国内多地域で同時期に発生した毒素原性大腸菌O169:H41による海外団体旅行者下痢症−秋田県、横浜市、広島県、高知県

1991年以降、国内で毒素原性大腸菌(ETEC)O169:H41による食中毒が多発している。1996年6月下旬から7月上旬にかけて秋田県、横浜市、広島県、高知県から台湾へ旅行した4団体の旅行者がETEC O169:H41に感染するという海外旅行者下痢症事例が発生したので概要を報告する。

各団体の旅行日程と患者の発生状況は以下のとおりであった。
秋田県
旅行日程 7月5日〜7月8日
社員旅行 119名中 104名発症(発症率87%)

横浜市
旅行日程 7月4日〜7月7日
社員旅行 24名中17名発症(発症率71%)

高知県
旅行日程 6月27日〜6月30日
社員旅行 25名中25名発症(発症率 100%)

広島県
旅行日程 7月4日〜7月7日
修学旅行 94名中87名発症(発症率93%)

本事例の特徴は発症率が極めて高いことである。症状は全般に軽症で腹痛、下痢、水様下痢を主とし、一部の患者に発熱、嘔吐がみられた。

原因細菌を検索した結果、いずれの団体の患者便からも耐熱性エンテロトキシン(ST)遺伝子を保有するETEC O169:H41が分離された。団体ごとのO169:H41分離陽性者数と被検者数は秋田県8/42名、横浜市2/11名、広島県37/78名、高知県5/18名であった。なお、O169:H41に加えて秋田県ではETEC O6(ST+)が、高知県ではETEC O6:H16(ST+)とO159:H34(ST+)が分離された。

4団体はいずれも国内での共通食はなく、台湾旅行中に喫食した食品が原因ではないかと推定されたが、国外で詳細について調査することはできず、原因食品/施設は不明とされた。

そこで、4団体が台湾滞在中に利用した施設や喫食した食品に共通性が認められるかどうかについて、各地方衛生研究所が入手した各団体の喫食状況に関する情報を比較検討した。その結果、7月7日の秋田県の団体の夕食、7月5日の横浜市の団体の昼食、6月28日の高知県の団体の夕食、そして7月6日の広島県の団体の夕食に同一のレストランが利用されていたことが判明し、このレストランが原因施設である可能性が考えられた。このことから、さらに、各地方衛生研究所で患者から分離されたETEC O169:H41計22株のXbaI、SpeI、およびNotIパルスフィールド電気泳動(PFGE)パターンについて比較検討した。その結果、分離株のXbaI、SpeI PFGEパターンはいずれも非常に類似していること、また、NotI PFGEパターンはA、B、Cの3種類に分類され(図1)、供試株22株のうち18株のパターンがBであることが明らかとなった(表1)。これらの事実は、異なる4団体の患者が共通の感染源に由来するETEC O169:H41に感染した可能性を示唆しており、4団体が共通して利用したレストランが本事例の原因施設であるとする可能性を支持するものと考えられた。

今回の事例では秋田県、横浜市、広島県、高知県の地方衛生研究所が協力して互いに情報および分離株を交換した結果、原因施設を推定することが可能となった。患者発生が複数県にわたる広域食中毒が発生した場合、地方衛生研究所が互いに連携をとることが原因究明に際して重要であると考えられた。

秋田県衛生科学研究所
八柳潤 齊藤志保子 木内 雄 鈴木陽子
横浜市衛生研究所
山田三紀子 武藤哲典 鈴木正弘 北爪春恵
広島県保健環境センター
小川博美 佐々木実己子 竹田義弘
高知県衛生研究所
絹田美苗 石井隆夫 安岡富久 西岡靖二
高知県中央保健所
秋田 豊 坂井長勝 小松照子 矢野祐一
池野宏彦 大森真貴子 小松隆志

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