特別養護老人ホーム入居者からのA香港型ウイルスの分離−広島市

1996/97シーズンの広島市におけるインフルエンザ流行は1997年第3週の 657人をピークに1996年51週〜97年第13週までに 2,220人が報告された。流行の規模はこれまでで最も大きかった1994/95シーズンの約3分の1であった。ウイルスはA香港(H3)型が1月の55人をピークに12月24日〜3月3日までに計73人から、B型は3月21日〜4月21日までに計10人からサーベイランス定点で分離された。分離陽性者の年齢は表1に示したとおり、0〜9歳が59%、10〜19歳が16%、20〜59歳が13%、60歳以上が12%で、最高齢者は85歳であった。

検査定点別にみると、陽性者83人中46人(55%)、特に15歳以上の25人中23人(92%)はA定点からで、そのうちの4人はA定点内に設置された特別養護老人ホームの入居者であった。

当該施設は2〜5階に1〜4人用居室が34部屋あり、当時 101人が入居していた。

初発は12月27日で、2月7日の終息まで20人が罹患した(表2)。患者の大部分は1月5日〜12日までの第2週に集中しており、広島市内の流行状況に類似していた。なお、1月12日以降に発症した3人は入院治療となった。のべ罹患日数は2〜14日で、中でも2〜4日間が多かった。同室内罹患は4例9人であった(表3)。

ウイルス分離材料は5人から採取され、4人からAH3型が分離された。患者の臨床症状は不明であるが、検体の採取された5人は発熱、上気道炎が主な症状であった。

今季のインフルエンザは当初大流行になるものと危惧されていたが、幸いにも大事には至らなかった。しかし、高齢者の罹患率は高く、インフルエンザによると思われる死亡例も各地でみられたことから、大きな社会問題としてマスコミにも取り上げられた。

本市の患者情報による年齢分布は、1994/95シーズンと同様に30歳以上が約10%であったが、ウイルス分離状況では30歳以上が22%を占めていた。このことは小児科、内科の年末年始、夜間救急診療を行っているA定点からの検体が多かったためと思われる。わが国のインフルエンザ予防対策は従来学童を中心に行われてきたため、現在その見直しが求められており、今後の少子化、高齢者社会に対応したサーベイランスシステムが必要と思われる。また、今回の事例はA定点に併設された福祉施設であったことから病原体の究明が可能となった。より細かな監視体制を確立するためには、検査対象範囲の拡大も重要と思われる。

広島市衛生研究所
  池田義文 桐谷未希 阿部勝彦 奥備敏明 山岡弘二 荻野武雄
広島市食肉衛生検査所 野田 衛

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