの同一性、パルスフィールドゲル電気泳動での類縁性から本事例は、腸管出血性大腸菌O157に汚染された鹿肉の生食により発症したものと判断された。しかし、腸管出血性大腸菌O157がいつの時点で肉を汚染したのか、狩猟された鹿が保菌していたのか等不明な部分も残された。

山形県衛生研究所微生物部 大谷勝実

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