海外新リゾート地帰りの重症マラリアの1例
円高の割安感や自由時間の増大を背景に海外旅行者が増加している。旅行者もありきたりの場所に飽きて、より豊かな自然が残る新しいリゾート地を選ぶようになっており、その増加はさらに新しいリゾートホテルの開発をもたらせている。1996年に渡航した1,669万人のうち数万人がこのような新しいリゾート地を訪れたと思われる。
1997年5月21日、ゴールデンウイークにインドネシア・ビンタン島を訪れた37歳の日本人男性が熱帯熱マラリアと診断された。この患者は5月18日に、発熱をともなう腹痛・水様性下痢を主訴として来院し、解熱剤と整腸剤が投与されていた。その後、3〜4時間毎の高熱の症状が改善せず、さらに5月20日に肝脾腫が指摘され、またCRPとESR強陽性、血小板減少とFDP高値であることから重症感染症に伴うDICが疑われ緊急入院となった。この間、便培養も陰性で寄生虫も検出されず発熱と下痢の原因が不明であった。問診にて、4月30日〜5月5日までビンタン島に滞在していたことが判明し、5月21日、鏡検によって熱帯熱マラリア原虫が検出された。5月21日の血液塗抹標本では感染赤血球の割合は20%に達し、貧血、ビリルビン増加、血小板減少など患者が非常に重篤な状態であったので、濃厚赤血球輸血(4単位)とキニマックス静注(400mg、2回)をおこない、5月22日からは硫酸キニーネ内服(1.5g/日/分3、7日間)に変えた。しかし、感染赤血球割合は 0.8%に低下後、5月22日午後再び13.1%に上昇した。患者が嘔吐で硫酸キニーネの内服ができなかったことを知り、硫酸キニーネをカプセルに入れて内服させた。5月24日の血液塗抹標本では感染赤血球の割合が 1.7%であったが、多くの原虫は変性していた。その後、感染赤血球の割合が減少したが、マラリア再燃を懸念して5月31日のPCRで原虫陰性を確認後、6月9日退院となった。
ビンタン島は、インドネシアとはいえシンガポールから軽飛行機で30分で行くことができ、その地の利を生かして新しいリゾートホテルがつくられた。本患者が滞在したビンタン島は15年前までは熱帯熱マラリアの浸淫地であった。今日この地のマラリアの感染率は低いといわれている。しかし、本年5月にインドネシア人40人が感染し2人が重症となった集団発生が起きている。患者には虫などに刺された記憶はなく、同行した患者の妻はマラリア症状を呈していない。また患者は旅行社からマラリアがあるとは聞いていなかった。
1996年11月、インドネシア・ロンボク島を旅行したスウェーデン人旅行者24人中4人が熱帯熱マラリアに感染した(PROMED/EDR 1996-12/20)。ロンボク島はバリ島の東に位置しており、ともに日本人旅行者が多く訪れる島であり大手のホテルがある。現在のバリ島のマラリア感染率は低いが、ロンボク島はいまだ熱帯熱マラリアと三日熱マラリアの比較的高い感染率を保っている。これら新リゾートホテルに短期でも滞在する際には蚊に刺されないように注意を呼びかける必要がある。
東海大学医学部感染症学 永倉貢一
(E-mail nagakura@is.icc.u-tokai.ac.jp)
東海大学医学部第6内科
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