海外渡航下痢症患者からのウイルス分離−愛知県
本県では、海外旅行者が国外で感染し、国内に持ち込むウイルスの実態を把握する目的で、名古屋検疫所名古屋空港支所と共同で、1983年から継続して下痢症患者からのウイルス分離を行っている。
調査対象は、1994年12月〜1997年3月の間に名古屋空港へ到着した国際線の乗客で、帰国時に下痢を申告し、細菌検査がなされた者のうち、ウイルス検査に必要な量の糞便が採取できた人である。
被検者数は1,532名で、渡航先はインドネシア(532名)、タイ(287名)、マレーシアおよびシンガポール(87名)、マレーシア(76名)、シンガポール(58名)、フィリピン・香港の順で東南アジアが中心である。
ウイルスの検出には、HeLaおよびRD-18S細胞を併用した組織培養法によるウイルス分離、ロタウイルスの検出を目的としたラテックス凝集法および小型球形ウイルス(SRSV)を目的とした電子顕微鏡による検査を行った。
ウイルスは、23名(1.5%)から24株が検出され、各種エンテロウイルス抗血清を用いた中和反応により18株が同定され、同定不能は2株であった(表)。またSRSVについてはすべて陰性であった。
エンテロウイルスと同定された18株を愛知県のサーベイランス事業ウイルス検出成績と対比すると、コクサッキー(Cox.)B5、Echo 25以外の16株(67%)は同時期に本県で分離されたことがないか、あるいは分離頻度のきわめて低いウイルスで、特にCox.A20 、Echo29は全国的に見ても、最近5年間に分離されたことのないウイルスである。また、Cox.A24の分離は最近の半年間に集中しており、以前千葉県で流行した変異株(89E-385)の抗血清でのみ中和された。本ウイルスは、急性出血性結膜炎の原因ウイルスとして報告されており、今回の分離株について下痢症との関連や過去の分離株との違いは現在検討中である。
このように、海外旅行者は絶えずウイルスを持ち込んでいると推測されるので、何らかの条件によりわが国の小児のなかにウイルスが浸淫し、新たな流行ウイルスとなる可能性があるので、今後の動向に注意を払うべきである。
愛知県衛生研究所
都築秀明 山下照夫 小林慎一 栄 賢司 鈴木康元
名古屋検疫所名古屋空港支所
城 敬一郎 山田豊範 林 佳雄 糸井正人 大須賀雅子