入院患者に多発したSRSV感染−富山県
富山県内のA整形外科病院の入院患者におきた急性胃腸炎の集団発生事例から小型球形ウイルス(SRSV)を検出したのでその発生状況およびウイルス学的検索結果について報告する。
事例の概要:1996年11月27日22時〜11月28日6時30分にかけてA整形外科病院に入院中の34名の患者のなかで下痢、嘔吐、腹痛、吐き気の症状を呈した急性胃腸炎患者が11名発生した。入院患者は高齢者が多く身体機能回復のため、短期、長期の入院と様々であった。急性胃腸炎患者は、病棟の階を越え、病室も特定せずに発生した。院長は保健所への届出とともに、3名の患者から速やかに下痢便を採取していた。翌日(11月29日)院内の調理従事者からも採便された。
検索材料:患者糞便は11月28日(第1病日)に3件、調理従事者からの糞便は11月29日に2件、血液は12月2日(第5病日)に10件、それから2週間後を回復期として6件採取された。
電子顕微鏡観察:糞便材料は、ウイルス性下痢症検査法に準じて、粗精製して電顕試料とし、2%リンタングステン酸でネガティブ染色し、電子顕微鏡でウイルス検索を行った。患者血清の抗体価測定はSRSV陽性試料を用いて免疫電子顕微鏡法(IEM )で行った。
結果と考察:
1)患者発生状況:11月27日22時〜11月28日6時30分にかけて患者が発生しており、11月27日22時〜11月28日2時にかけての4時間の間に9名(82%)が発症していた。入院患者用の給食は院内で調理されていたが、11月26日、27日のメニューには生で食するような食品の提供はなく原因食は特定できなかった。
2)臨床症状:患者11名の臨床症状は、下痢(64%)、吐き気(55%)、嘔吐(46%)、腹痛(36%)などの胃腸炎症状の他に、倦怠感(64%)、発熱(36%)、発汗(36%)、悪寒(36%)、頭痛(27%)などの症状が見られ、SRSV感染特有の症状であった。
3)電子顕微鏡によるウイルス粒子の検出およびIEM 法による血清反応:検査を行った患者3名と無症状の調理従事者2名の糞便からSRSVが観察された(表1)。この病院では調理従事者も給食を摂食しており、食品を介してウイルスに感染していたことが考えられ、調理従事者が、感染源と特定できなかった。検出されたウイルスは、直径が30nmで辺縁に突起状構造物がある形態をしており、ノーウォークウイルス様ウイルスに属すると考えられる。患者(S.Y.)の糞便から粗精製した抗原を用いてIEM で患者血清の抗体価を測定したところ、急性期と回復期の対で血液がとれた6名で有意な抗体の上昇が認められた(表2)。
今回の集団発生例では、患者、調理従事者が同一の給食を摂食しており、どちらからもウイルスが検出され、感染源は特定できなかったが、病院内での給食を介したものであろうと推測している。
富山県衛生研究所 長谷川澄代 北村 敬
氷見保健所 沼田こずえ 江本 誠